六話(脚本)
〇小さな小屋
???「――おや、待ちくたびれましたよ」
似顔絵とほとんど一致する男がアンティークチェアに座っていた。
男の前にはデボラから聞いていた主人の特徴と一致する男。
薄墨界「あんた、もしかして」
オンブル「ええ。どうも、探偵さん。お会い出来て光栄です」
立ち上がると界に、礼儀正しく一礼した。
本当に貴族のような風貌の男だと思ったが、どことなく、似ている。
オンブル「おや、少女も一緒なのではないのですか?」
薄墨界「少女? 悪いが俺一人だ」
オンブル「それは誠に残念です」
オンブル「三人で来られていると思ったのですが・・・・・・」
薄墨界「三人・・・・・・?」
ふと、部屋の中を見渡すと、オグルの姿がなかった。
先にここへ来ていると思っていたが、どうやら別の場所にいるらしい。
しかし、ほとんどの部屋は確認しているはずだが。
オンブル「あの少年のことをお探しですか?」
薄墨界「なんで知っているんだ?」
そう身構えると、オンブルらしき男はふふっと微笑み、
椅子の隣に設置していた水晶をその場で念力を使って引き寄せ、界に見せた。
薄墨界「は、・・・・・・?」
そこには、女性の手首から伸びる蔦で捕まっているオグルの姿が映し出されていた。
薄墨界「オグル、なんで?」
オンブル「実に滑稽ですね」
薄墨界「それに、あの女・・・・・・」
オンブル「ええ、私の仲間です」
オンブル「私の妻と姉妹、だと言っていました」
薄墨界「・・・・・・妻?」
オンブル「実は私、子供を探しているんです」
オンブル「彼女たちが幼い頃に生き別れてしまいまして、」
オンブル「それからずっと、ずっと探しているのです」
彼女たち、という言葉が妙に引っかかった。
それに、どことなく似ているという直感。
もしかして・・・・・・いや、まさか。
オンブル「それとですね、私。貴方がたが邸宅へ来るのを待っていたんですよ」
オンブル「この家は元々、あの女性の持ち物でしたが仕事先のトラブルが重なり、」
オンブル「ついには貴族としての誇りを捨てなければならなくなった」
オンブル「この家は一度売却されましたが、私が買い取ったんです」
オンブル「そうして私はこの家に魔法をかけ、ほとんどの人間から視認されないようにしました」
オンブル「貴方がたが来るだろうこの日に、ようやく日の目を見ることが出来たのです」
嬉々として語るこの男を、界は気味が悪いとでも言うように引いた目で見ていた。
オンブル「・・・・・・分かっていたのです。全て」
オンブル「なぜなら私が仕組んだことだから」
オンブル「あの時、あの少女たちとすれ違った時、安堵したのです」
オンブル「“ようやく出会えた”と」
オンブル「そして、ある夫婦に近づきました」
オンブル「片方はマンネリズムに陥っているようで、とても都合が良かった」
オンブル「なので女性に近づき、悪魔の囁きを」
口に人差し指を近づける。
その様子を見た、床で呻く男は鼻水をすすり、泣き始めた。
オンブル「ふふ。この男性には酷な話でしょうが、貴方には必要な話ですね」
オンブル「どうですか? これで全て分かったでしょう?」
薄墨界「・・・・・・デボラさんたちは、ただ利用されただけ・・・・・・」
薄墨界「自分の子供と会いたかったのなら、なぜ他人を利用する必要がある?」
薄墨界「他にもやり方はいくらでもあっただろうに」
悲しげな表情をし、拳を握りしめる。
オンブル「・・・・・・そう。私には人の気持ちは理解できません」
オンブル「なので、貴方がなぜお怒りなのか、理解しかねます」
オンブル「私はただ、来てくれると信じていたから、こうしたまでです」
オンブル「なので、今日ここに貴方がたが来られなかった場合、」
オンブル「この男性の命は分かりませんが、次の行動に移したことでしょう」
オンブル「結果オーライじゃないですか」
オンブル「こうして会いに来てくださったのですから」
男は明らかに怯えていた。
界は彼を一瞥すると、オンブルを睨みつけた。
オンブル「おお、怖い」
オンブル「でもほら、来てくださったのですから、この男性はお役御免です」
オンブル「帰宅していただいて構いませんよ」
オンブル「ただ・・・」
オンブルは男のロープを魔法で千切ると、念力で界の方へ投げ飛ばした。
男「おわぁッ!?︎」
薄墨界「おっ、と」
咄嗟に男を支えると、優しく床に下ろしてやった。
オンブル「彼女と交換です」
オンブル「二人来ているわけではないのですね、残念です」
薄墨界「なぜ?」
オンブル「言ったでしょう」
オンブル「子供を探しているのです」
オンブル「私の子供を」
やはり、アルベリが狙いだったのか。
――その時、階段の下で待っているはずのアルベリが、部屋に入ってきた。
虚ろな瞳はどこを見ているのか分からない。
オンブル「おや、来てくれましたね」
オンブル「私の可愛いアルベリ」
さあ、おいで、と優しく声をかけると、アルベリはオンブルの方へ歩いて行った。
薄墨界「おいッ!」
薄墨界「おい、待て!」
薄墨界「やめろ、アルベリ!」
オンブル「何故です? 私の家族を迎えに来ただけじゃないですか」
薄墨界「お前、何を企んでいるんだ!」
薄墨界「正気に戻せ!」
オンブル「これが正気じゃないとでも?」
アルベリの頭を優しく撫でながらそう言った。
物を操る魔法は色関係なく出来るとしても、
人を操るような魔法は、界と同じく、赤もしくは、白でなければ、ほとんどの場合できないとされている。
異様な空気を感じていた。
只者ではないのかもしれない。
薄墨界「・・・・・・オグルを解放しろ、アルベリを正気に戻せ」
オンブル「要求が多いですね」
オンブル「でも、少年の方は大丈夫なようですよ」
そう言うと、水晶玉に二人が映った。
オグルに巻きついていた蔦は床に散らばり、女性は倒れている。
そしてオグルはじっとこちらを見ていた。
オンブル「あの少年、なかなかですね。欲しい」
薄墨界「気色悪いことを言うな、アルベリ!」
水晶玉に映るオグルの姿をじっと見つめるオンブルの隙をつき、アルベリの元へ駆け寄ろうとした。
オンブル「貴方は魔法使いでしょう?」
オンブル「魔法を使いなさい。ジャポネの青年」
暗い部屋に突如眩い光が差し、一瞬怯んでしまった。
その隙に、オンブルに逃げられてしまった。
ジョルジュ「た、大変だ、・・・・・・」
床を這う男はそのまま階段を降りようとしていた。
薄墨界「ま、待ってください、俺が支えますから」
男の腕を肩にまわし、ゆっくりと階段を降りていった。