読切(脚本)
〇女の子の一人部屋
日花凜(ひかり)「手紙、受け取ってくれてありがとう。ラブ レターなんて初めて書いたんだけど、うまく書けてたかな?」
日花凜(ひかり)「ねぇ、有吉くん。これまであまり話したことなかったから、有吉くんには、もっと私のこと知ってほしいな」
日花凜(ひかり)「私、古典が大好きなの。特に好きな古典は、「方丈記」」
日花凜(ひかり)「作者は鴨長明という人で、私は「かもちょう」って呼んでるの」
日花凜(ひかり)「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」
日花凜(ひかり)「淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」
日花凜(ひかり)「つまり、水の流れは絶えないが、同じ水ではなく、泡沫は長くとどまらないっていうこと」
日花凜(ひかり)「失敗したり恥をかいたりしても、泡と消えてくれるってことだよね。すごく前向きになれる言葉だと思わない?」
有吉くん「・・・」
日花凜(ひかり)「有吉くんは、あまり古典が得意じゃないのかな。じゃあ、これからいっぱい教えてあげるね」
日花凜(ひかり)「有吉くんの好きなものはやっぱりサッカーかな?このあいだの試合、かっこよかったよ。私が応援してたの、気づいてくれたかな」
日花凜(ひかり)「たくさん人がいたし、気づかないよね。私、目立たないし。よく言われるの。名前はひかりなのに、全然輝いていないって」
日花凜(ひかり)「だから、うれしかったの。私が日直の時に、有吉くんが重たい資料を運ぶのを手伝ってくれたこと」
日花凜(ひかり)「忘れてないよ。両手に荷物を抱えて歩いていたら、後ろから声かけてくれたの。「手伝うよ。」って」
日花凜(ひかり)「それで有吉くんのこと好きになったの。その日は舞い上がっちゃって、全然眠れなかったな」
有吉くん「・・・」
日花凜(ひかり)「それで、手紙にその時のことを書いて、好きですって告白したの。すごくどきどきして、心臓の音が聞こえないか心配したよ」
日花凜(ひかり)「手紙を渡すかすごく悩んだけど、「方丈記」の言葉を支えに、勇気を出したんだ」
日花凜(ひかり)「手紙を渡してよかった。だって、手紙を読んだ有吉くん、すごく笑ってくれたから」
日花凜(ひかり)「彼女がいるって。あの時は、彼女と間違えたんだって」
日花凜(ひかり)「後姿が似てたから、間違えて声かけたんだよね」
日花凜(ひかり)「私も笑っちゃった。ふふふ」
日花凜(ひかり)「有吉くんはそんな失敗するんだね」
日花凜(ひかり)「でも大丈夫だよ」
日花凜(ひかり)「失敗したり恥をかいたりしても、それから好きな人を殺してしまっても、泡と消えてくれるから」
日花凜(ひかり)「すごく前向きになれる言葉だと思わない?」
日花凜(ひかり)「ふふふ。ねぇ、有吉くん」
有吉君が終始無言だから「あれ」と思ったらやっぱり。大きいことをやらかすのはいつも地味で真面目で目立たない人間だという恐ろしさを堪能しました。ポジティブ殺人のため「方丈記」を都合よく解釈されて、鴨長も天国で「ちょ待てよ、それちゃうて」て焦りそうですね。
いやいや、「方丈記」の冒頭文をポジティブに解釈しすぎww 教養いっぱいの文学少女の恋物語と思って読んでいたら、とんでもないしっぺ返し食らいました!
ひ、ひぇー!!消えてない消えてない!そこに(死体として)残ってるぅー!!!!!!ってなりました。
可愛い恋話かと思いきや・・・インパクトある話でした!!