第9話 月の光(脚本)
〇川沿いの道
第二王子クレール「月神イーリャ・・・!?」
勇者マリー「あっちの世界の女神様が どうしてここにいるの?」
第二王子クレール「片方の神が世界を見守っているあいだ もう片方の神は聖地で眠っているはず」
勇者マリー「じゃあ、まさか・・・ ここが聖地?」
第二王子クレール「そんなはずはない!」
第二王子クレール「神の生まれ出る場所・・・聖地シャナは ガンディアの北部にある」
第二王子クレール「異世界に聖地があるなど そんなはずは・・・」
双生神イーリャ「その者の言うとおり ここは聖地などではない」
双生神イーリャ「シュガールを妹が支配している今 わたしは力を発揮できない」
勇者マリー「妹って、太陽神エグスキ?」
勇者マリー「けどシュガールって?」
第二王子クレール「わたしたちの住む世界のこと・・・か?」
双生神イーリャ「・・・そうだ」
双生神イーリャ「ガンディアの召喚士が この地とシュガールを繋いだことを幸いに」
双生神イーリャ「妹の目の届かないこちらの世界で わたしは神力を癒やしていた」
双生神イーリャ「すべては来るべき戦いに備えるため」
双生神イーリャ「勇者よ、わたしの・・・」
勇者マリー「あっ・・・すみません」
第二王子クレール「緊張感というものがないのか」
第二王子クレール「貴方は以前の議会でも・・・」
勇者マリー「やっぱ王子もお腹空きましたよね」
第二王子クレール「・・・・・・」
勇者マリー「近くにファミレスありますし そこで話しません?」
双生神イーリャ「・・・・・・ わたしはここから動くことはできない」
双生神イーリャ「月の力が強い場所でないと 身体を維持できないのだ」
勇者マリー「じゃ、そこのコンビニで なにか買ってきます」
勇者マリー「あ、でも 女神様って食べるんですか?」
双生神イーリャ「わたしには不要だ」
勇者マリー「王子、好き嫌いあります?」
第二王子クレール「・・・ない」
勇者マリー「じゃ、行ってきまーす」
双生神イーリャ「・・・あれが勇者か ずいぶんと・・・その」
双生神イーリャ「・・・のんきな女人だな」
第二王子クレール「・・・まあ リュテスにはいない性質の女性ですが」
第二王子クレール「勇気があるのは確かです」
双生神イーリャ「・・・・・・」
〇城の廊下
第一王子ミシェル「ありがとう、ヴァレリー 助かりました」
第一王子ミシェル「それにリゼットも」
騎士団長ヴァレリー「いいえ、こちらこそ 申し訳ありません」
第一王子ミシェル「え?」
騎士団長ヴァレリー「わたしどもはこれまで 殿下に無礼を働いてきました」
第一王子ミシェル「・・・いいんだ」
第一王子ミシェル「わたしのほうこそ、みんなに対して 壁を作っていましたから」
第一王子ミシェル「誰のことも信用しなければ 誰にも信用されない・・・」
第一王子ミシェル「そんなことにも 今まで気づかずにいました」
騎士団長ヴァレリー「母君への仕打ちを考えれば 当然のことでございます」
第一王子ミシェル「母・・・か」
騎士団長ヴァレリー「戦場での補佐はわたしにおまかせください」
騎士団長ヴァレリー「これまでの行いの償いになるとは 思っていませんが・・・」
第一王子ミシェル「そのことなら、もう気にしなくていい」
第一王子ミシェル「ヴァレリーのせいではないのですから」
騎士団長ヴァレリー「ありがたきお言葉でございます」
騎士団長ヴァレリー「ではわたしは 出撃部隊の最終確認をしてまいります」
第一王子ミシェル「頼みます」
宮廷魔導師リゼット「・・・ミシェル だいじょうぶか?」
宮廷魔導師リゼット「わたしも一緒に行けたらよかったのだが」
第一王子ミシェル「・・・僕は・・・だいじょうぶだ」
第一王子ミシェル「リゼットは調査を進めて ユーグの足取りをつかんでほしい」
第一王子ミシェル「・・・それに 戦場では人が死ぬ」
第一王子ミシェル「あんなところに リゼットを連れていきたくない」
宮廷魔導師リゼット「本当はミシェルも行きたくないんだろう?」
第一王子ミシェル「だが、僕は行く」
宮廷魔導師リゼット「・・・無理はするなよ」
宮廷魔導師リゼット「伯母上のハンカチと双生神のメダルが ミシェルを守ってくれるだろう」
第一王子ミシェル「・・・うん」
第一王子ミシェル「リゼットも、気をつけて」
宮廷魔導師リゼット「・・・ミシェル どうか無事で・・・」
〇川沿いの道
勇者マリー「お待たせしましたー」
