〇教室
男性教師「おい、襟足が肩に掛かってるぞ」
男性教師「男なんだからもっと短く切れ！」
男子生徒A「頭髪検査なんて、だりー」
男子生徒B「しかも抜き打ちとか、最悪だよな」
男性教師「次、水瀬」
水瀬真一「・・・はい」
男性教師「髪の長さは、問題なし」
男性教師「色は・・・黒染めじゃないだろうな？ もっとよく見せてみろ」
　　教師の手が、僕の髪へと伸びる。
水瀬真一「──！」
　　僕は思わず、その手を払ってしまった。
男性教師「──なんだ、その態度は！」
水瀬真一「さ、触ろうとするから・・・」
男性教師「お前、何かやましいことがあるんだろ！」
水瀬真一「別に、校則違反なんてしてません・・・！」
男性教師「だったら反抗するな！」
水瀬真一「だって、それはっ・・・」
水瀬真一「・・・すみません」
　　本当の気持ちを言ったところで
　　理解してくれる人は、この場に居ない。

〇まっすぐの廊下

〇教室
女性教師「あなたたち、どうしてちゃんと守れないの？」
女子生徒A「だってー、 長いスカートなんて可愛くないし！」
女性教師「全く・・・」
女性教師「少しは村上さんを見習いなさいよ、ねぇ？」
村上「私は・・・別に・・・」
女子生徒A「私たち、村上さんみたいに 優等生じゃないもん」
女子生徒B「真面目な格好しても 似合いませーん、あはは」
村上「・・・・・・」

〇大きな木のある校舎

〇教室
村上「・・・はぁ」
女子生徒A「どう？ 可愛い？」
佐伯「こないだ買ってやったリップか。 似合ってるじゃん」
村上「・・・ねぇ」
村上「残ってるなら手伝ってよ」
佐伯「悪いけど、俺らこれから カラオケなんだよね」
佐伯「おい、村上怒ってるぞ。 早く化粧終わらせろよ」
女子生徒A「ごめん、すぐ終わらせるー」
女子生徒A「そうだ！」
女子生徒A「村上さんにもリップ塗ってあげようか？」
村上「・・・私はいい」
村上「校則違反だし」
水瀬真一「お待たせ」
水瀬真一「水入れてきたよ」
女子生徒A「じゃあ、水瀬くんはどう？」
水瀬真一「え・・・なに？」
佐伯「いいじゃん、化粧してみろよ！」
佐伯「irohaみたいになれんじゃね？」
水瀬真一「はぁ!?」
水瀬真一「なんで僕が・・・！」
村上「２人とも、手伝えないなら帰っ──」
佐伯「ほら。リップ貸して」
水瀬真一「嫌だよ、化粧なんて！」
水瀬真一「僕が・・・」
水瀬真一「男がしても 似合わないでしょ」
佐伯「何言ってんだよ、 irohaだって男だろ」
水瀬真一「っ・・・」
水瀬真一「確かに、そうだけど」
佐伯「自分で出来ないなら、俺が塗ってやるよ」
水瀬真一「やめてよ！ 嫌だってば！」
水瀬真一「irohaになんか・・・ なりたくない！」
　　拳をぎゅっと握りしめた。
　　掌に爪が食い込み、チクリと痛む。
水瀬真一「男なのにあんなの・・・」
水瀬真一「おかしいでしょ」
村上「──うるさい!!」
水瀬真一「──！」
佐伯「・・・はぁ？」
村上「邪魔するなら帰ってよ！」
佐伯「なんだよ、偉そうに」
佐伯「つーか、学級委員だからってそんな権限ないだろ」
村上「・・・そのリップ、校則違反でしょ」
村上「帰らないなら、校則違反してるって 先生に報告するから」
女子生徒A「なにそれ、感じわるっ」
佐伯「もういい、行こうぜ」
佐伯「あーあ、シラけた。 これだから真面目ちゃんは嫌なんだよ」
村上「水瀬くんも帰っていいよ」
水瀬真一「・・・・・・！」
村上「さっきのって、嫌がらせのつもり？」
水瀬真一「嫌がらせなんて、そんなつもりじゃ・・・」
村上「私がirohaを好きって知ってたでしょ!?」
水瀬真一「・・・佐伯たちに話合わせただけだよ」
村上「irohaのこと・・・」
村上「おかしいって言ってたじゃない！」
水瀬真一「・・・ごめん」
村上「・・・あんなこと言う人だなんて、 思わなかった」
村上「平気で人を傷付けるようなこと言える、 水瀬くんの方がおかしいよ！」