読切(脚本)
〇宇宙空間
黄昏近くになるとそわそわし出すと、アレまた白公が月にとられるよと婆が言った。
白とは李白のことで、詩才も無いのに大層な渾名だった。
婆の言うとおりそろそろ月の出る頃だ。
月には女がいて、それを見るために空を眺めているのだ。
他の人には見えないようだから、あの女がと騒ぐ自分の姿は周囲の人間からすると随分奇異に見えるらしい。
月の女は常人とも思えなかったからそうなのだろう。
見ていて飽きることはない。とかく美しかった。どうにかしてあの女を地上に呼び寄せたかったが、手段がなければ眺めるだけだ。
月が出ている。
女「なあ物好きな御仁よの」
女が喋った。幻だろう。
女「にらめっこかと付き合ってみたが、見ているばかりでは飽きるだろう」
女「かと言ってやめる気もなし、どうする気かえ」
どうするものでもないし、どうすることもできないのだと思う腹の内を知って知らずかふんと女が鼻を鳴らした。
女「出来ぬはお前だけじゃ。お前が落ちてくればええわ」
天地が反転するのが見えた。
月に向かって落ちて行く。
「できぬと思うたか。そりゃ、お前の過ちじゃわい」
暗闇の中で女がそう呟くの聞こえたが、それを他に伝える術は無かった。
『月下独酌』のような空気感から、さらに美女とのコミュニケーション!? イチ酒呑みかつ月好きとしては、この作中世界、大好きです!