読切(脚本)
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
見せたいものがあると言って、友人を自宅に招いた。
友人が訪ねて来るなり、僕は、それを抱えて、突き出すように見せたのである。
友人「え、カツオ!?」
友人は、驚くように言った。
僕「こつこつ半年掛けて作ったんだ。抱き枕だよ」
友人「どうして?」
布製なので、生臭くはない。
パーツごとに分けて冷蔵庫に入れ、冷やすこともできる。
冷凍庫に入れた場合、魚市場で並ぶような丸々冷凍したカツオそっくりな見た目になり、
オツである。
それにしても、瞬時にカツオと答えた友人は、あなどれない。
友人「でも、さっきから、うっすらと、生臭さが漂っているような気がするんだけど・・・」
僕「気のせいだよ」
友人「死んだ魚の目って、田舎のトンネルみたいで、恐いよな・・・」
僕「そこも、意識した」
友人「どうして?」
僕「そういう部分も、リアルさを心掛けた結果かな」
友人「エラの隙間から、本格的な赤身がのぞいている気がするんだけど・・・」
僕「そこも、リアルさを心掛けた結果かな」
友人「そんな軽々と抱えられるわけないか・・・」
僕「抱えられるわけない」
そう言って、僕は、ジングルベルの歌をうたった。
友人は、きょとんとしていたが、今日は、クリスマスである。
うたい終わると、無言で、カツオの抱き枕を渡した。
友人「返す言葉が、見つからないな・・・」
僕「日頃から、お世話になっているぶん、せめてものお礼だよ」
僕は、大げさにうなずいた。
いいから、いいから、と言って、困惑する友人を、抑止(よくし)した。
クリスマスの朝、これが枕元に置いてあったら、さぞかし大きなサプライズになったろうが、
さすがに、そこまではできない。
クリスマスを信じようにも、もうとっくに大人だったし、無駄にセキュリティの高いマンションに住んでいる。
だが、信じていたいと願う気持ちはある。
どれだけ大人になったとしても、みんなの心には、クリスマスの奇跡がある。
枕元にプレゼントはないかな、などと、辺りを見回している。
サンタクロースは、日雇いかな。
靴下は、小さくないかな。
がちゃがちゃの景品は、何個までかな。
呼び捨てにしたら、失礼にあたるかな。
トナカイは、ソリに対して何頭までかな。
賞味期限とか、気にするタイプかな。
期限の長いほうを、選んでくれるのかな。
きちんと、手前から取るのかな。
保証とか、あるのかな。
げんかつぎとか、するのかな。
夜食は、食べるのかな。
貴金属は、ないのかな。
ハイブランドの品物は、ないのかな。
加湿器は、ないのかな。
株券は、ないのかな。
金券は、ないのかな。
現金は、ないのかな。
カツオの抱き枕は、ないのかな。
友人「ますます生臭さが際立つというか、寿司屋に卸したい気持ちになるんだけど・・・」
僕「そこは、まあ、な」
そこは、まあ、な。
メリークリスマス。
(了)
カツオの抱き枕をチョイスした理由…抱くには丁度良いかも?!
似たような形でオカメインコの抱き枕を使っているので、少し親近感が湧きました笑
(笑)なんでそのプレゼントのチョイス!?笑いがツボってしまって笑ってしまいました。短いお話しの中で上手にまとめられていてよかったです。
大人になってもクリスマスを信じていたい気持ちって心の片隅にありますよね。ただ、プレゼントが生々しいカツオの抱き枕というのがじわじわきます。