〇レンタルギャラリー
水瀬（・・・前より派手になってる）
　　以前よりも手形が増えて、さらに
　　カラフルになったpilsenerの『渋谷』を
　　あたしは、ぼんやりと眺めていた。

〇教室
村上「──水瀬くんの方がおかしいよ！」

〇レンタルギャラリー
水瀬（違う・・・）
水瀬（あたしは、おかしくない・・・）
展示スタッフ「お客様、ご来場は初めてでしょうか？」
展示スタッフ「こちらの作品には、来場者の方に 手形を押していただいてるんです」
水瀬「・・・・・・」
展示スタッフ「よろしければ、お客様もお好きな色で──」
展示スタッフ「?」
　　あたしは早足で出口へと向かった。
　　・・・そうすることしかできなかった。

〇Bunkamura
　　──村上さんには、わかるわけがない。
　　『普通』でいるために、
　　声すら出せないあたしの気持ちなんて。
水瀬「・・・はぁ」
水瀬（返事、来ないな。 結構前に既読付いてるのに）
水瀬（──あ、そっか。 今日って確か・・・）

〇ハイツ

〇明るいリビング
村上「・・・ぜんっぜん足りない！」
村上「ママ、おかわりあるー？」
村上の母「まだいっぱいあるよー」
村上「やったー！」
村上「私、ママのハンバーグが１番すき♡ ご飯もおかわりしちゃおっと♪」
村上の母「あははっ やけ食いだー」
村上「し、仕方ないじゃん！ イライラしちゃってたんだから・・・」
村上の母「愛莉ちゃん」
村上の母「ママの前では無理しなくて良いんだよ？」
村上の母「それに・・・嫌だったら 学校なんて行かなくても良いんだからね」
村上「・・・──ねぇ、それより！」
村上「ラジオつけてもいい？ もう始まっちゃう！」

〇渋谷の雑踏

〇公開ラジオブース
　　──今夜の公開生放送！
　　ゲストはこの方──

〇ラジオの収録ブース
iroha「Ciao♡ irohaだよー！」
iroha「今日はよろしくねー」
iroha「会いに来てくれたみんなも、ありがとう♡」

〇公開ラジオブース
観覧客A「きゃー！ irohaー！」
観覧客B「ねぇ、こっちに手振ってくれてるよ！」
水瀬（うわっ。 もうこんなに人が・・・）
水瀬（後ろの方でも見えるかな）

〇ラジオの収録ブース
ラジオパーソナリティ「──じゃあ、高校時代の思い出はあんまりない？」
iroha「あはは、そうかもー」
iroha「だから、そんなに話せることもないし・・・」
iroha「──そうだ！」

〇公開ラジオブース
iroha「アタシの話じゃないんだけどね」
iroha「ついさっき、知り合いの女子高生から」
iroha「『クラスメイトと口論になった』って 相談されたばかりなんだ〜！」
水瀬「! それって・・・」

〇ラジオの収録ブース
iroha「その女子高生ちゃんは」
iroha「相手の子から『一方的に気持ちをぶつけられた』って感じたみたい」
iroha「それで怒っちゃったんだって」

〇明るいリビング
ラジオパーソナリティ「なるほど、お友達と喧嘩しちゃったんだ」
村上「・・・・・・」
iroha「なんかね、友達じゃないらしいよ」
iroha「『仲良くもないただのクラスメイト』なんだって」
iroha「おかしいよね、 相談するほど悩んでるのに！」

〇ラジオの収録ブース
iroha「──君は、」
iroha「自分の気持ちをちゃんと伝えた？」
iroha「思ってるだけじゃだめだよ」
iroha「言葉にして、素直に伝えてみよう」

〇公開ラジオブース
水瀬（村上さんは、ただのクラスメイトだよ・・・）
水瀬（そんな人に、何を伝えたらいいの・・・？）
男性の声「おーい、irohaー。 こっち見ろよー」
水瀬「!」
水瀬「なに、あれ・・・」
観覧客？「キモいんだよ、男のくせに。 さっさと辞めろ！」
観覧客A「あれやばくない？」
観覧客B「誰か止めなよ・・・ てか、スタッフ何やってんの？」
水瀬「──う・・・」
水瀬（気持ち悪い・・・）

〇渋谷のスクランブル交差点
　　irohaみたいな人間は
　　『普通』の人にはあんな風に思われてるんだよ
　　仕方ないでしょ！