怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード52(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇荒れた公衆トイレ
茶村和成「なんで・・・」
ナオ「茶村お兄ちゃんのピンチとあらば、どこにだって駆けつけるよ」
  「よっと」とナオは腰掛けていた便器から降り、個室から出た。
  カボチャ頭は俺の上から飛びのき、ナオから距離をとるようにじりじりと後ろに下がっている。
ナオ「わあ、カボチャさん。すごいね。 どうなってるの?その頭」
茶村和成「ナ、ナオ! そいつに近づくな!」
茶村和成「・・・って、え?」
  カボチャ頭の怪異は素早く小窓に飛びつくと、あっという間に姿を消した。
ナオ「・・・逃げちゃったね」
茶村和成「どうして・・・」
ナオ「なあんでだろうね?」
茶村和成「・・・?」
薬師寺廉太郎「茶村ッ!!」
茶村和成「っ、薬師寺」
薬師寺廉太郎「よかった・・・。 怪異の姿が見えたから慌てて──」
  そこまで言って薬師寺が言葉を止める。
薬師寺廉太郎「お前・・・」
ナオ「こんばんは。狐のお兄ちゃん」
茶村和成(・・・え?)
茶村和成「知り合い。なのか・・・?」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
ナオ「知り合いっていうか、ねえ?」
薬師寺廉太郎「・・・どういうつもり?」
ナオ「それはこっちのセリフだよ」
ナオ「・・・茶村お兄ちゃんを守れないなら、僕がもらっちゃうよ?」
茶村和成「え・・・」
薬師寺廉太郎「・・・・・・」
  薬師寺は無言でナオをにらんでいる。
  まったく目が笑っていないふたりに挟まれ、俺は冷や汗を流すしかなかった。
ナオ「あはっ、なーんちゃって! そんなに怖い顔しないでよ」
ナオ「あ、そうだ。茶村お兄ちゃん」
茶村和成「ん?」
ナオ「はい、これ。 前に渡した分は割れちゃったでしょ?」
茶村和成「あ、玉・・・」
ナオ「だーいじに持っててね」
ナオ「それじゃ、そろそろ帰ろうかな」
茶村和成「ちょ・・・、ナオ、待っ・・・、まだ聞きたいことが・・・!」
ナオ「またすぐに会えるよ」
  ナオがすっと個室へと入る。
  追いかけるように扉を開けるが、もうそこにナオの姿はなかった。
薬師寺廉太郎「はーあ・・・」
薬師寺廉太郎「・・・大丈夫? 茶村」
茶村和成「ああ・・・て、てか薬師寺!」
茶村和成「異世界鏡のとき、覚えてるか? 俺が言ってた男の子の話・・・」
茶村和成「あれがナオなんだ」
薬師寺廉太郎「あー・・・、腑に落ちたや」
薬師寺廉太郎「にしてもまさかこのレベルが関わってきてるとはねぇ・・・。 さすが茶村というかなんというか・・・」
茶村和成「・・・ナオはいったい何者なんだ? 怪異なんだろ?」
薬師寺廉太郎「うん。それも最上位の怪異だよ」
薬師寺廉太郎「虚世(うつろよ)の結界を守る、6体の怪異・・・、“6柱”のうちのひとつ」
茶村和成「・・・!」
薬師寺廉太郎「なんなら茶村も知ってると思うけど・・・」
薬師寺廉太郎「いわゆる“トイレの花子さん”だよ。 あいつの正体」
茶村和成「え・・・」
茶村和成「えええええええええ!?」
薬師寺廉太郎「・・・驚きすぎじゃない?」
茶村和成「いや、だって、花子さんっていったらおかっぱ頭の女の子じゃないのか!?」
薬師寺廉太郎「それ、あいつが情報操作して作り上げたイメージ」
茶村和成「イ、イメージって・・・」
薬師寺廉太郎「どういう意図かは知らないけど、おおかた楽しんでるだけだろうねぇ」
  まったく予想していなかった事実に俺はぽかんと口を開けることしかできない。
  トイレの花子さんなんて、もはや知らない人がいないくらい有名な怪異じゃないか。
薬師寺廉太郎「まあ、詳しくはまた今度」
薬師寺廉太郎「今はとりあえず八木さんのところに戻ろう」
茶村和成「わ、わかった・・・」

