堀田探偵シリーズ第二弾『魔法使いと音の無い雨が降る町』

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第九話 始まりの雨(脚本)

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〇空
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「なんてことだ」

〇役場の会議室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「この町がダムに沈む・・・なんて」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「住民の皆になんて言えばいいんだ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「なに、心配することはないさ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ダムは工程の多い事業だ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「『予備調査』から『実施計画調査』まで 十数年はかかる」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「次に住民への『補償交渉』 工事はその後だ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「2、30年は先の話だよ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「そうですね! その間に抗議活動や対策が出来れば」
有賀 双葉(ありが ふたば)「けど、気になりません?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「彼が私たちに言った言葉」

〇田舎道
国会議員「来月また伺います」
国会議員「住民の皆様と今後の生活について お話しする機会を作って下さい」

〇役場の会議室
有賀 双葉(ありが ふたば)「あれは『補償交渉』のことじゃ ないでしょうか?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「国が秘密裏に『実施計画調査』まで 終えているとしたら」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「まさか!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「住民に無断で測量なんてしていたら 問題になるだろう?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「聞いたことがあるんです」
有賀 双葉(ありが ふたば)「ダム建設には数十年の時間がかかる」
有賀 双葉(ありが ふたば)「国はその時間を短縮するために 手段を選ばないことがある、と」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「国土交通省がかい?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「噂、ですけどね」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「・・・」

〇空

〇役場の会議室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「議員には、次回我々が建設に 反対であることを伝えるとして」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「他に出来ることはないかな」
有賀 双葉(ありが ふたば)「署名運動はどうでしょう?」
有賀 双葉(ありが ふたば)「地域全体が建設に反対すれば きっと考え直してくれます」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「難しいだろうね」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ダムに沈まない近隣への影響は騒音程度だ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「他の町村にとっては 対岸の火事ということですか」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「そういうこと」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「しかも、ダムの発電で得られた電力は 周囲の地域に配布される」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「そんなメリットを他の町が 手放すとは思えないな」
有賀 双葉(ありが ふたば)「やる前から弱気になっちゃだめです!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「私たちの思いを伝え、 治水のやり方を聞けば」
有賀 双葉(ありが ふたば)「きっとわかってもらえます!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「こうしちゃいられないわ!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「私、近隣の町長さんのとこ、 回ってきます!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「前向きだな、彼女は」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ええ、僕らも見習わないといけませんね」

〇空
  それから数週間後

〇役所のオフィス
町役場 職員「町長、おはよう」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ああ。寺田さん」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ちょっと部屋で考え事してます。 何かあったら呼んで下さい」
町役場 職員「町長、大丈夫かね」
町役場 職員「双葉さんも最近忙しそうよね。 何かあったのかしら」

〇個別オフィス
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(近隣の町村も県知事も 『国が決めたこと』の一点張り)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(どうにもおかしい)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(まるで予め外堀が 埋められているような・・・)

〇役所のオフィス
有賀 双葉(ありが ふたば)「私、測量士の資格持ってるんです」
有賀 双葉(ありが ふたば)「それで町中の海抜高度を測ったら」
  今思えば不可思議だ
  彼女はどうして町の
  海抜高度なんて測定したんだ?

〇個別オフィス
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(防災マップを修正することが 就職アピールになると思えない)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(別の目的があった!?)

〇役場の会議室
有賀 双葉(ありが ふたば)「国が秘密裏に実施計画調査まで 終えているとしたら・・・」
  あの台詞も気になった
  まさか

〇個別オフィス
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(実は彼女は国土交通省の関係者で)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(疑われないように予防線を張った?)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(僕は馬鹿か。 双葉がそんなことするはずがない!)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「余計なことを考えてる暇があるなら 対策の一つでも考えないとな」

〇空

〇役場の会議室
佐々木 哲司(ささき てつじ)「双葉、遅いですね」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「確か今日は回るとこが多いと 言ってましたよ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「女性が一人で歩くには この辺りは暗いから心配ですね」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「車で行ったみたいですから 平気でしょう」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「天気も崩れてないですし・・・」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「えっ!?」

〇田んぼ
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「雨だって!?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「一体いつから降っていたんだ!?」

〇役場の会議室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「こうしちゃいられない!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「水路の安否が気になります」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん、僕少し見回りを」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「・・・」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん?  腕、離してくれませんか?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎、君を行かせるわけにはいかない」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「何の冗談ですか?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「早く行かないと」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「町の増水、危ないと思いませんか」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「だめだ。絶対に部屋から出るんじゃない!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「どういうことですか」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私は考古学者だ。 当然、この町の歴史も調べた」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「こんな大雨なのに無音・・・ 思い当たるのは一つしかない」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「これは『音無雨』だ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「音無雨?」

〇寂れたドライブイン
  それから哲司さんは僕に
  『音無雨』の伝承を教えてくれた

〇役場の会議室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん。いま令和ですよ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「雨で人が死ぬなんて、非現実的だ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「今の音は!?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「待て、勘九郎。出ては駄目だ!」

〇寂れたドライブイン
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「雨が降っているのに 雫を感じない!?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「うわあああっ!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎! 早く屋内に!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「く、来るな!」

〇寂れたドライブイン
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「消えた!?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎、大丈夫か?」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「今のは一体」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「なっ、なんだ!?」

