第10話 戦いの火蓋(脚本)
〇湖畔
ガンディア兵「曲者め! そこでなにをしている!」
勇者マリー「ど、どうしよう」
第二王子クレール「戦うしかないか・・・」
ガンディア兵「ちょっと待て」
ガンディア兵「その奇妙な格好 巫女様と似てるな」
第二王子クレール「・・・巫女?」
ガンディア兵「陛下がお戻りになるまで 城に捕らえておくか・・・」
勇者マリー「・・・えいっ」
ガンディア兵「ん? ・・・獣か?」
ガンディア兵「いや、魔物かもしれん おまえたち、そこを動くなよ」
「・・・・・・」
ガンディア兵「なにもいなかったな・・・」
ガンディア兵「・・・あっ あいつらはどこだ!?」
ガンディア兵「くそッ、逃がさんぞ!」
〇山中の滝
勇者マリー「・・・追ってきてないみたい」
勇者マリー「なんとか逃げられましたね」
第二王子クレール「・・・ああ」
第二王子クレール「マリー、ありがとう おかげで助かった」
第二王子クレール「見事な機転だったな」
勇者マリー「いやー、それほどでも」
勇者マリー「・・・それで ここって帝国のどの辺なんですか?」
第二王子クレール「北部のフィロメナだな」
勇者マリー「フィロメナ・・・」
第二王子クレール「どうやらわたしたちは 聖地シャナに飛ばされたようだな」
勇者マリー「それって、さっきの湖?」
第二王子クレール「ああ・・・」
第二王子クレール「神が生まれ、世界が始まったとされる地だ」
勇者マリー「・・・ここがフィロメナ」
勇者マリー(ミシェル様のお母さんと リゼットさんの出身地・・・)
第二王子クレール「一刻も早く国境へ向かい リュテス軍と合流せねば」
勇者マリー「・・・迎撃戦があるんですよね」
勇者マリー「誰が指揮を執ってるんだろ?」
勇者マリー「王様ですかね・・・ 身体弱そうでしたけど」
第二王子クレール「父上はご病気だ 戦場に立つことはできない」
勇者マリー「・・・じゃ、ミシェル様?」
第二王子クレール「なおさら、ありえないな」
第二王子クレール「貴方も知ってのとおり ミシェル殿は繊細でお優しい」
第二王子クレール「人を斬ることなどできないだろう」
第二王子クレール「おそらく騎士団長のヴァレリーが 代理で指揮官になっているはずだ」
勇者マリー「・・・ですかね」
第二王子クレール「ひとまずここで夜明けを待とう」
第二王子クレール「近くの村で旅支度を調えてから 国境を目指すぞ」
勇者マリー「・・・はい」
〇黒
・・・・・・
・・・ェル・・・
・・・ミシェル・・・
第一王子ミシェル「・・・母上?」
ミシェル・・・
第一王子ミシェル「母上、どうされたのですか・・・」
〇手
第一王子ミシェル「・・・!」
ミシェル・・・
助けて・・・
痛いの・・・
苦しいの・・・
血が・・・止まらない・・・
第一王子ミシェル「あ・・・ああ・・・!」
ミシェル・・・
ミシェル・・・
どうして・・・
どうして・・・あなたは
リュテスのために戦うの・・・
わたしたち・・・リュテス人に
あれほど苦しめられたのに
第一王子ミシェル「は・・・母上・・・」
どうしてなの・・・ミシェル・・・
第一王子ミシェル「母上、僕は・・・!」
・・・か
〇テントの中
騎士団長ヴァレリー「殿下・・・殿下ッ!」
第一王子ミシェル「・・・っ!」
第一王子ミシェル「はあ、はあ・・・」
第一王子ミシェル「・・・ヴァレリー? なぜここに・・・」
騎士団長ヴァレリー「うなされていらっしゃると 見張りから知らされまして・・・」
第一王子ミシェル「・・・平気です 手間をかけましたね」
第一王子ミシェル「少し、昔の夢を見ただけですから 持ち場に戻ってください」
騎士団長ヴァレリー「しかし・・・」
リュテス兵「団長! 少々確認したいことが・・・」
騎士団長ヴァレリー「わかった、すぐに向かう」
騎士団長ヴァレリー「明日にはメロヴィング要塞に到達します」
騎士団長ヴァレリー「眠れずとも、せめて身体はお休めください」
