情と優しさと愛(脚本)
〇綺麗なダイニング
『嘘なんかついていない』
──涼太はそう言った
綾瀬杏奈「ひゃーっ! 遅くなっちゃった!ごめん!」
古城玲菜「子供たち、ぐっすり眠っているから慌てなくても大丈夫よ」
綾瀬杏奈「ごめーん!本当に助かったわ! あの人、本当にしつこくて」
古城玲菜「・・・大丈夫?」
綾瀬杏奈「大丈夫も何も・・・」
綾瀬杏奈「『やり直せないか?』って! 今さら!」
古城玲菜「えー」
綾瀬杏奈「結局、あの女は、両親の勧めで田舎の資産家と結婚したみたいで」
古城玲菜「け、結婚!?」
綾瀬杏奈「・・・あ、年の離れたおじさまとね」
綾瀬杏奈「つまり、あの人は捨てられたみたいで」
綾瀬杏奈「・・・」
古城玲菜「あんな事があったのに、 河村部長の事。許せるの?」
古城玲菜「妊婦の杏奈を置いて、 追っかけて行った男よ?」
綾瀬杏奈「・・・」
古城玲菜「杏奈!」
綾瀬杏奈「う、うん。 わかってる。わかってるんだけど・・・」
綾瀬杏奈「・・・ただ、子供たちの為には、お父さんは必要かなって」
綾瀬杏奈「・・・」
綾瀬杏奈「特に、真也は男の子だし・・・」
古城玲菜「・・・」
古城玲菜「まだ、好きなのね」
綾瀬杏奈「・・・そ、うじゃなくて、」
綾瀬杏奈「シングルマザーはやっぱ大変だなって この三年の間でよく学んだから・・・」
古城玲菜「・・・」
綾瀬杏奈「それに・・・」
綾瀬杏奈「『やっぱりあなたは、単なる通りすがりの女だったのよ』って」
綾瀬杏奈「あの女に思い知らせる必要もあるでしょ?」
綾瀬杏奈「これだけ引っ掻き回しておいて」
綾瀬杏奈「自分だけ、知らない場所で勝手に幸せになってもらったら困るのよ」
古城玲菜「そ、その写真は!」
綾瀬杏奈「・・・」
綾瀬杏奈「そう。あの時の写真」
綾瀬杏奈「これを、あっちの旦那さんが見たら どう思うかしらね」
綾瀬杏奈「・・・」
綾瀬杏奈「なーんてね!」
綾瀬杏奈「昼ドラだったら、こんな感じ?」
古城玲菜「ビックリしたー」
綾瀬杏奈「とにかく、焦らずに、しっかり考えてみる」
古城玲菜「そうね。杏奈の人生だもんね。 どっちにしろ、私は応援するわ!」
綾瀬杏奈「ありがとう!」
〇綺麗なダイニング
河村部長の事は
文彦からも聞いていた
確かに、河村部長とその部下は
長い間付き合っていたようだったが
その関係は、杏奈と付き合う前に
既に終わっていた、と。
古城文彦「河村部長は、良くも悪くも 人が良いんだよな」
古城文彦「結局、あの部下とは不倫はしていなかった訳だし。遺書の内容も彼女の妄想だろ?」
古城文彦「駆け落ちしたって言われた時も、精神が病んで暴走している相手を止める為だったって聞いたよ」
古城文彦「でも、皆んなを守ろうとして、いろいろな事が裏目に出ちゃって」
古城文彦「・・・」
古城文彦「「情』と『優しさ』と『愛』って、どう見分ければ良いんだろう・・・ね」
〇テラス席
杏奈も、相手の過剰な挑発に耐えられず
『関係は続いていた』と疑っていた。
でも、本当は、心のどこかでは
河村部長を信じていたのかもしれない。
ただ、「好き」だけでよかった。
その「好き」が、こんなにも
こんがらがるだなんて。
倉島昇「いやぁ、焦った、焦った!」
倉島昇「奥さんと会った事、軽く聞いていただけだったから、内緒だったとは思わなくて」
倉島昇「でも、良かった! 大事に至らなくて」
古城玲菜「大丈夫。本当に黙っていて欲しいことは、軽い感じでは言わないから」
綾瀬杏奈「特に昇は足立さんの味方だから。 危ないしね」
倉島昇「いやいや、足立部長とは仕事上のお付き合いだから」
倉島昇「プライベートはお二人の味方ですよー」
「はい、はい」
倉島昇「心がこもってないなー」
古城玲菜「その流れで、杏奈と一緒に学校で声を掛けた時の事を話しちゃったんだけど、ごめんね」
倉島昇「えっ!? 学校にも行ってたの!?」
綾瀬杏奈「それくらい、全然大丈夫よー!」
倉島昇「えー、なんで、どうして? いつー?」
綾瀬杏奈「昇は黙ってて!」
倉島昇「・・・はーい」
古城玲菜「さすがに、奥さまと二人っきりで会った時の事は、伏せておいた方が良いと思って」
古城玲菜「奥さまは、あの日 足立さんにバレないように必死だったから」
綾瀬杏奈「だよねー」
綾瀬杏奈「でも、学校に見に行った事は バレて大丈夫だったの?」
古城玲菜「うん。良い機会だから、モヤモヤしている事を言っちゃった!」
古城玲菜「『嘘つき!』って」
倉島昇「うわー」
綾瀬杏奈「昇も気をつけなさいよ!」
倉島昇「いや、僕は彼女いないんで!」
古城玲菜「そうなの?」
倉島昇「はい・・・」
倉島昇「もう、この年になると、近づいてくる女子が皆んな目がギラギラしてるんすよ」
綾瀬杏奈「あー。もう、最初から 『結婚相手』探してるヤツねー」
倉島昇「『周りが結婚し始めた』 『ひとりじゃ寂しい』 『家を出たいけど経済的に無理』」
倉島昇「それって、手段っぽくて。 僕じゃなくても良さそうじゃ無いですか」
倉島昇「・・・はぁー。無理無理!」
倉島昇「だから、杏奈さんや玲菜さんくらいですよ! 一緒に楽しくメシ食えるのは」
古城玲菜「それもどうかと・・・」
綾瀬杏奈「そうね。楽してると、成長しないわよ!」
倉島昇「手厳しいなー」
倉島昇「で、話は戻りますが、 足立部長。どんな嘘ついていたんすか?」
綾瀬杏奈「ほら!そういうとこ!」
倉島昇「えー。この質問、マズかったっすか?」
古城玲菜「大丈夫よ。 大した事じゃないし」
綾瀬杏奈「え!聞きたい!聞きたいー!」
倉島昇「なーんだ。 杏奈ちゃんも知りたいんじゃないっすかー」
古城玲菜「・・・」
古城玲菜「足立さんがついていた嘘っていうのはね」
ネクタイリングの事なの
相変わらずの細密なオトナ心情描写に見入ってしまいました。ベストな相手とベストな恋愛・結婚生活を真っ直ぐ目指すという若者の恋愛ではなく、杏奈さんの愛情・生活基盤・子育て・憎悪・プライドなどが入り混じった感情、タマリマセン!そして若者とオトナの端境期の昇さんのキャラ、とっても癒されますw
私は知っている。杏奈の冗談が本気かもしれないことを…。(※ネクタイリング1参照)
この作品キャラで杏奈が1番コワイと思っているのは私だけでしょうか?
好きとか恋とか情とかの境界線って、ホントに分からないですよね。名言出た!