英雄親子は名誉を捨てる

筑豊ナンバー

20話「せめて父親らしく」(脚本)

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〇アジトの一室
アレックス・ワトソン(あの悪魔が言っていることが本当ならあと数週間でこの国に魔王が現れる)
アレックス・ワトソン(今の東軍にそれを迎え撃つ戦力は居るのか? いや・・・)
アレックス・ワトソン(そもそも魔王の──に攻撃を通せる武器や技を持っている人間がこの国に何人いるんだ?)
「あの・・・夜遅くにすみません」
アレックス・ワトソン「寒いだろ?鍵は閉めてないから入ってくれ。ミカ」
ミカ「すみません・・・お邪魔します」
アレックス・ワトソン「どうした?」
ミカ「どうしても眠れなくて・・・なぜかアレックスさんに会いたくなったんです」
ミカ「意味がわからないですよね・・・すみません・・・すぐに帰ります」
アレックス・ワトソン「まて・・・」
アレックス・ワトソン「ちょうど俺も眠れなかったんだ。君が寝付くまで話し合い手になってくれないか?」

〇アジトの一室
アレックス・ワトソン「職場の同僚に教えてももらった水だし緑茶だ」
アレックス・ワトソン「こいつを飲めば寝つきがよくなる」
ミカ「すみません。ありがとうございます」
アレックス・ワトソン「で?何か悩みがあるんだろ?良かったら話してみるよいい」
ミカ「私はあなたが知っての通り「魔王殺しの英雄」です。英雄と言えば聞こえは良いですが実際は──」
ミカ「──誰よりも多く殺した人間なんです」
アレックス・ワトソン「・・・」
ミカ「戦場では数えきれないほどの恨みを買いました。その恨みに私が殺されるのは良いんです。相手側にはその権利がありますから・・・」
ミカ「でも・・・私のせいで関係ない人が殺されるのはもう耐えられないんです・・・」
アレックス・ワトソン「ミカは今何歳だ?確かまだ17になったばかりだよな?」
ミカ「はい・・・最近17になりました」
アレックス・ワトソン「俺がその年齢の時はとにかく遊ぶことしか考えてなかったぞ?」
ミカ「え?」
アレックス・ワトソン「そんなに驚かないでくれ。こんな俺にも若い頃はあったんだよ」
アレックス・ワトソン「俺が若い頃はずっとこう思っていたんだ」
アレックス・ワトソン「大人になったら押し潰されそうなほどの責任や絶望だらけの現実と嫌でも向き合わなくちゃいけなくなる。だから──」
アレックス・ワトソン「若い内位は現実逃避して楽しく過ごそうってな」
アレックス・ワトソン「まだミカは17だろ?だったらそんな責任を感じて考え込む必要はない」
アレックス・ワトソン「その責任は本来俺達大人が持たなくちゃいけない大荷物だ」
アレックス・ワトソン「君の責任も君へ向けられる憎悪も全て俺達大人が請け負う。だから君はもう少し気楽になってもっとわがままになるべきなんだよ」
ミカ「・・・」
ミカ「このまま学校に通い続けても良いんですか?」
アレックス・ワトソン「行きたければ行くといい」
ミカ「親友と買い物に行ってもいいんですか?」
アレックス・ワトソン「ある程度は計算しろよ?」
ミカ「恋と言うものをしてもいいんですか?」
アレックス・ワトソン「・・・その時は俺の元に連れてこい」
アレックス・ワトソン「もっと泣いてわがままを言ってくれ。 年齢なんて今は気にしなくていい」
アレックス・ワトソン「ミカは何年も耐え続けたんだそれを全部はきだしていいんだよ」
ミカ「私は────」

〇アジトの一室
  ミカは今まで誰にも言えなかった悩みや苦しみ、苦悩を全てアレックスに話した。
  お茶が覚めてしまうほど長い時が過ぎたが──
  全く苦を感じなかった。
  むしろやっと父親としての役目を果たせていることに嬉しさを感じる。
  何より今まで見てやれなかったミカの成長の物語を知ることができた。
  ミカの周りにはミカを家族のように良くしてくれる暖かい人がいたと聞いて心から安心することができたからだ。
ミカ「今日はありがとうございました! お陰さまで少し気が楽になりました!!」
アレックス・ワトソン「そうか・・・なら良かった」
ミカ「え~と・・・」
アレックス・ワトソン「どうした?」
ミカ「最後に一つわがままを聞いてもラっていいですか?」

