七話(脚本)
〇立派な洋館
邸宅を出ると、すっかり夜になっていた。
界たちが扉を出た少し後に、オグルがやってきた。
オグル・グリム「あれー? アルベリちゃんどこ行ったの?」
薄墨界「・・・・・・」
無邪気な子供のような声色できょろきょろをあたりを見渡す。
その姿に男は怯えていた。
男にも水晶玉の中の光景が見えていたのだろう。
オグル・グリム「やられちゃったんだね、お兄さん」
オグル・グリム「でも、ほら、デボラさんのところに行こうよ」
薄墨界「・・・・・・」
薄墨界「・・・・・・ああ」
アルベリが連れていかれてしまったことに落胆し、力なく男の家へ向かった。
デボラの待つ家までは男から道を聞き、何事もなく、無事に辿り着くことができた。
迎えてくれたデボラは主人の姿を見るとわっと泣き出し、優しく抱擁した。
何度も頭を下げ、嗚咽を漏らしながら二人に礼を言った。
〇英国風の図書館
図書館へ戻ると、ララが困惑したような表情をして迎えた。
ララ「お帰りなさい」
薄墨界「どうした?」
ララ「・・・・・・フレジーアが、いないわ」
薄墨界「・・・・・・・・・」
一日のうちに姉妹二人ともいなくなるとは。
帰り際にオグルが言っていた。
『片割れも消えてるんじゃないかな』
やはり当たっていた。
当たってしまっていた。
界は力なく床に座り込んだ。
ララ「カイ?」
オグル・グリム「お兄さん、今日疲れたもんね」
オグル・グリム「明日にしようよ、探すの」
オグル・グリム「あ、僕もほら、手伝うからさ」
薄墨界「・・・・・・」
今までこのようなことはなかった。
向こうも、きっと探していたのだろうと思う。
本当に大切な家族だったのなら、血眼になって探すのは理解できる。
しかし、あの男から優しさや人の温かさは感じられない。
本当の人の温かさを知っている界には、男が嘘の塊のような人物であると感じていた。
〇豪華な部屋
食事をする気にもなれず、自室に直行した界は机に向かい、手帳を広げて頭を抱えていた。
扉越し、ララは心配そうにその背中を見つめた。
オグル・グリム「お兄さんさ、こんな風になったことないよね?」
ララ「ええ、無いわ」
ララ「もっと、強い人だと思っていた」
オグル・グリム「それだけ二人に入れ込んでいたのかな」
ララ「どうかしら」
ララ「でも・・・・・・二人と仕事をしているときは、」
ララ「本来の自分でいられたんじゃないかしら」
オグル・グリム「優しい子たちだもんね、」
オグル・グリム「僕もあんな純粋な子たち初めてだもん」
ララ「ええ・・・・・・でも、その人、危ないわよね?」
オグル・グリム「お兄さんの話によると、操られているように感じたって」
オグル・グリム「アルベリちゃんの意思は感じられなかったって言ってたよ」
ララ「そう・・・・・・」
ララ「人を操る魔法って、確か」
オグル・グリム「赤か白だね」
オグル・グリム「どっちも脳に直接信号を与えられるから、」
オグル・グリム「どっちみち二人体制ならきついね」
オグル・グリム「ま、女の人の方は僕がやっつけたけどね!」
自慢げに胸を張るオグルを一瞥することなく、ララは「そう」と相槌を打った。
オグル・グリム「お姉さんってば本当にお兄さんのこと好きだよねー」
何気なく言った一言にララは耳を赤くした。
ララ「へ、ち、違うわ」
オグル・グリム「何が違うの?」
オグル・グリム「僕がこうなってもこんなに心配しないでしょ?」
ララ「そ、そんなの・・・・・・」
オグル・グリム「ふうん。まあ良いけどさ」
適当に会話を切り上げると、オグルは界の方へ歩いていく。
オグル・グリム「お兄さん、どう思う?」
薄墨界「分からないことだらけだ」
薄墨界「――父さんは、父さんなら、どうしたんだろう」
オグル・グリム「・・・・・・それって、考えてどうするの?」
オグル・グリム「界お兄さんは界お兄さんでしょ?」
オグル・グリム「どうしたいのか言ってみてよ」
薄墨界「それは・・・・・・・・・・・・」
何も分からなかった。
オンブルという男が、あの双子の実親で、生き別れてからずっと探していたというのは理解できる。
理解できるが、問題はあの男の素性が分からないと言うこと。
名前を本人が名乗ったわけではない。
自分の子供だと言っていたが、本当にそうなのかどうか確証が持てない。
どうするのが最善なのだろう。
ララ「この町に情報屋って他にいるのかしら」
ララはふとそんなことを呟いた。
薄墨界「この町をよく知る人物、ということか・・・?」
オグル・グリム「町によく出ていて、長く生きてる人なら、心当たりあるよね?」
薄墨界「お前・・・」
オグル・グリム「ふふっ。僕ならその人に聞くけど、」
オグル・グリム「でも実際、」
オグル・グリム「他に似たような事件とか噂とかないかどうか調べるのも手だと思うけどな」
ララ「それなら私に任せてちょうだい」
ララ「“ここ”なら何でもあるから」
――グリモワール図書館。
国や自治体の影響を一切受けず、本を貯蔵でき、人々に共有できる唯一の魔法図書館。
見た目はただの洋館だが、中は見た目とは裏腹に広々とした空間で、三階建ての大きな本棚が所狭しと並んでいる。
アルベリはここに並ぶ本のジャンルや場所を把握しているらしい。
膨大な図書の量を調べるのはとてもじゃないが一人では出来ないだろう。
アルベリがしているからと言って、同じことがたった一人でできるとも限らない。
ララ「魔女の力は偉大」
ララ「けれど実際、ほとんど使われないの」
ララ「あるとすれば、自然災害を一時的に防ぐくらいかしら」
ララ「ここの本を片っ端から読むより、」
ララ「魔法である程度はじいた方が効率がいいでしょう?」
ララは微笑んだ。
オグル・グリム「なら、ここはお姉さんに任せて、」
オグル・グリム「僕らはあの人のところに行ってみようよ」
心当たりがある。
しかし、彼に会える保証はない。
だが、オグルは自信があるようだった。
薄墨界「分かった。そうしよう」
薄墨界「でもまず、今日は休もう」
オグル・グリム「うん」
オグル・グリム「僕もその方がいいと思うよ」
ララ「カイ、少し食べた方がいいんじゃないかしら」
ララ「さっき食べていなかったし」
薄墨界「・・・・・・」
薄墨界「そうだな、そうする」
その日は軽食を作って食べ、程なくして就寝した。