エピソード1(脚本)
〇法廷
法廷は異様な熱気に包まれていた。
傍聴席の人たちは歓喜に沸いてたる。
その視線は中央にいる一人の女の子に注がれていた。
裁判官「静粛に。それでは判決を言い渡す。 罪状、魔女であることにより、被告ローズ・ウィットレイを死刑に処す」
ローズ・ウィットレイ「そんな、私は悪いことなんかしてない」
警官「おとなしくしろ」
横にいた警官からが鎖を引くと、手錠が冷たくローズの手首に食い込んだ。
怪しい男「ふふふ」
一人の怪しげな男が、傍聴席からその判決を見届けると、すっと席を立ち出ていった。
〇綺麗な港町
緩やかな石畳の坂を車輪が転がっていく。
三人横に並んで歩けるくらいの道幅で、両側には石造りの民家や店が立ち並んでいる。
大きな町だった。温暖な気候で漁港があるため、活気に溢れている。
道が緩やかなカーブに差し掛かると、ロイは、ブレーキを少し強めた。
自転車は、まだ買って間もなく、傷ひとつない。自慢の愛車だ。乗っていると、このままどこまででも行ける気がしてくる。
快晴の空を見上げると、カモメが風に乗って気持ち良さそうに舞っていた。
海から運ばれてくる湿った空気は、しばし夏の暑さを忘れさせてくれる。
もうすぐで見えてくる。坂を下りきると広場になっていて、その先が学校だ。
その時、突然後ろから悲鳴が聞こえ、同時に大きな爆発音がした。
振り返ると、何かがこっちへやって来る。
道幅いっぱいの大きさで、車輪がついている。
ロイ・パーカー「何だあれ!馬車か?」
だが、馬の姿は見当たらなかった。すごい速さで止まる気配はまるでない。ロイは、ペダルを漕いだ。
振り返ると、すぐそこまで迫っている。中に男の子が乗っているのが見えた。
ロイ・パーカー「こっちに来るな」
レイン「制御出来ないんだ」
自転車の後輪にぶつかると、そのまま押し出されて広場に出た。目の前に金色に輝く市長の像が見える。
ロイ・パーカー「わあぁぁーぶつかる」
ロイは自転車を蹴った反動で横に飛び降りる。自転車は、そのまま像をなぎ倒し、噴水にぶつかって止まった。
ロイ・パーカー「痛ってー」
ロイは、ムクッと立ち上がった。
ロイ・パーカー「あーあ」
辺りは水浸しになっている。
変な乗り物から男の子が出てきた。
レイン「いててて」
頭を押さえている。
ロイ・パーカー「何すんだ」
レイン「怪我はなかった?」
ロイ・パーカー「俺の自転車どうしてくれるんだよ」
レイン「え?」
自転車のフレームが飴細工のようにひん曲がり、前輪は明後日の方向に転がっていた。
レイン「ごめん」
と、その場に力なく倒れた。
ロイ・パーカー「おい、大丈夫か?」
どうやら、気絶したようだ
ロイ・パーカー「まったく」
ヒューズ刑事「はい、どいたどいた」
ヒューズ刑事「またこいつか。おい、起きろ」
倒れた男の子を見て言った。
ヒューズ刑事「あの・・・」
ヒューズ刑事「あ?見かけぬ顔だな。君はレインの知り合いかね」
どうやら、彼はレインと言う名前らしい。
ロイ・パーカー「いえ、違います。昨日この町に引っ越してきたばかりで。あれ」
ロイは残骸とも言うべき自転車の一部を指差した。
ヒューズ刑事「あぁ、あの自転車の持ち主か」
ロイ・パーカー「はい」
ヒューズ刑事「災難だったね。こいつには関わらない方がいい。なんせこの町の嫌われ者だからな」
ロイ・パーカー「はぁ・・・」
ヒューズ刑事「住所を教えてくれ。詳しいことは、後日また連絡する」
ロイ・パーカー「あの、弁償とか」
ヒューズ刑事「弁償?あはははは。あいつが生きてたらな。あぁまったく」
ロイ・パーカー「あ!」
ロイは大切なことを思い出した。
ロイ・パーカー「学校に行かなきゃ」
ヒューズ刑事「あぁ、あそこ学校の生徒か」
ロイ・パーカー「それじゃ、失礼します」
ヒューズ刑事「おい!待ちなさい」
呼び止める声も気にせずロイは走り出した。
〇校長室
ベネット先生「初めまして、ロイ。私はベネットよ」
学校に着くと担任の先生が出迎えてくれた。
ロイ・パーカー「初めまして、ロイ・パーカーです」
ベネット先生「早速、教室に行きましょう」
ロイ・パーカー「はい」
〇ファンタジーの教室
教室に入ると、既にみな席に着いていた。
ベネット先生「紹介します。今日からみんなの新しい友達になるロイよ」
ベネット先生「まだ昨日この町に来たばかりで、分からないことも多いと思うから、優しく教えてあげてね」
ベネットは、窓側の一番後ろの席を指差した。
ベネット先生「あそこに座って」
ロイ・パーカー「はい」
ロイは、席についた。
レイモンド「僕はレイモンド。よろしく」
〇中世の街並み
街角では、様々な物を売っている。果物や服や、怪しげな種の入った陶器の壺。
馬車は、突然止まった。
ジェフ「どうした?」
おじさん「分かりませんちょっと、見てきます」
窓から外を覗くと道に数人倒れている様だった。おそらくダイナマイトを使ったのだろう。
近くの建物が破壊され道を塞いでいる。
