☆セピア色のツリー☆

宇野木真帆

セピア色の世界で..(脚本)

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宇野木真帆

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〇イルミネーションのある通り
  いつから私の世界は
  色を失ってしまったのだろう。
  何も思い出したくない。
シン「リキー!こっち来て!」
リキ「なにー?」
リキ「すっげー!」
リキ「きれいだな!」
シン「あっちも行ってみようぜ!」
リキ「あ!まてよ!」
  私にも子どもがいた。
  今は
  もう会えない。

〇黒

〇殺風景な部屋
マリコ「さぁ、始めましょうか」
小夜子「はい」
マリコ「答えられる所だけで良いですよ」
マリコ「あなたのお名前は?」
小夜子「さよこ」
マリコ「そうですね。 では、血液型は?」
小夜子「A型」
マリコ「OK。それじゃあ..」
マリコ「旦那さんのお名前は?」
小夜子「わ、わかりません..」
マリコ「大丈夫よ。 お子さんの名前はどうかしら?」
小夜子「わ、わからない」
小夜子「わっ、わた、わたしっ、」
マリコ「大丈夫。 落ち着いて」
マリコ「そう。ゆっくり息を吸って」
マリコ「吐いて..」
マリコ「今度は別の質問にしましょう」

〇黒

〇近未来施設の廊下
シノ「どう? 101号室の小夜子さんは..」
マリコ「相変わらず」
マリコ「家族のことを思い出そうとすると、感情のコントロールが効かなくなる」
シノ「そう..」
マリコ「でも、それ以外は問題ない」
シノ「良かった」
マリコ「自殺や他殺衝動があるわけでもないから」
マリコ「そろそろ外出もできるんじゃないかしら」
シノ「もうすぐクリスマスよ♪」
シノ「小夜子さんの気分転換にならないかしら?」
マリコ「そ・れ・は!」
マリコ「私たちもでしょ!」
シノ「マリコってば!」
シノ「またクリスマスに一人ホールケーキするの?」
マリコ「もちろん! シノは一人シャンパンでしょ?」
シノ「当たり前じゃない!」

〇黒

〇散らかった研究室
マリコ「少しはしゃぎ過ぎたわね」
マリコ「小夜子さんの外出申請を出すのであれば」
マリコ「彼女の略歴をもう一度整理しておきましょう」
シノ「今、ファイルを開くわ」
  氏名:神崎小夜子
  性格:物静・妄想癖
  気質:内的・繊細
  家族構成:夫・長男・次男・三男(亡)
マリコ「小夜子さんの心的疾患は、三男で間違いないわ」
シノ「自責の念に駆られ、周りのことが何も手につかなくなっている」
シノ「長男の栄一君、次男の慎二君、の育児はおろか、自分のこともままならない」
シノ「それが入院理由ね」
マリコ「性格と気質から自虐行為に走らないか心配だったけれど」
マリコ「ここに来てからは見られない」
シノ「落ち着いてきたんじゃないかしら」
マリコ「これなら外出申請しても問題なさそうね」
シノ「あとは私たち。 小夜子さんから目を離さないようにしないと」
マリコ「そんな事になったら始末書じゃ済まないわよ..」

〇黒

〇イルミネーションのある通り
小夜子(あ..)
サンタクローズ「さぁ、良い子にはプレゼントをあげよう!」
シン「ラッキー!」
「リキー! サンタからプレゼントもらったー!」
サンタクローズ「さて、他も周らなければ」
  サンタクローズは人攫いだった。
  という話を聞いたことがある。
小夜子(トナカイはいないのね)
  プレゼントをあげるから、と言って..
  ソリに乗せて子どもを連れ去るらしい。
小夜子(私があんな名前を付けたから)
  三汰は連れ去られてしまったんだ。

〇黒
  三汰の三は
  お兄ちゃんとのつながり。
  三汰の汰は
  しっかりたくましく。

〇広い公園
三汰「おかあさーん!」
小夜子「も、もうジャングルジムに上ったの..」
三汰「うん!」
  好奇心旺盛で、色んな所を駆けずり回る、とても元気な子。
小夜子「気をつけてね」
三汰「うん!」
  しつけが上手くいかず、三汰の思うままに、私はさせてしまっていた。
小夜子「半袖だと風邪をひくかも..」
小夜子「最近は熱もよく出るし」
小夜子「上着持ってくるわね」

〇黒

〇広い公園
小夜子「あ、あれ?」
小夜子「さっきまでジャングルジムで..」
  鞄から上着を取り出す。
  たったそれだけのこと。
小夜子「ま、まさか!」

〇黒

〇公園の入り口
「三汰!!?」
  道路に出たことは一度じゃない。
  車がいなかった時もある。
  ブレーキをかけてくれたこともある。
  でも今回は..