〇田んぼ
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「畑が・・・!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「何が起きたんだ!?」
???「おーい。アンタ、危ねぇぞ!」
町民「ああ、町長さんか。 あんまり近寄るんじゃないよ!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「溝口さん! 何があったんですか」
町民「暴走した車が宮川さんちの倉庫へ 突っ込んだんだ」
町民「そんで倉庫にあった灯油缶に 引火して爆発したらしい」
町民「いま消防車呼んでるとこだ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「怪我人は?」
町民「幸い宮川んとこは市内に 出てたんで無事だ」
町民「だが車の運転手は・・・」
町民「うわっと! 危ねぇ! まだタンクが残ってやがったか!」
町民「この有様だ、運転手は無事じゃあ 済まないだろうよ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「何か飛んできたぞ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「これは双葉の・・・!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「双葉!」
町民「町長さん、危ねぇって!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎、どうした!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「離して下さい! あの車には双葉が!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「落ち着くんだ、勘九郎!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「いま中に入れば君まで死んでしまう!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「離して下さい!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「双葉! いま助けに──」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎。君は町長だろう!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「君が最初に倒れたら、町はどうなる?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「いま本当にやるべき事を しっかり考えるんだ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「・・・」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「すみません。頭、冷えました」
町民「町長、消防車来たぞ!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ここはお二人に任せます」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「このまま炎が広がって 山火事にでもなれば最悪だ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「僕は役所に戻り、 災害対策本部を立ち上げます!」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「頼んだぞ、勘九郎」

〇空

〇田んぼ
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「消防の皆様、そして町民の皆様の ご協力の甲斐あって」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「火事を最小限に抑えることが出来ました」
マーケット店員「いいぞー、町長!」
マーケット店員「本当に助かったわ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「皆さんもお疲れ様でした」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「改めて僕は皆さんがいるから この町の今があることを実感しました」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「これからもよろしくお願いします」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「では、そろそろ失礼致します」
町民「町長、ありがとう!」

〇個別オフィス
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ふう、疲れた」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(怪我人も出ずに済んだのは 不幸中の幸いか)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)(一人を除いて、だが)
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「どうぞ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「大丈夫か、勘九郎」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「てっきり家に帰ってると思ったら 出勤してるって聞いて・・・」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「大丈夫ですよ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「それより、遺体は?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ああ。鑑識の結果だな」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ガソリンと灯油の炎で ほとんど炭になっていたが」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「車のナンバーと焼け残った物から 双葉くんと考えてまず間違いないと」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「そう、ですか」

〇役所のオフィス
有賀 双葉(ありが ふたば)「おはようございます、有賀双葉です!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「町長さんはいらっしゃいますか!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「聞いて下さい! 絶対に損はさせませんから!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「今日はですね、トラクターの──」
有賀 双葉(ありが ふたば)「私、ここで働きたいんです!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「町長さんのところで働きたくて 音無雨町に来たんです!」
有賀 双葉(ありが ふたば)「・・・」
有賀 双葉(ありが ふたば)「今の完全に採用の流れでしたよね?」

〇個別オフィス
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「僕が副町長にしなければ 彼女は死ななかった」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「勘九郎、それは違う」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「双葉は言っていた。 私はこの町で、生き返ったのだと」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「生き返った?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「ああ。離婚でボロボロになった 自分が再生できたのは」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「この町で働けたおかげだと 言っていたよ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「そう・・・ですか」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「なあ、勘九郎。一つ頼みがある」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私を副町長にしてくれないか」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「えっ?」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私は君たちの仕事を 一番近くで見てきた」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「だから私は誰より双葉の仕事を 代わりに出来ると思う」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「いやしかし、哲司さんは 町内会の会長でもありますし・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「私はな、勘九郎。 迷惑かもしれないが・・・」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「君や双葉を子供のように思ってる」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「君が心配なんだ」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「双葉を失い、ダム建設の脅威も 目前まで迫っている」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「君まで失うことになったら 私はとても耐えられない」
佐々木 哲司(ささき てつじ)「だから、どうか私に君を 支えさせてくれないか」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「哲司さん」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ありがとう・・・ございます」

〇空
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「これが、哲治さんが 副町長になった経緯です」

〇役場の会議室
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「しかし、副町長になった途端、 彼は発掘を止めてしまいました」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「これは趣味だ、町が無くなれば 何の意味もないのだから、と」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「あ、あの・・・」
初刷 論(はつずり さとし)「ふだばさぁぁぁん!」
初刷 論(はつずり さとし)「うあああーーーー!」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「ええっと」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「すみません。彼、お話に すっかり入り込んでいたみたいで」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「事情はわかりました」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「私も一度佐々木さんと お話ししてみます」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「発掘が町のためになるとわかれば」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「心変わりするかもしれませんからね」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「助かります」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「では、失礼します。 ロンくん、行くよ」
初刷 論(はつずり さとし)「はいぃぃぃ」
志田 勘九郎(しだ かんくろう)「・・・」

〇車内
初刷 論(はつずり さとし)「町長さん、苦労されたんですねぇ」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「・・・」
初刷 論(はつずり さとし)「所長? どうしました?」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)「いや、何でもない」
堀田 晴臣(ほった はるおみ)(焼け焦げた死体、 急に趣味を止めた佐々木)
堀田 晴臣(ほった はるおみ)(やれやれだ)
堀田 晴臣(ほった はるおみ)(嫌な予感しかしないな)

次のエピソード:第十話 手紙

コメント

  • 大丈夫! これはコ○ンじゃないから
    死人は出てないはず!w
    堀田さんの行くところに死人は出ないはず!w

  • そういえば過去編だった…!と思うほど過去編に没入してました😆
    双葉さん…やっぱり😭でも、なんか…?
    佐々木さんの行動の変化も気になりますが…どう繋がってくるのか楽しみです!!

  • ダムの話1つとってもただ悲惨で可哀想というのではなく、全体最適の反対意見の視点もあるのが凄いですね…。過去編を経て登場人物たちの背景が強化されました…。こんなたくさんキャラ出して、しっかり行動線もあって、しかも嘘も吐いてるって、書いてて頭パンクしないですか…?ちなみに読む方は楽しいです😊

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