〇英国風の部屋
  寝室へ移動しベットに横になったミカのベットの横に椅子を置き座る。
  確かにアレックスは実の父親だがミカはその事を知らないにもかかわらずここまで心を許してしまうのはどうなのだろうか?
アレックス・ワトソン「あのなぁミカ。いくら信用してるって言っても程があるだろ?」
ミカ「アレックスさんは寝込みを襲うようなまねしませんから」
アレックス・ワトソン「わからねーだろ?もしもの事を考えろ!」
ミカ「大丈夫です。信じてますよ」
  ため息をつく。
  押し負けてしまった
アレックス・ワトソン「俺以外の男に『寝むれるまで横に居て』なんて頼むなよ」
ミカ「え?アレックスさん以外に頼むわけ無いじゃないですか?」
アレックス・ワトソン「お前なぁ」
  再びため息をつく。
   確かに俺はミカの実の父親だ。
  ミカに欲情する訳がない
   だがミカはそのことを知らない。
   。
  それなのにここまで信用されていると、父親だとバレていないか心配になる
ミカ「アレックスさん。お休みなさい」
  どうやら本当にこのまま眠ってしまうらしい
ミカ「・・・」
アレックス・ワトソン「・・・」
アレックス・ワトソン「眠れないようだな」
ミカ「すみません」
アレックス・ワトソン「かまわないさ。ここは一つ昔話でも聞かせてやろう」
ミカ「お願いします」

〇商店街
  一人の男がいた。
   男は目つきが悪く、周りから勘違いされ、よく不良に絡まれていた──
  だが男は強かった。
  気がつけば不良ではないのにも関わらず最強の不良だと呼ばれるようになっていた。
  その噂を聞いた人手不足の軍から男はスカウトされ、もともと正義感が強かったこともあり入隊した。

〇荒廃した市街地
  それからは訓練と実戦を繰り返し続けた。
  何度もを覚悟する場面もあったがその度に守るべき──

〇綺麗なダイニング
  家族のことを思い出せばどんな局面も乗り越えることができた。
  ──男は幸せだった。
  しかし・・・その幸せは長くは続かなかった。
  愛する妻が病に倒れ、そのまま死亡したのだ。

〇基地の広場(瓦礫あり)
  胸にぽっかり空いた穴を誤魔化すため娘をほったらかしにして、戦場を求め続けた。
  まるで死に場所を探すかのように最前線に立ち続ける男はいつしか『英雄』と呼ばれるようになる。
  だが、それでも胸の穴が塞がる事は無かった。
  そんなある日──

〇荒廃した市街地
  男は、とある紛争地帯で少年を保護した。
   少年の姿を見て男は、大切な者を思い出す。

〇綺麗なダイニング
  任務を終えた男は、すぐに軍をやめ、家へ帰った。
   家には、娘がいる‥はずだった。
  探した。探し続けた。
  思い当たる場所から見知らぬ場所まで隅々まで探し続けた。
   だが、娘はその世界のどこにもいない。

〇英国風の部屋
アレックス・ワトソン「皮肉な話だろ?胸の穴を塞ぐ方法は目の前にあった。なのにそれに気づかず逃げ続け、気づいた時には手遅れ遅だったんだ」
  ミカから返事はなかった。
   顔を覗くと、安心したように眠ったミカの顔が目に入る。
アレックス・ワトソン「大きくなったな」
アレックス・ワトソン「今度こそどんな手を使ってでも守ってやる」

〇アジトの一室
アバドン・サルース「時間は、まだある。考え直さなくて良いのか?」
アレックス・ワトソン「ああ。これ以上考える必要はない。お前と契約を結んでやる」
アバドン・サルース「その結果死んでしまってもか?」
アレックス・ワトソン「かまわないさ。 それが俺にできる父親としての最後の役目だ」

次のエピソード:21話「開戦」

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