Sparking Carats!

西園寺マキア

第6章 視界良好(脚本)

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西園寺マキア

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〇学校の部室
さくら「すっかりファンですなあ」
はるか「ぎゃっ」
  さくらはニヤニヤしながらはるかの肩を叩いた。
  はるかが飛びあがったので、パイプ椅子がガシャっと音を立てた。
  はるかのタブレットには、gladiolusのライブ映像が映し出されている。
ゆき「あのライブを見て、ファンにならない人なんていないって!」
さくら「ゆきちゃんが威張ってどうするよ・・・」
  ゆきはこの頃、部室にかなり入り浸るようになっていた。

〇綺麗なコンサートホール
ゆき「そこまで言われると断れないじゃない・・・」
  終演後、はるかたちは帰ろうとしているゆきを呼び止め説得しようとしていた。
はるか「おねがいっ! たまに見てくれるだけでもいいから・・・」
  三人は話し合い、上を目指すならレッスンには先生が必要なのではないかという意見で合致していた。
  アイドル経験があり、かつ業界にも詳しい同級生となればこれ以上の適任はいないと思い、ゆきに声をかけることになったのだった。
ゆき「・・・仕方ないなあ たまにだよ、たまに!」
  説得を始めて10分経って、ようやくゆきは折れたようだった。
はるか「え、いいの?!」
ゆき「言っておくけど私、甘くないからね」

〇学校の部室
  こうしてはるか達のコーチに就任したゆきは、「たまに」と称してほぼ毎日、部室に足を運んでいた。
さくら「いやー、ゆきちゃんが馴染んでくれてよかったよかった!」
ゆき「・・・」
  はるかはゆきが少し顔を赤らめたのに気がついた。
  ゆきの理系クラスは女子がたったの数人しかいないので、女の子の友達は今まで少なかったのだろう。
ゆづき「はるか、今日はミーティングなんでしょ?」
はるか「そうだったそうだった!」
  はるかは慌てて動画を閉じ、パイプ椅子を引きずって三人の方へと向き直った。
はるか「何か目標があった方がいいかと思ってさ」
ゆづき「それって、大会に出たいってこと?」
はるか「そう・・・かな」
  もちろん、アイドルの世界は大会が全てではない。

〇炎
  だがあのステージを見てからというものの、gladiolusと同じ舞台に立ちたいと言う思いが強くなっていた。

〇学校の部室
ゆき「スキルアップという面で言えば、大会は大きな経験になると思う」
ゆき「でも同時に、大会という舞台に出るなら相当の鍛錬が必要になる・・・今のレベルならね」
  ゆきはまたしても、学校の先生のような威厳たっぷりの口調で言った。
さくら「あたしも、いきなり大会に出るのは不安だな」
はるか「そっか・・・」
ゆき「別に、大会に出られないってわけじゃないわよ」
  肩をがっくりさせたはるかを見て、慌ててゆきが付け足した。
ゆき「そこを大きな目標にすればいいだけ!」
  そう言うとゆきはパソコンを操作し始めた。
はるか「それって、大会のページ?」

〇宇宙空間
  はるかが画面を覗き込んだので、ゆきは少し横にずれて画面がみんなに見やすいようにした。
  夜空の写真を使ったキラキラとしたミステリアスなホームページ。
  大きな文字で、「Moonlight Cup」と書かれているのが見える。
はるか「ムーンライトカップ?」
  文字の横に大きく写ったアイドルが、不敵な笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
はるか「CRESCENTだ・・・」

〇学校の部室
はるか「なんの大会?」
ゆき「えっ、この前の姫森代表の話聞いてなかったの?」
  ゆきは信じられない、という声をあげた。

〇大劇場の舞台
ゆき「ブロッサムカップの前の挨拶でさ・・・」
むつみ「さて、ブロッサムカップ決勝の前に二つだけ、発表がございます」
むつみ「まずは、CRESCENTの新メンバーオーディションを開催することに決定いたしました」
むつみ「そしてその”新生CRESCENT”と直接対決ができる大会──」
むつみ「──「Moonlight Cup」を開催いたします」
むつみ「みなさまからのご応募、ご参加、お待ちしておりますわ」
ゆき「・・・って」