〇黒

〇イルミネーションのある通り
  私がちゃんとしつけてなかったから。私がちゃんと上着を着せてなかったから。私がちゃんと見てなかったから。
  ジャングルジムをさせなければ。公園に連れていかなければ。晴れてなければ。
シン「うわっ!」
小夜子「いたっ」
シン「ごめんなさい。ぶつかっちゃって..」
小夜子「違うわ。私がいけないの」
小夜子「こんな所に立ってたから..」
シン「ぶつかったのは僕だ。 お姉さんのせいじゃない」
小夜子「え?」
シン「だから!」
シン「わるいのは僕! お姉さんじゃない!」
小夜子(しっかりしてる)
小夜子(同じくらいかしら、さんたと..)
小夜子「っ..」

〇白
小夜子「っ..」
小夜子「?」
三汰「おかあさん」
小夜子「三汰!!?」
三汰「おかあさんのせいじゃないよ」
小夜子「違うわ。私が..」
三汰「おかあさん、ぼくはね..」
三汰「よばれたんだ」
小夜子「だっ、だれに!?」
小夜子「知ってる人!?」
三汰「どっちがいい?ってきかれたの」
小夜子「え?」
三汰「ほら、かぜばっかりひいてたでしょ」
三汰「だから、このままだと、くるしむよって..」
小夜子「そ、そんな..」
三汰「だからえらんだ」
三汰「おかあさんがつけてくれたんでしょ」
三汰「ちゃんとえらべるように”汰”って」
三汰「おかあさん」
  とびだしたのはぼくだよ
  おかあさんのせいじゃないよ

〇イルミネーションのある通り
シン「お姉さん、大丈夫?」
シン「後から痛くなった?」
シン「病院行く?」
マリコ「あ!」
マリコ「よかった、いた..」
シン「お姉さんの友だち?」
マリコ「そ、そうよ」
シン「オレがぶつかっちゃって、お姉さん泣いちゃったんだ」
シン「どこか痛いのかもしれない」
マリコ「わかったわ。 あとは私に任せて」
シン「ごめんよ、お姉さん..」
マリコ「ごめんなさい、小夜子さん。 一人にしてしまって」
マリコ「大丈夫?何か辛いことでも..」
小夜子「大丈夫です..」
小夜子「きれい..」
マリコ「今日はクリスマスですよ」
シノ「あ!」
シノ「よかったぁ..」
小夜子「ふふ。私、迷子だったんですね」
マリコ「いえ、こちらが目を離してしまって..」
シノ「私もちょっと気を取られて、目を離してしまって..」
小夜子「はぐれたのは私です」
小夜子「お二人のせいではありませんよ」
マリコ「温かい飲み物でも買いましょうか」
シノ「私はホットワインにしようかな♪」
マリコ「私はココアにしよう♪」
小夜子「私も..」
小夜子「三汰の好きだったココアにしよう」
  あの三汰は私の幻想かもしれない。
  でも、この瞳に映るきらめきは、幻じゃない。
  三汰、素敵なプレゼントをありがとう。
  きっと私はもう大丈夫。

コメント

  • 自分を責め続けて世界がセピア色になってしまったお母さんが最後に色を取り戻せて良かったです。
    小夜子さんにぶつかったシンくんは三汰くんから小夜子さんへの立ち直って欲しいというクリスマスプレゼントを運んで来たサンタクロースさんですね。感動しました。

  • 短い字数制限の中で、この題材を描くのかと驚嘆しました。難しく繊細な題材をコンテストの応募作に選ぶ強い意志のようなものも感じました。背景のセピア色が解除されたとき、思わずおっと声が出ました。見事な演出だと思います。TapNovelならではの作品には、こういった作品もあるのかと感心してしまいました。他の作品も拝見したく思います。

  • 自分を責め続けていた主人公の元にやってきた三汰くん。その台詞に思わずウルッときちゃいました。
    ああそうか、人はこうやって立ち直るんですね。
    小夜子さんがこれからは前を向いて人生を歩めますように。

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