Sparking Carats!

西園寺マキア

第5章 譲れない気持ち(脚本)

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西園寺マキア

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〇劇場の座席
  9番目のチームが順番終えると、またも大きな拍手が会場を包んだ。
ゆづき「今のチームもすごかったね」
  ゆきの説明の通り、出演順が後半に差し掛かるほど、アイドル達のレベルが上がっていくようだった。
  今ステージを披露したチームなんかは、事務所所属のプロアイドルであるというから驚きだ。
はるか「gladiolusは、今のところよりもすごいってことだよね」
さくら「そうだねえ、ネットで見る限りかなりの得点差で予選通過したみたいだし」
  SNSの検索欄を見ながら、さくらが朗らかに答えた。
  はるかは再び身震いした。
  先ほどのチームだって、非の打ち所のないステージだった。
  それを上回る?どうやって?
  はるかは期待の気持ちが半分、恐れおののく気持ちが半分ずつだった。
司会者「続きまして──」
  司会者がアナウンスを再開すると、会場は静まり返った。
  観客の呼吸の音さえ聞こえない。
ゆづき「gladiolusが来る・・・」

〇大劇場の舞台
司会者「──エントリーナンバー10番、gladiolus」

〇大劇場の舞台
  ステージの照明がバン、という音とともに明転すると、それと同時に情熱的なイントロがスピーカーから流れ始めた。
  gladiolusの四人が動き始めると、はるかはあっと声をあげた。
  最初に右に手をのばす、たった一つその振りだけではるかにはわかってしまった。
はるか「今までとは、全然違う・・・!」

〇炎
  gladiolusのステージは本当に「完璧」だった。
  手の角度、立ち位置、音程やビブラート、ステージ上の全てにおいて寸分たりとも狂いがない。
  スポットライトに当てられ、センターのアイドルの口元が余裕そうに少し上がるのが見える。
  不安だ、緊張だ・・・今までのチームから感じられたこれらの感情は、たったの一ミリでさえも感じなかった。
  彼女達のステージにあるのはただひとつ──

〇謁見の間
  王者たる絶対の自信──

〇炎
  ──彼女達のステージはさながら、燃え上がる炎のようだった。

〇劇場の座席
  gladiolusが最後のポーズを決めると、会場から一斉に大きな歓声が沸いた。
  評論家気取りだった前の席の観客も、立ち上がり「ブラボー!」と声をあげながら思いっきり手を叩いていた。
さくら「すごい!りょうちゃん、すごいよ!!!」
  さくらが興奮して立ち上がり、叫んでいるのが横で聞こえた。
ゆづき「すごい・・・レベルが違う・・・」
  ゆづきも『ありえない』という顔をして首を振りながら、ひっきりなしに拍手をしている。
はるか「・・・」
  はるかは席から立ち上がれずにいた。

〇コンサート会場
  衝撃だった。
  あの日、リカのステージを見た時のような衝撃が、はるかの体内を貫いていた。

〇劇場の座席
はるか「・・・すごい」
  前の方でゆきが泣きながら手を高速で叩いているのも、はるかには目に入らないようだった
はるか「これが、アイドルの「本気」・・・」

〇まっすぐの廊下
  はるかはあの廊下での出来事を思い出した。
ゆき「もしかして、本気でやってるつもり?」

〇劇場の座席
  足りない。
  足りない。
  足りない。
  足りなかったんだ。
  何もかも。
  アイドルに向き合う気持ち、覚悟、その全て──
  ──でももしかして、いつかその覚悟が十分にできたら、本気でアイドルをしていると胸を張って言うことができたら・・・
はるか「・・・私も、私たちも、あんなステージできるかな」
  はるかは声を絞り出した。
  二人が振り向いた。
はるか「足りなかった なんとなく浮かれた気持ちで始めてた」
はるか「クラスのみんなに褒められたりして、舞い上がったりして・・・」
はるか「簡単で楽しいことだって、心の底で思ってたのかもしれない」
はるか「でも、もうアイドルを舐めたようなことは絶対にしない」
はるか「本気で向き合う、本気でレッスンする」
はるか「だから絶対に、あのステージを諦めたくない!」
はるか「この気持ちは、譲れない!!!」
  はるかがそう言い切ると、さくらがくるりと向き直った。
さくら「・・・うん、できるよ カゴちゃんなら」
  さくらがはるかの手を握って、にっこりと笑った。
さくら「gladiolusだって、DIAmondだって超えていける!」
さくら「あたしも、もう一度頑張ろうかな!」
  さくらの言葉を聞いて、ゆづきもはるかの手をとった。
ゆづき「・・・私もね、ひとつ覚悟ができたの」
  ゆづきは震える声で言った。
  その目は覚悟に満ち溢れている。
ゆづき「・・・聞いて」
ゆづき「・・・ずっと考えてた 横で見ているだけでいいのかなって」

〇中庭
ゆづき「・・・二人に夢を託して、自分はどうせ向いてないって言い訳して」
ゆづき「本当にいいのかなって、ずっと思ってた」
ゆづき「私だっていつか、ステージに出て輝きたいって・・・心の声を押し込めたままで・・・ 本当にいいのかなって」

〇劇場の座席
ゆづき「でも今日思った gladiolusのステージを見て、はるかの覚悟を聞いて・・・」
ゆづき「このまま自分の気持ちに嘘はつけないって」
  ゆづきは一呼吸置いた後、会場中の拍手に負けないくらいの声で叫んだ。
ゆづき「私も、みんなとアイドルやりたい・・・私だって、輝きたい!!!」
  さくらとはるかは豆鉄砲を食らったような顔で驚いた。
  二人はほんの一瞬顔を見合わせたが、やがて頷いた。

〇大劇場の舞台
「もちろん、一緒にやろう!!!」
  はるかとさくらの声が揃ったので、三人は思わず吹き出した。
「さっそく明日から、仕切り直そう!!!」
  三人は決意を胸に、再びステージの方を見た。
  gladiolusの四人が、鳴り止まない拍手や歓声に手を振って応えているのが見えた。
「──いつか、私たちも・・・!」

〇大劇場の舞台

〇劇場の座席
  ──閉演後、点検作業をしに警備員がホールのドアを開けた。
  異常はないかと客席の方を見渡すと、客席の真ん中の方で誰かがぽつんと座っているのが見える。
  厄介ごとになっては困る。
  最近は運営会社とのいざこざがあるとすぐに問題になるのだから・・・
警備員「ちょっと困りますよ、お客さん・・・」
  警備員が近づいてみると、座っていたのは高校生くらいの若い女の子だった。
  まばたきもせずに、今は誰もいないステージをじっと見つめている。
警備員「もうとっくに閉演しましたよ・・・ 親御さんも心配されますし」
???「・・・親はいません」
  彼女は警備員の方をちらりとも見ずに答えた。
警備員「そ、そりゃ・・・ す、すまねえ」
  予想外の答えに警備員がとぎまぎしていると、少女は音もたてずに立ち上がり、ホール出口の方へと歩いて行った。
警備員「お、おい、お嬢ちゃん・・・?」
  少女はホールを出る前に、もう一度だけステージの方へ向き直った。
???「ステージの輝き・・・ 本気の輝き・・・」

〇黒背景
警備員「・・・えっ?」
  警備員が聞き返す間も無く、彼女はホールを出て、暗闇の中へ消えて行ってしまった。

次のエピソード:第6章 視界良好

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