第一王子ミシェル「・・・ありがとう そうします」
第一王子ミシェル「・・・母上・・・」
〇谷
勇者マリー「あー・・・足痛い」
第二王子クレール「・・・仕方がない 少しだけ休憩だ」
勇者マリー「えっ・・・でも」
勇者マリー「帝国の兵士に見つかったら ヤバくないですか?」
第二王子クレール「確かにそうだが ここまで来れば兵士はいないはず」
第二王子クレール「いざというときに 疲れて動けなくなっては困る」
第二王子クレール「休めるときに休むことも大事だろう」
勇者マリー「・・・ですね」
勇者マリー「近くの町まであとどれぐらいですか?」
第二王子クレール「昼前にはビウラ村に着くはずだ」
勇者マリー「あっ」
第二王子クレール「どうした?」
勇者マリー「これ!」
勇者マリー「昨日コンビニで買ったやつ!」
勇者マリー「さ、どうぞ」
第二王子クレール「・・・ありがとう」
〇戦線のテント
「ミシェル様! 全軍、出撃準備完了しました!」
第一王子ミシェル「・・・わかりました 行きましょう」
騎士団長ヴァレリー「強行軍になりますな」
騎士団長ヴァレリー「兵士や馬が消耗しなければよいのですが」
第一王子ミシェル「雨が止むのを待つ時間はありません」
第一王子ミシェル「帝国軍に国境を越えられる前に メロヴィング要塞に着かなければ」
第一王子ミシェル「みんなには無理をさせてしまいますが」
騎士団長ヴァレリー「なんの リュテスのためですから」
第一王子ミシェル「・・・ええ」
騎士団長ヴァレリー「・・・・・・」
騎士団長ヴァレリー「・・・もしや殿下」
騎士団長ヴァレリー「勇者殿のことが気がかりで 眠れなかったのですか?」
第一王子ミシェル「・・・え?」
騎士団長ヴァレリー「心配めされるな あの方はずぶと・・・」
騎士団長ヴァレリー「いや、適応力の高い方ですから」
騎士団長ヴァレリー「きっとご無事ですよ」
第一王子ミシェル「・・・ヴァレリー いったい、なんの話を・・・」
騎士団長ヴァレリー「さあ殿下、参りましょう!」
第一王子ミシェル「え、ええ・・・」
〇寂れた村
村人「やれやれ この天気じゃ洗濯物が乾きやしない」
村人「いつになったら お天道様は顔を出してくれるのかね」
第二王子クレール「こんにちは」
村人「おや、あんたたち 見ない顔だね」
村人「その奇妙な服装は いったいなんなんだい」
第二王子クレール「わたしたちは召喚士に召喚された者です」
第二王子クレール「メロヴィング要塞へ向かい 戦線に加わるようにと言われまして」
村人「ああ、巫女様のお仲間かい」
勇者マリー(また、巫女様・・・)
勇者マリー(あたしと同じ世界から来た巫女が いるってこと・・・?)
勇者マリー(・・・まさか・・・)
第二王子クレール「旅支度を調えられる店を探しています ご存じありませんか?」
村人「なら、そこの角にある店に行けばいいさ」
第二王子クレール「ありがとうございます」
勇者マリー「ねえ王子、もしかして・・・」
勇者マリー「もがっ」
村人「・・・王子?」
第二王子クレール「いえ、聞き間違いでしょう」
第二王子クレール「では失礼します」
第二王子クレール「なにを考えているんだ、貴方は!」
勇者マリー「えっと・・・ なにかまずかったですかね?」
第二王子クレール「ここは帝国領なのだぞ」
第二王子クレール「我々がリュテスの王子と勇者だと 知られたらどうなると思う」
勇者マリー「あっ・・・そっか」
第二王子クレール「わかったなら行くぞ」
勇者マリー「あ・・・待ってよ」
〇厩舎
第二王子クレール「馬を譲ってもらえて助かった」
第二王子クレール「さあ、行こうか」
勇者マリー「あたし、馬なんか乗れないですけど」
第二王子クレール「な、なんだと!?」
勇者マリー「そんな驚くことですか?」
第二王子クレール「遠出するときはどうするんだ」
勇者マリー「他の移動手段がありますから」
