〇大きい交差点
薬師寺廉太郎「・・・なにが目的？」
ナオ「もう、そんな警戒した目で見ないでってば」
ナオ「僕の目的はひとつ。 テケテケを倒す、それだけだよ」
ナオ「狐のお兄ちゃんも気づいてるんでしょ？ 奴の異常性に」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
茶村和成（テケテケの異常性・・・？）
　　ナオは笑みを深めると、じっと俺たちを見つめた。
ナオ「他の怪異に干渉できている時点で普通じゃないよ。 通常、怪異は自己で完結するものだ」
ナオ「それこそ僕のような６柱となれば話は別だけどね」
ナオ「あと・・・、「怪異を喰う」のは、君の専売特許かと思ってたよ」
ナオ「・・・なにか思い当たることがあるんじゃないのかなぁ？」
薬師寺廉太郎「・・・さあね」
ナオ「ふふっ、そっかあ」
ナオ「それともうひとつ、単純にこれ以上力をつけられると厄介だからね」
ナオ「というわけで協力してほしいんだけど、・・・どうかな？」
薬師寺廉太郎「いやだ」
茶村和成「お、おい？ 薬師寺？」
薬師寺廉太郎「別に俺が君に協力する理由はないよ」
薬師寺廉太郎「だいたい、自分でやればいいじゃない。 いくら強くなってるとはいえ君が倒せない相手じゃないでしょ」
茶村和成（な、なんとなく子供っぽさを感じる・・・）
ナオ「むー、いじわるだなぁ」
ナオ「そりゃそうしたいのは山々だけどそういうわけにもいかなくてさ」
ナオ「僕が移動できる範囲には制限があるからね。 いつでもどこでも行けるわけじゃないんだよ」
薬師寺廉太郎「そんなの俺の知ったことじゃないね」
茶村和成「薬師寺・・・。ちょっと大人げないぞ」
薬師寺廉太郎「大人げないって・・・。 こいつ、こんな見た目だけど俺たちなんかよりはるかに年寄りだからね？」
ナオ「ひどおい！ 年寄りなんて言わないでよ！」
茶村和成「まあまあ・・・、ふたりとも落ち着いてくれ・・・」
茶村和成「テケテケを倒すっていう目的は一致してるわけだし、ここは協力したほうがいいんじゃないのか？」
ナオ「さすが茶村お兄ちゃんっ！」
茶村和成「おわっ」
　　勢いよく飛びついてきたナオをとっさに受け止める。
ナオ「えへへ」
薬師寺廉太郎「も、もう茶村～～っ！ それが嫌なんだってば！」
茶村和成「はは・・・」
茶村和成「まあ、ちょうど煮詰まってたところだし」
茶村和成「まず今やるべきことはテケテケについて解決することだろ？」
薬師寺廉太郎「はあ・・・、・・・わかったよ」
ナオ「決まりだね」
薬師寺廉太郎「別に君のためじゃないから」
ナオ「ふふっ。 協力してくれると決まれば、情報の提供は惜しまないつもりだよ」
ナオ「僕のところには噂が集まるからね」
薬師寺廉太郎「そこまで言うんならすでに目星はついてるんだろうね？」
ナオ「まかせてよ」
ナオ「テケテケは君たちが住んでいる町を中心に、いたるところに現れてはそこにいる怪異を喰ってるわけだよね」
ナオ「テケテケ自身も怪異だから、生まれるもとになった依り代（よりしろ）となるものがあるはず」
ナオ「まずはこれを探す必要がある」
ナオ「そのためにまず、茶村お兄ちゃんにある場所に行って欲しいんだ」
茶村和成「ある場所？」
ナオ「まあとりあえずは動かないとなにも始まらないよねっ」

〇大きい交差点
薬師寺廉太郎「むー・・・」
茶村和成「そろそろ機嫌なおしたらどうだ？」
薬師寺廉太郎「どうにもうまく使われてる気が・・・」
茶村和成「まあまあ・・・。 でも今は協力するしかないだろ」
　　ナオに教えられた場所は、俺たちの高校からそう遠くない位置にある住宅街だった。
　　特に変わったものもなく、俺と薬師寺は足を進めて行く。
茶村和成「と・・・、ナオが言ってたのはそこの曲がり角のところだな」
　　さて曲がろうと足を踏み出した瞬間、ぴたりと身体が止まった。
茶村和成「ッ・・・」
　　なにかがそこにあったわけではない。
　　おそらく、怪異についてなんの知識も経験もない普通の人が目にしたところでなにも感じないんだろう。
薬師寺廉太郎「これは・・・。ずいぶん溜まってるねぇ」
　　ドロドロとした空気の渦のようなものが肌を撫でるのを感じ、背筋が冷える。
茶村和成（なんだこれ・・・、怨念の塊、みたいな・・・）
ナオ「ここで怪異が喰われたのはつい数時間前のことだからね」
ナオ「まだ思念が強く残ってるみたいだ」
茶村和成「あれ？ ナオ、なんで・・・」
ナオ「ここは近くにトイレがあるから僕も出てこれるんだよ」
ナオ「ね、茶村お兄ちゃん。なにか感じる？」
　　突然、ナオが俺の手を握って曲がり角の先へと一歩を踏み出す。
茶村和成「へ・・・」
薬師寺廉太郎「っ！ おい」
　　導かれるように足を踏み出した瞬間、ドロドロとしたものが俺の全身にまとわりついた。
茶村和成（グッ・・・!! 頭の中に、なにか・・・）
茶村和成（喰われた怪異の、記憶・・・？）
　　それも１体だけではない。
　　いくつもの怪異たちの悲痛や苦悶の感情が雪崩のように流れ込んでくる。
茶村和成（こいつら皆、テケテケに喰われた怪異なのか・・・？）
薬師寺廉太郎「茶村ッ!! 大丈夫!?」
茶村和成「う・・・、なんとか、な・・・」
ナオ「・・・狐のお兄ちゃん。顔、怖いよ」
薬師寺廉太郎「・・・茶村を利用したな？」
ナオ「・・・悪いけど時間がなかったからね」
ナオ「茶村お兄ちゃん、ごめんね。立てる？」
茶村和成「あ、ああ・・・、ッウ」
茶村和成（まだなにか流れ込んで・・・）
ナオ「！」
ナオ「なにか見える？ 教えて」
茶村和成「・・・山の中の・・・、倉庫・・・？ いや・・・、線路が敷いてある・・・」
ナオ「山・・・、線路・・・なるほどね。 ありがとう。おかげで特定できたよ」
薬師寺廉太郎「・・・２度目はないぞ」
茶村和成「薬師寺。俺なら大丈夫だ」
茶村和成「それより、急いだほうがいいんだろ？」
ナオ（・・・ん？ これは・・・）
茶村和成「ナオ？・・・どうした？」
ナオ「！ ・・・いや、気にしないで。」
ナオ「茶村お兄ちゃんの言う通り、急いだほうがいい」
ナオ「今から言う場所に向かってくれる？ 僕はそこには行くことはできない」