勇者マリー「どうぞ、王子」
第二王子クレール「・・・ありがとう」
勇者マリー「あたしはこれ!」
勇者マリー「ラーメン食べたかったんですよねー」
勇者マリー「いただきまーす」
勇者マリー「おいしー」
勇者マリー「豚骨が一番好きだけど たまには醤油もいいなあ」
第二王子クレール「・・・・・・」
勇者マリー「あれ、食べないんですか?」
第二王子クレール「いや・・・」
第二王子クレール「神のお話を拝聴するのに 食事をしながらというのは・・・」
双生神イーリャ「別にかまわん」
双生神イーリャ「わたしがおまえたちに ものを頼む立場なのだから」
第二王子クレール「・・・では、お言葉に甘えて」
双生神イーリャ「結論から言うぞ」
双生神イーリャ「このままではシュガールは滅亡する」
勇者マリー「えっ!?」
第二王子クレール「どういうことですか!?」
双生神イーリャ「・・・エグスキだ」
双生神イーリャ「エグスキは神の力を失い 今や邪神となり果てた」
双生神イーリャ「姉のわたしを完全に封じたのち 世界を滅ぼすつもりだろう」
勇者マリー「どうして!?」
双生神イーリャ「・・・恋だ」
第二王子クレール「恋・・・?」
〇研究所の中
宮廷魔導師リゼット(・・・誰もいないな)
宮廷魔導師リゼット(みんなには悪いが 隅々まで調べさせてもらおう)
(ユーグ殿の荷物・・・ やはりなにも残っていないな)
「・・・あ これは・・・」
宮廷魔導師リゼット(召喚石と送還石の管理台帳か)
宮廷魔導師リゼット(・・・一応確認しておくか)
宮廷魔導師リゼット(使用した個数と残りの個数は合っているな)
宮廷魔導師リゼット(最終使用者はわたし マリー様を召喚した日だ)
宮廷魔導師リゼット「・・・ん?」
宮廷魔導師リゼット「・・・もしかして!」
〇荒地
宮廷魔導師ユーグ「はあ、はあ・・・」
宮廷魔導師ユーグ「もうすぐ国境だ・・・!」
宮廷魔導師ユーグ「ひっ・・・!」
宮廷魔導師ユーグ「くたばれ!」
宮廷魔導師ユーグ「・・・くそっ なぜわたしがこんな目に」
宮廷魔導師ユーグ「・・・まあいい」
宮廷魔導師ユーグ「リュテス軍よりも早く メロヴィング要塞へ向かわなければ」
〇川沿いの道
双生神イーリャ「エグスキは人間に恋をしたのだ」
勇者マリー「・・・恋」
双生神イーリャ「わたしたち神は世界を創造し 人間を永きに渡り見守ってきた」
双生神イーリャ「ゆえに神の本質は博愛でなければならない」
双生神イーリャ「だがエグスキは・・・」
第二王子クレール「恋をしたことにより 博愛の性質を失った・・・と?」
双生神イーリャ「・・・そのとおり」
〇水たまり
双生神イーリャ「わたしたちは交代の際にしか会えない」
双生神イーリャ「交代のためにエグスキを起こしたとき 恋心を諦めるようにと諭した」
双生神イーリャ「だが・・・すでに遅かった」
双生神イーリャ「妹はわたしの言葉を聞き入れなかった」
〇荒野
双生神イーリャ「そして・・・」
〇血しぶき
双生神イーリャ「シュガールは滅びへの道を進み始めた」
〇川沿いの道
第二王子クレール「では、この戦乱をもたらしたのは 太陽神エグスキなのですか?」
双生神イーリャ「おそらくな」
双生神イーリャ「たとえ神であろうと 災いを招く者は排除する」
双生神イーリャ「そのためにおまえたちの力を借りたいのだ」
勇者マリー「そ・・・そんな」
勇者マリー「姉妹なんでしょ・・・ どうしてそんなこと言えるの!?」
双生神イーリャ「言っただろう 神の本質は博愛だと」
双生神イーリャ「たかだか妹のために 世界一つを滅ぼすわけにはいかないのだ」
勇者マリー「たかだかって・・・!」
第二王子クレール「マリー、よせ!」
勇者マリー「王子は納得できるの!?」
勇者マリー「世界のためなら家族も犠牲にするなんて」
勇者マリー「そんなの・・・そんな・・・」
第二王子クレール「・・・・・・」
〇城の廊下
宮廷魔導師リゼット「・・・承知しました 失礼いたします」
宮廷魔導師リゼット(・・・やはり)
宮廷魔導師リゼット(台帳に書かれた送還石の使用数が 実際の使用数より1つ多い日がある)
宮廷魔導師リゼット(該当するのは・・・ ドミニク殿、ヤン殿、イアサントの記述)
宮廷魔導師リゼット(この3人の共通点は・・・)
宮廷魔導師リゼット(ユーグ殿が記帳を任されていた日・・・)
宮廷魔導師リゼット(・・・まさか 送還石を横領していたのか?)