〇学校の部室
はるか「いやはや、むつみさんが出てきたのに驚いて・・・」
  はるかは少し赤面しながら、髪の毛の先をくるくるとやった。
さくら「つまり、ムーンライトカップを大きな目標にするってわけだね?」
ゆき「そう・・・でも出場条件がかなり厳しいの」
  ゆきは再びホームページに目を落としながら、顔をしかめた。
ゆき「開催される来年の3月までに、指定の大会で優勝するか、何度か開催されるファン投票で1位にならないといけない」
  四人は顔を見合わせた。
  かなり厳しい条件だ。
ゆづき「駆け出しの私たちがファン投票を勝ち取るのは難しいよね・・・」
はるか「そうなると、どこかの大会で優勝しなくちゃいけない?」
ゆき「そう・・・それが一番ね」
  ゆきは再びパソコンの前に屈み込み、しばらくマウスをかちかちとした後に画面をみんなに見せた。

〇海辺
  こんどのホームページは明るい空と海が印象的な、楽しげなページだった。
ゆき「直近の指定大会はこれね・・・ 「フレッシュサマーカップ」」
さくら「これなら勝てそう?」
  さくらが朗らかに聞いた。
ゆき「現実的に言えば「無理」でしょうね」

〇学校の部室
はるか「でも、勝つくらいの気概でやらなきゃ・・・だよね」
ゆき「その通り」
  ゆきはピシャリと言った。
ゆき「出場枠は大会・投票合わせて8つ 全国のアイドルが目をギラつかせて参加するに決まってる」
ゆき「そこに食い込ませるような実力が必要なんだから、大会のひとつくらい勝てなきゃ」
  はるかは身震いした。
  「大会ひとつ」に勝つことがどれだけ大変な道のりか、この間知ったばかりなのだから・・・
ゆづき「大会は7月でしょう? あと二ヶ月しかないよ・・・」
  5月も中旬に差しかかろうとしていた。
  うかうかしている暇はどこにもない。
はるか「まずはとにかくレッスンしよう 実力を上げないと、元も子もないと思うし」
ゆき「そうだね・・・まずはしっかり土台を作らなきゃ」
  ゆきは大きく頷いた。
  弾かれたように立ち上がり、みんなの方へ向き直る。
ゆき「そうとなったらすぐ着替えて、中庭に集合!」
「はい!」
  はるかとゆづきはジャージをひっつかみ、トイレの方へ急いで駆けていった。
  一方、ぼーっと携帯を見ながらチョコレートバーをかじるさくらを見て、ゆきはキッと目線を向けた。
ゆき「そこっ! 中庭集合!」
さくら「ふ、ふぁいっ!」
  さくらが慌てて立ち上がったので、チョコの欠けらがぽろぽろと床に落ちた。

〇学校の部室
  ──一週間が経った。

〇大きな木のある校舎
はるか「づがれだぁ!!!!」
  それからというものの、ゆきのレッスンはかなり厳しいものとなっていた。
  こうして下校時間すれすれまで残ってレッスンすることも、だんだんと多くなってきた。
ゆづき「私も筋肉痛、なおんないや・・・」
  ゆづきはふくらはぎをさすりながら言った。
ゆづき「でも、成長してる証拠だよね! 明日もがんばろ!」
  ゆづきは明るくそう言うと、門のところで回れ右して帰っていった。
はるか「うん、また明日ねーー!」
  はるかがゆづきの後ろ姿に向かって叫ぶ。
  暗闇の中で、ゆづきが手を大きく振っているのが見えた。
はるか「さて、うちも帰らなきゃ・・・」
はるか「・・・ん?」
  はるかが振り返ると、見知らぬ生徒がはるかを待つように立っているのに気がついた。
  月明かりに照らされて、彼女の肌が青白く光った。
はるか「えっと・・・だれ?」
きり「・・・きり」
  はるかが控えめに聞くと、きりは目を離さずに答えた。
  金色に輝く瞳が、紺色の髪に映えて綺麗だった。
  はるかは思わず見とれてしまいそうになった。
きり「最近中庭でアイドルしてる人・・・」
  きりはほんの少しだけ首を傾けた。
はるか「そうだよ! 籠池はるかって言います!」
  突然、きりははるかの手を優しく包んだ。
  白くて細い指が綺麗だった。

〇空
きり「一緒に帰ろ」
  金色の瞳に見つめられて、はるかはどぎまぎした。
はるか「い・・・いいよ!」
  二人はそのまま手を繋いで、帰路に着いた。
  きりの手は柔らかく、暖かかった。

次のエピソード:第7章 霧の夜

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