人ならざる者、神のうち

坂井とーが

1 とおりゃんせ(脚本)

人ならざる者、神のうち

坂井とーが

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〇病院の廊下
  コツ コツ コツ──
  人ならざる者を見ることは、昔からよくあった。
???「うう・・・」
坂井とーが「・・・・・・」
坂井とーが「すみません。ちょっと通してください」
  気にしていては切りがない。
  そういうものは、いるのが当たり前なのだ。

〇実家の居間
  幼いころ、私には不思議な友達がいた。
  それは、大人がいるときには現れない、私だけの秘密の友達。
坂井とーが「おともだちさーん。 今日もいるのー?」
  ずずず・・・
おともだち「ここにいるよ」
坂井とーが「あっ、いた。 今日は何して遊ぶ?」
おともだち「なにして あそぶ?」
坂井とーが「じゃあ、鬼ごっこね!」
坂井とーが「タッチ。 あなたが鬼っ!」
おともだち「おに・・・」
  それは、一人っ子の私のよい遊び相手になってくれた。
  いつも夕方まで遊び、日が暮れるとそれは山へと帰っていく。
  私はそんな奇妙な友達の存在を、何の疑問も持たずに受け入れていた。

〇神社の本殿
  その友達がいたのは、私がもうすぐ七才になる頃だった。
坂井とーが(七五三なんてめんどうだな。早く家に帰って遊びたい・・・)
母「冬芽。つまらなさそうな顔しないの。写真撮るんだから、笑って!」
坂井とーが(早く終われ)
父「次はお父さんと撮ろう」
坂井とーが「疲れた・・・ もういいでしょ。帰ろうよ」
母「もう。せっかくおめでたい日なのに」
坂井とーが「何がおめでたいの?」
父「七才まで生き延びられたことだよ」
坂井とーが「??? 七才までに死ぬ子なんていないよ」
父「現代ではそうだね。でも、昔の人は、ちょっとした切り傷とか、風邪をこじらせたとかで死んでしまったんだ」
坂井とーが「へぇ」
母「・・・・・・」
父「『七つまでは神のうち』」
父「昔の人はそう言ったんだ。七才までの子供は体も未熟で、いつ死んで神様の元に帰ってしまうかわからない」
父「だから子供は、あの世に所属する存在――つまり『神のうち』なんだ」
父「人は七才まで育って初めて、「人間」になると考えられていたんだよ。七五三は、子供が人間になったお祝いだ」
坂井とーが「わたし、もうすぐ七才だから・・・」
坂井とーが「七つまでは神のうち。 わたし、まだお化けなんだ!」
母「冬芽。お化けはとっても怖いのよ。冬芽のことを食べちゃうかもしれない」
坂井とーが「怖くないよ。もし本当にお化けが出たら、お父さんとお母さんの方が怖がっちゃうよ」
母「・・・どうしてこうなっちゃったのかしら」

〇実家の居間
おともだち「とーが、とーが・・・」
坂井とーが「あ、おともだちさん。今日は何して遊ぶ?」
おともだち「ついて おいで・・・」
坂井とーが「外に行くの? じゃあ、お母さんに言わないと」
おともだち「はやく、はやく・・・」
坂井とーが「えー。怒られるよ」
  そう言いながらも、私はそれに付いていった。
  子供にとっては、親との約束を守るより、友達と遊ぶことの方が大切なのだ。

〇けもの道
  それは山の中に入っていった。人がひとり、ようやく通れるほどの細道だ。
坂井とーが「ねえ、これはどこへ行く道なの?」
おともだち「ついて おいで・・・」
坂井とーが「道に迷っちゃうよ」
おともだち「へいきだよ・・・」

〇けもの道
坂井とーが「あ、日が暮れてきた。私もう帰る。また明日遊ぼうよ」
おともだち「う・・・」
坂井とーが「・・・・・・」
坂井とーが「帰り道、こっちだよね?」
おともだち「こっち・・・」