帰って来た。
おじさん「どうやらブラッティーリリオンのしわざのようです」
ジェフ「またか」
ブラッティーリリオンとは、過激派の新興宗教団体だ。
彼らは、技術の進歩が本来持っている人間の気高さを奪っていると、今の文明社会を否定する主張を繰り返していた。
おじさん「回り道しますか?」
ジェフ「いや、いい。歩いていく」
ジェフは、馬車を降り歩き出した。
〇西洋風の駅前広場
しばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。
入り口にはエドモント社と書いてある。
もとは工業用機械の開発をする会社であったが、内燃機関を開発を始め、ジェフはその噂を聞きつけ買収したのだ。
ジェフが中に入ると、愛想のいい顔をした男がやって来た。
ジェフ「フィップス君、進捗具合はどうだね?」
フィップス「ええ、まぁ、なんといいますか・・・」
ジェフ「なんだその煮え切らない言い方は」
フィップス「エンジンを小型化すると、やはり出力が小さくなってしまうわけでして」
ジェフ「それを何とかするのが君たちの仕事だろ。どれだけ金をつぎ込んでると思ってるんだ」
フィップス「はい、申し訳ございません」
二人が廊下を進むと、けたたましくい重低音が部屋の中から聞こえてきた。
ジェフ「これか」
フィップス「はい。今開発中のE 32モデルです」
ジェフ「ずいぶん小さくなったじゃないか」
フィップス「はい、ただ回転数をあげるとですね・・・」
突然、エンジンが爆発し、煙が上がった。
フィップス「消火器を持って来い」
ジェフ「何をやってるんだ。もう時間はないんだぞ」
フィップス「はい。出向までには何とか致しますので」
ジェフ「いいか、何としても完成させさせろ。いいな」
フィップス「はい、かしこまりました」
ジェフ「全く、どいつもこいつもボンクラばかりだな」
ジェフは肩をすくめた。
〇洋館の一室
学校が終り、家に着いたのは、午後5時。
ロイ・パーカー「ただいま」
おばば「おかえり」
祖母は、夕食の仕度をしている様だった。
ロイは、祖母の家に居候している。
ノックの音がした。
玄関の扉を開けると、今朝見た警部が立っていた。もちろん訪ねて来た理由は分かっている。ばつが悪そうに、どうぞと招き入れた。
ヒューズ刑事「初めましてヒューズです」
おばば「あら、刑事さん。ロイが何か悪いことしたの?」
ヒューズ刑事「いえいえ、そうではないです」
ロイ・パーカー「今朝ちょっと事故に巻き込まれて」
ロイが間に入った。
おばば「事故?」
ロイ・パーカー「大したことはないよ。気にしないで」
おばば「ならいいけど」
と、キッチンに行った。
ヒューズ刑事「困るんだよな、勝手に何処かへ行かれると」
ヒューズは、人差し指でテーブルをタップした。
ロイ・パーカー「はい、すみません」
ヒューズ刑事「ほら、君にぶつかった、彼は奇跡的に軽症だったそうだ。ほんと悪運の強いやつだよ」
ロイ・パーカー「それは、なによりです」
ヒューズ刑事「それより、君が気になっているのは、自転車だろ。場所を教えるから、暇なときに行ってみるといい」
ロイ・パーカー「はい」
ヒューズ刑事「あいつは、死んだじいさんが資産家だから、金はいくらでもある。だからあんなくだらない道楽していられんだよ」
ヒューズ刑事「こっちは必死に働いてるというのに。つくづく人生がいやになるよ。用件はそれだけだ。んじゃ、これで」
紙に簡単な地図を描き残し、帰っていった。
おばば「ロイ、危ないことはやめなさいよ。私はただでさえ老い先短いのに、これ以上寿命が縮まったら大変なんだから」
ロイ・パーカー「うん、気をつけるよ」
〇洋館の一室
次の日の朝。朝食を食べながら、ロイは新聞を開いた。昨日の事故が載っている。
「蒸気機関が噴水破壊。新技術は人類の救世主か、それとも脅威か。馬車協会は、より一層蒸気機関の規制に力を入れることだろう」
ロイ・パーカー「あの変な乗り物、蒸気で走ってたのか」
蒸気機関は、水を熱して出た蒸気の圧力を動力とする近年生まれた新技術だ。
産業革命以降、少しずつ実用化が進められている。
だが、みながそれに肯定的というわけではない。特に馬車協会は、その座を奪われまいと、規制する法律を作った。
マスコミは、初めこそ人類の進歩と讃えたが
ある時から手のひらを返し、命を奪う悪魔のようだと醜聞する。
つまり、暇をもて余した人達を引き付ける格好の餌食というわけだ。
さらに、その下の記事に目が留まった。
「世界初の大型飛行船出向。エンジンを開発しているエドモント社を買収したジェフ・パーカー氏が、
飛行船に民間人を乗せ初飛行をすると発表。今後、世界各国を回る予定とのこと」
ロイ・パーカー「こまち街にも来るのか」
ロイの顔は、不満に満ちていた。
ジェフ・パーカーというのは、ロイの父親で、馬車協会の会長だ。
何より利益を優先するという父の姿を子供の頃から好きにはなれなかった。