切れたインク

小鳥ユウ

エピソード1(脚本)

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〇ファストフード店の席
  これはまだ、僕が新人漫画家として輝いていた頃の話です......。
248(ニシ・エイト)(はぁ、吉川さんまだかなぁ......)
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「お待たせしちゃって悪いね。 あ、そこの姉ちゃん! フライドポテトとコーヒーくれる?」
  店員:「......!? か、かしこまりました......」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「じゃあ、原稿見せてもらえる?」
248(ニシ・エイト)「どうぞ......」
  吉川さんは僕の担当で少し、嫌な人だ。
  それでも私は新人なので彼に従うしかなかった。

〇ファストフード店の席
  店員:「お待たせしました。コーヒーとポテトでございます」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「......。さてさて、読みますか......」
  コーヒー片手に行儀悪く肘をついて原稿をめくっていく吉川さんに、少し憤りを感じてしまったがここはこらえるしかない。
248(ニシ・エイト)「ど、どうですか?」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「ドリンクでも頼んで待ってれば? こちとりゃ、つまんない漫画解読すんのに忙しいの」
248(ニシ・エイト)「は、はぁ......。じゃあ......あっ、すみませんアイスレモンティーを一つお願いします」
  しばらくして......。
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「読ませてもらったよ。キミの漫画......。ま、絵は悪くないんだけど、なんか違うんだよなぁ。以前の迫力はどうしたぁ?」
  どうしたぁ?
  じゃないよ。前はこのタッチがいいって言ってたくせに......。
248(ニシ・エイト)「いや、はい......。すいません」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「ニシダくん。こういうのはもう少し、なんだっけ......そうコウスイしてね。持ってきてよ」
248(ニシ・エイト)「あの、仁科です......。あと、推敲のことですか? コウスイっておっしゃってるのは......」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「......」

〇ファストフード店の席
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「次はさ、もっといいの頼むよ。新人受賞したときのホラーでいいからさ。僕はキミのことを思って言ってるんだよ? ニシセンセー」
  こういうときにだけ、私のペンネームを取り出してくる。普段は本名である『仁科 公平』も覚えられないくせに......。
248(ニシ・エイト)「はぁ、はい......。 じゃあ今日は帰ります......」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「帰ってもいいけど、今日は僕の家に来なよ? 漫画のことたっぷり教えないとだからさぁ。晩御飯つつきあいながら、ね?」
  するとそそくさと、吉川さんは会計を済ませていった。私もそれに次いで店を出ようとしたら店員さんに呼び止められた。
レジ係「お客さん、お会計済んでいませんよ......」
248(ニシ・エイト)「......は、はい」
248(ニシ・エイト)(まじかよ、あの人自分の分だけ会計済ませて帰っちゃったよ)

〇オタクの部屋
  数分後、仁科宅......
248(ニシ・エイト)「ただいま......」
248(ニシ・エイト)「アイディアノート、あの人に見られるの癪だけど持っていくか」
248(ニシ・エイト)「その前に......」

〇安アパートの台所
  トントントントントントン......。
  カチチチチ......ボッ......。
  ゴゴゴゴ
  ジュージュー
248(ニシ・エイト)「料理の一つでもあの人に持っていくとするか......。うまく作れなかったけど」
  作った料理をタッパーに入れて身支度を澄ましていく。

〇オタクの部屋
248(ニシ・エイト)「これで準備はいいかな。ノートもあるし、一応料理も作っておいたからあの人の機嫌も悪くはならないでしょ。あ、そうだ大事なもの」
  僕は机の下に落ちていた万年筆を拾った。これは新人賞の時につかってから今でも使い続けている。
248(ニシ・エイト)「インク、切れてる...... まぁいいか。そろそろ新鮮味薄れてきたし あの人、持ってるよね」
  一人ぶつぶつと話しながら家を出る用意をする僕は
248(ニシ・エイト)「いってきます。父さん......」

〇アパートのダイニング
「失礼します」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「いらっしゃい ちゃんときたね。ニシダくん」
248(ニシ・エイト)「一応、晩御飯も作ってもってきましたけど」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「お、気が利くようになったねぇ」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「ってなんじゃこりゃ」
248(ニシ・エイト)「カレー、ですけど」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「マンガのセンスもなければ料理のセンスもないのか! こりゃ、期待して損したわ。ハハハハ!」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「見立ての割には結構いけるな。 そらカレーだからか 君の作品も、具材もルーもいいのに調理過程がだめなんだ」
248(ニシ・エイト)「はぁ......」
  正直なにを言っているかはわからない。
  僕は、この人が好きじゃない。
  嫌いだ。
248(ニシ・エイト)「あ、そういえば 実は使ってる万年筆のインクが切れてしまって 借りたりできます?」
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「あ? そんなの持ってるわけ」

〇血しぶき
  グサッ!!

〇黒背景
吉川(きっかわ) 誉(ほまれ)「............っ!!!!! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
248(ニシ・エイト)「インク、お借りしますね」

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