Sparking Carats!

西園寺マキア

第3章 行き先不安(脚本)

Sparking Carats!

西園寺マキア

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〇中庭
  チーム結成から数週間。
  放課後や昼休みに三人で集まって、レッスンに励むのが日課になっていた。
はるか「いち、に、さん、し・・・」
さくら「うん、ダンスはいいじゃん」
  軽やかな足取りで、はるかは中庭の芝を踏む。
  幼い頃から習っていたおかげで、ダンスだけは得意だった。
さくら「歌いながら、いけそう?」

〇雷

〇中庭
  歌だけは壊滅的だった。
  はるかは口パクでいい、とこれまでにも何度か言われたことがある。
はるか「・・・」
ゆづき「・・・歌うとホントだめだね」
はるか「うわ〜ん!! どうしよう、ふたりとも〜!!」
さくら「あははっ! おもしろくていーじゃん!」
  さくらはかなり楽観的なタイプで、こうしたはるかの欠点をあまり気にしていないようだった。
ゆづき「どうにかしたほうがいいと思うけどねえ」
他の生徒「おっ、今日もやってるねー」
  スピーカーから流れる音楽につられてか、同級生達がこちらへ話しかけてきた。
  最近はレッスン中にギャラリーが出来上がる場面も少なくはない。
はるか「うちの歌、下手くそでしょ〜?」
さくら「あははっ、ほんとほんと!」
生徒たち「でもなんか、二人が踊っているところ見ると元気出るんだよ〜」
ゆづき「まだまだ改善点ばかりだけど、まあ応援してやってくださいな」
  同級生達の言葉を聞いて、はるかは照れながらも満更でもない表情でニヤニヤ笑っている。
生徒たち「ねえ、何か一曲踊ってみてくれたりしない?」
はるか「いいよいいよ! 私たちのステージ、見てってよ!」
  タブレットを立ち上げ、プレイリストに目を通す。
  お気に入り登録している曲は、相変わらずDIAmondの曲ばかりだ。
さくら「じゃあ今日もDIAmondの・・・」
  さくらが「Sparking Carats」のタブをタップすると、流れるようなピアノのメロディが流れ始めた。
  二人がリズムに合わせ、ステップを踏み始めたその瞬間──

〇空
「やめて!」

〇中庭
  突然、中庭に大きな声が響いた。
  声のする方に目をやると、小柄な女子生徒が肩を震わせて立っていた。
???「・・・」
  その場がしんと静まり返ったので、彼女はしまったという表情で辺りを見回した。
はるか「あ、えと・・・」
???「・・・ごめん いいんだよ、いや、好きにしていい・・・」
  彼女はそれだけ言うと、そそくさとその場を去ってしまった。
さくら「今のって・・・」
ゆづき「最近レッスン中に何度か見かける子──同じ学年だったと思うけど」
はるか「何か言いかけてた・・・よね」

〇中庭

〇中庭
はるか「うち、追いかけて聞いてくる」
ゆづき「ちょ・・・っと、はるか!」
  ゆづきの制止する声が背後で聞こえた気がしたが、はるかの足はすでに彼女の消えた方向へと走り出していた。

〇まっすぐの廊下
はるか「ごめん、さっきの子だよね?」
  彼女の背中が見えたので、はるかは声を張り上げた。
はるか「何か気に触ることしちゃったかな・・・」
???「・・・」
  大声をかけられ、彼女は足を止めた。
  気まずそうにしながら、廊下の端に溜まったホコリを見つめている。
はるか「言いたいことあったら、 言ってほしい・・・」
はるか「っていうのは、 うちのわがままかな・・・?」
  はるかの声には反応しない。
  彼女はずっとうつむいたまま、何かを考えているようだった。
???「・・・」
はるか「おねがい・・・」
  はるかはいても立ってもいられず、彼女の小さな手を掴んだ。
  逃げたところで意味はないと察したのか、彼女はしぶしぶと口を開いた。
???「・・・はぁ」
???「別にあなたたちを否定するわけじゃないけど、」