宮廷魔導師リゼット(もしそうだとしたら 殿下とマリー様は・・・!)
〇川沿いの道
第二王子クレール「・・・もし父上やミシェル殿が 道を誤ったとして」
第二王子クレール「その過ちを認めずに 民を苦しめることがあれば」
第二王子クレール「わたしは彼らを倒す」
第二王子クレール「たとえ妻子であっても わたしの答えは変わらない」
勇者マリー「王子・・・でも」
第二王子クレール「わたしは王家に生まれた者として 民に責任を持たなければならない」
第二王子クレール「それができなければ 王となる器ではないのだ」
第二王子クレール「・・・だが、それは 愛していないからではない」
第二王子クレール「愛する者に罪を背負わせたくない・・・」
第二王子クレール「・・・そのためなら自分の手だって汚せる」
第二王子クレール「そうでしょう、月神イーリャ」
双生神イーリャ「好きに解釈するがいい」
双生神イーリャ「とにかくエグスキ・・・」
双生神イーリャ「・・・いや 邪神を倒さねばならない」
双生神イーリャ「勇者よ おまえの力を貸してほしい」
勇者マリー「・・・わかりました」
勇者マリー「でもね、王子、女神様」
勇者マリー「あたし、最後まで諦めたくない」
勇者マリー「エグスキを倒す前に 1回だけでも話してみませんか?」
第二王子クレール「な・・・ なにをのんきなことを言っているんだ」
第二王子クレール「こうしているあいだにも 戦争は起こっているんだぞ!」
勇者マリー「けど、話せばわかってくれるかも」
双生神イーリャ「・・・無駄だ」
双生神イーリャ「あのときエグスキは わたしの話を聞こうともしなかった」
双生神イーリャ「いまさら・・・」
勇者マリー「何度も言えばわかってくれるかもしれない」
勇者マリー「・・・後悔してるの 妹を止められなかったこと」
勇者マリー「あんなふうに言っちゃったから 舞花は反発したのかもしれない」
勇者マリー「・・・でも、同じ失敗はしない」
勇者マリー「もし説得できなかったら そのときはちゃんと戦います」
勇者マリー「だってあたしは勇者だもん」
双生神イーリャ「・・・おまえたちをシュガールに戻す」
双生神イーリャ「その後、再び力を蓄えたら わたしもシュガールに戻ろう」
勇者マリー「あ、待って・・・!」
双生神イーリャ「・・・頼んだぞ」
〇湖畔
第二王子クレール「・・・ここは」
勇者マリー「戻ってきた・・・!?」
第二王子クレール「・・・ああ だがここは帝国領だ」
勇者マリー「えっ」
勇者マリー「じゃ、早くリュテスに戻らないと ヤバくないですか?」
第二王子クレール「ああ、誰かに見つかる前に・・・」
「誰かいるのか!?」
第二王子クレール「帝国兵・・・!?」
勇者マリー「王子、こっち!」
ガンディア兵「おかしいな こっちから声が・・・」
第二王子クレール「・・・行ったか」
勇者マリー「よかった・・・」
勇者マリー「今のうちに行きましょ」
第二王子クレール「ああ・・・」
第二王子クレール「しまった・・・!」
「動くな!」
ガンディア兵「曲者め! そこでなにをしている!」
物語の重要なカギとなる今話、真理さんの魅力が光りましたね。あるべき家族像に向かって真っすぐな思いを語る一方で、女神をファミレスに誘い王子にコンビニの卵サンドをとりあえず食べさせてwww