だって悪魔ですもん

オレカタ!

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〇線路沿いの道
  年末。
  宝くじ当選発表の前日。
  僕は1枚の宝くじを拾った。
  もしこれが1億円の当たりくじだったら?
  と想像した時、辺りが煙に包まれて目の前に悪魔が現れた。

〇線路沿いの道
悪魔「ヒヒヒ」
僕「お前はひょっとして、僕の心の中に住む悪魔!?」

〇線路沿いの道
悪魔「その宝くじ、たぶん当たるで! もらっとき!」
僕「それはマズいだろ 当たるとも思えない!」
悪魔「なら一日だけ預かっときや 明日の当選を確認して、外れたら警察に届ければええ」
僕「なるほど なかなかズルい考えだ」
悪魔「悪魔やからな」
僕「けどすぐに届けるよ どうせ当たらないし」
  歩き出そうとすると、悪魔が再びそそのかす。
悪魔「そりゃ1億は無理かもしれへん! けど10万なら当たるかもしれんで! 10万あったら、ヒヒヒ、色んなモン買えるわな」
僕「10万かぁ いい線ついてくるな」
悪魔「悪魔やからな」
  10万と聞いて、頭の中に欲しいものリストが浮かんできた。

〇レトロ
  スニーカー
  自転車
  かばん
  マンガ
  ゲーム
  スマホ
  服
  お菓子
  ケーキ
   ・
   ・
   ・
  10万あれば ほとんど手に入る。
  でも・・・
  お金で買えないものだってある。
  
  いや、むしろ本当に欲しいものはお金では手に入らない。
  よくばってもキリがない。
  あきらめも必要だ。

〇線路沿いの道
悪魔「どや? 10万ほしいやろ?」
僕「いや 交番に届けに行くよ」
悪魔「ほんまかいな!冗談やろ?」
「富川くん?」
早川さん「こんな寒い日に、ひとりで何やってんの?」
  見慣れない私服姿に意表を突かれたが、同じクラスの早川さんだ。
  早川さんはクラス委員長。
  ちょうどよかった。
  常識ある判断をしてくれるに違いない。
僕「早川さん、実はさっき宝くじを拾ったんだ」
早川さん「へぇ、めずらしいもの拾ったね」
僕「すぐに交番届けた方がいいよね?」
  届けたほうが良いに決まってる。
  
  我ながら くだらない質問だ。
  早川さんは まっすぐに僕の目を見ていた。
  
  そしてこう言った。
早川さん「もらっちゃえば」
僕「!!!!!!!!!!」
  意外すぎる答えだ。
早川さん「届けたって どうせ落とした人出て来ないよ」
僕「それは、そうかも」
早川さん「届けるにしてもさ、明日外れたのを確認してからで良いんじゃない?」
僕「早川さん・・・」
  それは悪魔と同じ発想だよ。
早川さん「だって冬休みだし、お金必要でしょ?」
僕「そりゃまあ・・」
早川さん「そういえば駅ビルのお店、年末セールでスニーカー安く売ってたよ」
僕「そうなんだ? ちょうど靴が欲しいとは思ってたけど」
早川さん「そうだ、ついでに「宝くじ当たりました」ツイートすれば? いいね 増えるんじゃない?」
僕「なるほど それは確かに目をひくかもね」
  なんか思ってた意見と違う感じだけど。
  早川さんが味方に付いてくれるんなら
  それで良いのかもしれない。
僕「早川さんがそこまで言うなら・・・」
早川さん「うん、もらっちゃお 10万くらいは当たると思うで やっぱ世の中、銭持っとる奴が一番強いんや」
僕「ん?関西弁!」
早川さん「しまった!」
  早川さんは煙に包まれ、悪魔がそこに現れた。
悪魔「ヒッヒヒ、残念、残念」
僕「クソ!ずるいぞ!」
悪魔「そりゃ、悪魔やからな」
  悪魔の奴め、そんなことまでするなんて。
  しかも、なんかおかしい。
  スニーカーに いいねの数。
  僕の欲しいものをピンポイントで突いて来てる。
  ひょっとして、僕の頭の中の欲しいものリストを盗み見てるんじゃないのか?
  きっとそうだ!
僕「くそ!卑怯だぞ! 好き勝手しやがって!」
悪魔「イヒヒヒヒ」
僕「今すぐ交番に行く! もう誰の言うことも聞かない!」
  悪魔に背を向け、勢いをつけて歩き出す。

〇ゆるやかな坂道
「痛っ!」
  誰かにぶつかった。
僕「またお前か!しつこい奴だな!」
早川さん「痛たた・・・って富川くん?」
僕「僕の好きな早川さんを利用するなんて! 本当に卑怯だぞ!許せない!」
早川さん「え、富川くん? どうしたの?」
  悪魔め。リストの最上位に位置する早川さんを とことん利用する気だな。
早川さん「富川くん、冗談やめてよー」
僕「そっちこそ! 僕を悪の道に引き込むのはやめろ!」
早川さん「?? なんだか意味わかんないよ」
僕「だいたい、早川さんと偶然出会うようなラッキーが起こるわけないんだ! ここで何してる?説明してみろ!」
早川さん「うん、さっき宝くじを買ったんだけど、1枚風に飛ばされちゃって」
僕「え、宝くじ?」
早川さん「こっちの方に飛んで行った気がしたんだけど・・・」
僕「宝くじなら・・・さっきそこで1枚拾ったよ」
早川さん「うっそ?見せて! 連番だから・・・間違いない! これだ!」
僕「ほんとに? 早川さんなの?」
早川さん「警察に届けない人もいるからさ 拾ったのが富川くんでよかったよ!」
僕「本物の早川さん」
  急に嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになった。
早川さん「こういうのって 失くしたのに限って当たったりするからさ、見つかってよかったよ」
僕「僕の方も・・・なんかよかった」
早川さん「ありがとう!富川くん!」
  と言って 勢いよく手を握ってきた。
  くそっ。かわいいな。
  早川さん。キミは小悪魔だ。

〇街中の道路
  ──次の日──
早川さん「富川くん!当たった!当たった!」
僕「早川さん! まさか・・・1億円?」
早川さん「いや、1万円だよ!」
僕「なんだ1万か」
早川さん「よし、じゃあ出かけよっか」
僕「ん、どこに?」
早川さん「拾ってくれた お礼をしなきゃ」
  まさかの展開だ!
早川さん「どこ行きたい?何か食べたいものとかある?」
  やったぞ!
  宝くじが僕に幸運を運んでくれたんだ!
早川さん「たこ焼き、串カツ、お好み焼き! 何でもおごるで!」
  やったぞー!
  早川さんとデートだ!
悪魔「悪魔やけどな」

コメント

  • 悪魔が主人公の心と、このストーリー自体を楽しくかき乱してくれてますね!スッキリした文体で築かれる世界をぐにょぐにょに。ラストのオチもお見事なくらいキレイですね!

  • 面白い!最後早川さんが関西弁になってたのも上手い!話の展開も自然で、笑いの要素、善悪の葛藤なども織り込まれ、文章も自然で、楽しく読むことができました!

  • 何が本当で、何が嘘かわからない中で、最後のオチがすごかったです笑
    主人公は最後までまじめだったので好感が持てました。
    でも、そういう人間だからこそ悪魔がちょっかい出したいのかもしれませんね。

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