〇住宅街
  あれから数時間後、俺と薬師寺は八木さんの運転する車に揺られていた。
  「疲れちゃった〜」と言いながら無断で俺の膝を枕に使う薬師寺を見てため息をついた。
茶村和成「結局、トイレにいた怪異はなんだったんだ? 俺はなんか薬師寺が倒したヤツとは違う気がしてて・・・」
薬師寺廉太郎「よく気が付いたねぇ。 そう、あいつらはそれぞれ違うモノだ」
茶村和成「違うモノ・・・。 つまり怪異が2体いたってことか?」
薬師寺廉太郎「そういうこと~」
八木要「ここからは推測になるが、始まりになった5年前の事件はさっき逃げ出した怪異・・・。 ここでは怪異Aとしよう」
八木要「その怪異Aが起こしたものだろう」
八木要「ただその事件がニュースやネット上で30年前の皮剝事件と関連づけられて人々の間で噂が広まった結果・・・」
八木要「それが都市伝説となって皮剝事件の犯人が新たな怪異Bとなったのだと思う」
茶村和成「怪異が怪異を産む・・・。 そんなことがあるんですね」
茶村和成(おそらく俺が最初に人ごみの中で見たやつと、トイレで襲ってきたのが怪異A)
茶村和成(女子高生を襲ったのが怪異Bだろう)
薬師寺廉太郎「まぁ滅多にない話だけどあるにはあるね。 でもそうやって産まれた怪異Bは普通の怪異みたいにはなれないんだ」
薬師寺廉太郎「力も弱いし、産まれた元の怪異Aに引っ張られて縛られることになる」
茶村和成「縛られる?」
薬師寺廉太郎「そうそう、元の怪異Aと姿がそっくりだったり、同じ行動をとるようになったりね」
薬師寺廉太郎「茶村も見たでしょ?」
  俺は路地で見た怪異の記憶を思い出した。
茶村和成「・・・まるで地獄の業火に焼かれているかのような苦しみが、伝わってきました」
茶村和成(勝手に呼び出されて、無理矢理人殺しをさせられる。 それはどれだけつらいことなんだろう)
茶村和成(生前に人を殺したことは当然許されることじゃないけど)
茶村和成(今なら、時折あいつが見せていた不安定な感情の揺らぎも理解できる。 ・・・ずっと葛藤していたんだろう)
茶村和成「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「まぁこれが真実だったと仮定してもまだわからないことも多いけどね」
薬師寺廉太郎「怪異Aについては、正体とか、なぜ5年前に突然姿を現したのか、とか全然わかってないし」
茶村和成「そういえば、逃げたやつ・・・、怪異Aだよな? は、放っておいて大丈夫なのか?」
薬師寺廉太郎「まぁ、ほんとは捕まえたいけど。 今から追っても今日中に捕まえるのは無理かな」
薬師寺廉太郎「日付が変わっちゃったら次のハロウィンまでは出てこないし」
茶村和成「そうか・・・」
八木要「そいつに関しては来年改めて頼むことになるかもな」
  車がゆるやかにカーブを曲がる。
八木要「・・・ん。雨か」
茶村和成「おわ・・・、急に降ってきましたね」
  ザー、と音を立てて水滴が窓ガラスに打ち付けられている。
薬師寺廉太郎「ふわ〜あ・・・。 雨の音聞いてたら眠くなってきちゃった」
八木要「着くまではしばらくかかる。 眠っていてかまわんぞ」
薬師寺廉太郎「は〜い」
茶村和成「・・・どさくさに紛れて太ももをもむな」
薬師寺廉太郎「あてっ」
  足にまとわりつく薬師寺の手をはたき落とし、ため息を吐く。
茶村和成(俺も少し、寝るか・・・)
  降りしきる雨の音と心地いい揺れに身を任せ、俺はまどろみの中意識を手放した。

〇高層ビル群
八木要「着いたぞ」
茶村和成「ん・・・、あ、ありがとうございます」
茶村和成「おい薬師寺、起きろ」
薬師寺廉太郎「ん〜、ねむ・・・」
茶村和成「しゃきっとしろよ」
  まだうとうとしている薬師寺を起き上がらせ、車から降りる。

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