〇ホールの舞台袖
???「アイドルに本気で向き合ってる人も校内にいるのになあって」
はるか「・・・えっ?」
  それは『あなた達はアイドルを侮辱している』とも同意義に捉えられる台詞だった。

〇まっすぐの廊下
はるか「うちら、そんなつもりは・・・」
???「もしかして、本気でやってるつもり?」
  何も答えられないはるかを見て、彼女は廊下のポスターを指差した。
はるか「アイドルトーナメント大会・・・ブロッサムカップ?」
???「今度開かれるアイドルの大会・・・CRESCENTの事務所が開催してる」
???「本気でアイドルやるなら、大会の一つでも見てみたら?」
  彼女はそれだけ言うと、またも足早に去っていってしまった。

〇学校の部室
ゆづき「ブロッサムカップ?」
  その日の放課後、はるかは昼間の出来事を二人に話した。
はるか「うん、本気でやるなら見に行けって」
さくら「へえ、とことんバカにされちゃったね、あたし達」
  さくらはチラシを見ながらニヤっと笑った。
ゆづき「つまり、大会に行って勉強してこいってことだよね」
はるか「うち、コンサートは行ったことあるけど大会に実際に行ったことはないかも・・・」
さくら「あたしもない、なんだか怖そうじゃない?」
はるか「でも、行ってみたいな 大会ってどんな感じなんだろう」

〇炎
  大会のチラシには出場者一覧も掲載されていた。
  ネットでも話題になるような、有名なグループの名前も列挙されている。

〇学校の部室
ゆづき「決勝の開催日はまだだし、とりあえず行ってみる?」
はるか「行きたい行きたい! アイドルのライブなんて、楽しいに決まってるよ!」
さくら「楽しい、ねえ・・・」
ゆづき「とりあえず、チケット取るから 土曜日は会場に集合しよう」
  ゆづきが手際よく携帯を操作し、大会入場チケットの予約完了画面を二人に見せると、三人は顔を見合わせて頷いた。

〇空
  ──土曜日。

〇綺麗なコンサートホール
  3人はブロッサムカップの会場の前で佇んでいた。
はるか「会場・・・で、合ってる・・・よね」
  曇天も相まって、会場は異様な雰囲気に包まれている。
ゆづき「楽しそうな雰囲気は一切ないね・・・」
さくら「あははっ、二人まで他のお客さんと同じ顔してる!」
  会場の外にまで伝わる、びりびりとした緊張感。
  訪れる観客も、どこか神妙な顔つきで入場していく。
はるか「あっ!」
???「本当に来たんだ・・・」
  はるかが看板の下の方に目をやると、身に覚えのある少女がそこに立っていた。
さくら「あれ、もしかしてキミ・・・ ゆきちゃん?」

〇ホールの舞台袖

〇綺麗なコンサートホール
ゆき「・・・ッ!」
はるか「知り合いなの?」
さくら「うん、すっかり忘れてたけど・・・ ちびっこライブで一緒に歌ったあの子にそっくり」
さくら「名門アイドルスクールに通ってた子だよね?」
  さくらが飄々とした様子でそう言うと、ゆきと呼ばれた少女は苦虫をすりつぶしたような顔をした。
さくら「ダンスも歌も上手だったのに突然いなくなっ──」
ゆき「──思い出させないで」
  ゆきはまたしても突然大声をあげた。
  周囲にいた人が2、3人、こちらに振り向いた。
ゆき「・・・ステージは「楽しい」だけじゃない」

〇稽古場
ゆき「ステージに上がるために、耐えて、耐えて、耐えて──」

〇病室(椅子無し)
ゆき「──それでも辿り着けなくて」

〇中庭
ゆき「あなた達の”アレ”は”ステージ”には到底及ばない」

〇綺麗なコンサートホール
ゆき「・・・ここは「楽しい」だけで通用するような甘い世界じゃないの」
  ゆきは吐き捨てるように言い切ると、大股で会場の方へと去っていってしまった。
  先程振り向いた二、三人の観客が、声色を落としてひそひそ話しているのが聞こえる。
  その場に取り残された三人は、ゆきの後ろ姿が会場の扉の奥に消えるまで、ただただ見つめることしかできなかった。

次のエピソード:第4章 難しい道

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