〇屋敷の門
母「冬芽! 冬芽!」
母「どうしよう。冬芽がどこにもいないの。迷子になったのかしら。 それとも、まさか──」
父「友達の家にでも行ってるんじゃないのか?」
母「そんなの、片っ端から電話したわよ!」
母「もう待てない。警察に電話しましょう」
父「ちょっと待って。 もし騒ぎを大きくして、間違いだったら・・・」
母「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 連れ去られたかもしれないのよ!」
母「もしもし。警察ですか?」

〇けもの道
警察官「冬芽ちゃーん!」
父「冬芽! 冬芽っ!」
母「お願い、無事でいて・・・!」
  数日後、両親の願いもむなしく、山で獣に食い荒らされた子供の死体が発見された・・・

〇葬儀場
母「うう・・・ 冬芽。どうして・・・」
村の人「この度はご愁傷さまでした。心からお悔やみ申し上げます」
母「・・・・・・」
村の人「可哀想に。坂井さん、すっかりやつれた顔をして」
村の人「体は獣に荒らされてバラバラだったんですって」
村の人「まぁ、酷い。 なら、あのお棺の中には──」
村の人「可哀想にねぇ」

〇実家の居間
父「ああ、やっと終わったな・・・」
母「・・・・・・」
父「大丈夫か?」
母「・・・あなた。私、もう死ぬしかないんだわ」
父「何を言うんだ!?」
母「だって、冬芽がいなくなったら生きている意味がない」
父「やめてくれ。お前まで行ってしまったら、俺は何のために生きていけばいいんだ」
母「一緒に死にましょう。あの子と同じところに行くの」
父「・・・俺たちは疲れてるんだ。 少し休もう」
「――お父さん、お母さん」
母「冬芽!?」
母「あなた、今、冬芽の声がした! 帰って来たんだわ!」
父「待て、行くな! 冬芽はもういないんだぞ!」
母「あなた、離して!」
坂井とーが「・・・お母さん」
「冬芽!?」
母「ああ・・・」
坂井とーが「ただいま──」
「・・・・・・」
「冬芽っ!」
母「よかった。心配したのよ。私たち、あなたが死んでしまったのかと思って・・・」
坂井とーが「山で迷子になっちゃったの。 怖かった・・・」
父「もう大丈夫だよ。怪我はないか? 念のため病院に──」
父「――いや、やめよう。 それより、お腹が減っただろう。何が食べたい?」
坂井とーが「おなか、減ってない」
母「そう。疲れてしまったのね。 今日は寝なさい。お母さん、朝まで一緒にいてあげるから」
坂井とーが「・・・うん!」
坂井とーが「ねえ、今日は誰かのお葬式だったの?」
母「・・・!」
父「いや・・・ よその子が、山で亡くなったみたいなんだ」
母「あなた、警察に連絡しておいて。 うちは関係なかったのよ。きっとあの子のご両親が心配しているわ」
父「・・・ああ、そうだな」
坂井とーが「?」

〇山間の集落
  その後、警察がいくら調べても、女児の死体の身元はわからなかった。
  ただ、死体が見つかった山には、何の動物のものかわからない、大量の血痕が残っていたという・・・
  それからしばらくして、私たちは都会に引っ越すことになった。
父「きっとこの村の人たちには、受け入れてもらえないだろうから・・・」
坂井とーが「?」
  私が『おともだち』と会うことは、二度となかった。

次のエピソード:2 残酷な子供たち

コメント

  • 戻ってきたトーガちゃんは何か異質な感じがする…!
    人骨も気になります。

  • 目が…赤く…
    しかし冒頭の大人な姿も赤い…変生したけど成長はする?
    完全に人間を辞めた訳ではない…?

    まさにプロローグ、続きが気になりました

  • お葬式の後に帰ってきたトーガちゃんの目が赤くなっていた。これは明らかに、人ならざる者でしょう。これからのトーガちゃんの活躍が見たいな。

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