勇者マリー「ほら、王・・・」
勇者マリー「・・・じゃなかった クレールが乗った電車もそうだし」
第二王子クレール「ならば、やむを得んな わたしと一緒に乗馬してもらおう」
勇者マリー「2ケツね、オッケー」
第二王子クレール「・・・待て!」
第二王子クレール「な、なぜスカートをたくし上げている!?」
勇者マリー「そうしないと跨げないじゃん」
勇者マリー「それに、下にズボン穿いてるし」
第二王子クレール「そういう問題ではない!」
第二王子クレール「馬の左側に両足を垂らして横座りしろ」
勇者マリー「ええ?」
勇者マリー「・・・落ちないよね?」
第二王子クレール「わたしが後ろに乗るから問題ない」
勇者マリー「なんか落ち着かないなあ・・・」
第二王子クレール「よし、行くぞ!」
〇荒野
勇者マリー「うわーっ! すごい揺れる!」
第二王子クレール「じっとしてろ! 手綱が取りにくい!」
勇者マリー(そういえば、昔 舞花と2ケツしたなあ)
勇者マリー(坂道で風を切って ・・・楽しかったなあ)
勇者マリー(おまわりさんに注意されたけど)
第二王子クレール「速度を上げるぞ!」
勇者マリー「あ、うん・・・」
〇要塞の回廊
騎士団長ヴァレリー「総員、第二戦闘配置!」
騎士団長ヴァレリー「帝国軍の到着は おそらく深夜になるでしょう」
第一王子ミシェル「・・・ええ」
騎士団長ヴァレリー「夜の雨は視界が悪く、体力を消耗します 日の出を待って戦いを始めるはずです」
騎士団長ヴァレリー「殿下、慣れない行軍でお疲れでしょう」
騎士団長ヴァレリー「夜が明けるまで、しばしお休みください」
第一王子ミシェル「ええ・・・ありがとう」
第一王子ミシェル(・・・母上)
第一王子ミシェル(母上は・・・ リュテスを恨んでいたのだろうか)
第一王子ミシェル(無理矢理城に囲った父を・・・ 自分を蔑んだみんなを・・・)
第一王子ミシェル(・・・助けられなかった僕を)
第一王子ミシェル(・・・だけど もう立ち止まってはいられない)
第一王子ミシェル(母上・・・ 許してくださいとは言いません)
第一王子ミシェル(ただ、どうか・・・)
第一王子ミシェル(せめて、安らかに・・・)
〇空
〇荒野の城壁
皇帝トビアス「ここがメロヴィング要塞だ」
巫女マイカ「・・・・・・」
皇帝トビアス「夜が明けたら突撃だ」
皇帝トビアス「それまでどこかで雨を凌いで 少しでも身体を休め・・・」
巫女マイカ「その必要はない」
皇帝トビアス「奇襲をかけるということか?」
皇帝トビアス「だが、この雨での夜襲は視界が得られない」
皇帝トビアス「対してリュテスは自然魔法に長けている その防衛を突破できるか・・・」
巫女マイカ「こいつらは夜目が利く」
巫女マイカ「我らが夜明けを待って戦いを始めると 向こうは思っているはず」
巫女マイカ「うまく意表を突くことができれば 突破できるかもしれないぞ」
皇帝トビアス「・・・なるほど」
巫女マイカ「こいつらに城門を突破させ 混乱に乗じて国境を越えれば・・・」
皇帝トビアス「リュテス侵略への足がかりになる・・・か」
巫女マイカ「二騎であれば 敵の目をかいくぐるのも容易だ」
巫女マイカ「国境を越えた先で 再びこいつらを召喚すればいい」
皇帝トビアス「・・・よし、その策でいこう」
皇帝トビアス「か弱そうなおまえが現れたときは どうなることかと思ったが」
皇帝トビアス「マイカ、おまえが オレたちの味方になってくれてよかった」
皇帝トビアス「これからも頼むぞ」
巫女マイカ「ふふふ・・・ ・・・いいだろう」
皇帝トビアス「では――始めるぞ」
皇帝トビアス「ガンディアを救うための戦いを!」
真理さんの逞しさや大らかさと、ミシェルさまの繊細さが対極的に際立っていますね!真理さん、ヴァレリーさんにまで図太いと言わしめるとはww お話の当初では敵役のようなクレール王子が、真理さんを導きツッコむ様子、イイですねー!