〇結婚式場の階段
　　ゴーン　ゴーン
澤田広志「こんな私が、本当に娘を祝っても良いのだろうか・・・」
「広志（ひろし）さん。 真美（まみ）の結婚式が見られる日は 今日しか無いのよ？」
「昨日２人で祝うって決めたじゃない。 さあ、明るい顔に切り替えて！ 今日は真美を笑顔で送り出さなきゃ！」
澤田広志「そうだな美智子（みちこ） ダメなパパだが、真美には良い顔を見せてあげないとな。 ウダウダ悩むのは終わりだ、行こう！」
　　今の私に、真美を祝福出来る価値はあるのだろうか？
　　ーそんな気持ちは正直、捨て切れない。
　　しかし妻の言う通り
　　娘の晴れの舞台を祝わない父親が何処にいるのか？
　　私は勇気を振り絞り、ドアに手を掛けた

〇結婚式場の階段
　　話は、前日に遡る・・・

〇白
　　式の前日

〇アパートのダイニング
澤田広志「・・・・・・おはよう、美智子。 今日も良い天気だな。 昨日は酒で潰れてしまって悪かった」
澤田広志「・・・また、無視か。 最近はストレスが溜まってるんだよ。 会社の上司が俺を毛嫌いしててな」
澤田広志「あんだけ会社に尽くしてきたのに 俺の価値が分からんのか！ と、朝からグチグチ言ってすまん」
澤田広志「弁当は無しか・・・ じゃあ行ってくる」

〇一軒家
澤田広志「行ってきます」
　　いつからだろう。
　　虚しい日々だ。
　　愛娘が家を離れて、夫婦の会話も減った。
　　最近では、職場でも厄介者扱い。
　　歳を取る度に、居場所が無くなって来ている気がする。

〇電車の座席
　　ガタン　ゴトン
　　ガタン　ゴトン
モブ子「くさっ！」
澤田広志（ん？なんか言われたか？）
「離れよ、おえっ。無理!!」
澤田広志「なんか、周りが空いて快適だな」

〇黒

〇散らかった職員室
澤田広志「おはよう麗子ちゃん！」
麗子「お、おはようございます。。」
澤田広志「ん、麗子ちゃん様子が変だよ？ どうしたんだい？」
　　また立花さんにちょっかい出してるよ。
　　可愛そうねぇ、、、
　　今どき「ちゃん」付けなんてセクハラよ？
　　早く辞めてくれないかしら。
　　
　　ひそひそ
麗子（臭い）
麗子「いえ、、 それより、人事部長がお呼びです」
澤田広志「ん、なんだろう？ 麗子ちゃんありがとう。 ちょっと行ってくるね♡」
麗子「はあ、後は頼みますよ部長」

〇個人の仕事部屋
　　コン、コン
人事部長「どうぞ」
澤田広志「人事部長。 麗子さんから、私をお呼びだとお聞きしたのですが」
人事部長「まずは麗子さんでなく、立花さんと呼びたまえ」
澤田広志「いやはや、これは失敬！ 普段から下の名前で呼んでいるもので！」
人事部長「笑い事ではないぞ。 今時は、部下が不快に思うような発言をするだけでもハラスメントになる」
澤田広志「すみません、以後気をつけます！」
人事部長「いや、もう遅いんだよ澤田君」
澤田広志「はい？」
人事部長「ここ最近、仕事中はほぼ上の空 セクハラ・モラハラの数々」
人事部長（そして、体臭によるスメハラ）
人事部長「極めつけは、立花さんへの直接的な接触によるセクハラだ。 目撃証言もあり、これは許される事ではない」
澤田広志「待って下さい！ 確かに事故はありましたが、あれは意図的にやった訳では！」
人事部長「すまない、もう君を守れそうにない。 証拠の写真もあってな、君が退職するなら騒ぎにしないと言われてるんだ・・」
人事部長（私が撮った写真がな）
人事部長「引継ぎの準備をし、退職に備えるように！ 以上！」
澤田広志「・・・」

〇住宅地の坂道
澤田広志「はぁ、、、 クビになってしまった。 どうしたら良いんだ」
　　プルルル
澤田広志「・・・ああ、真美か」
「明日結婚式でしょ？ 最終確認しようと思って、、、 ん？聞いてる？」
澤田広志「あ、ああ。 そうだな、明日は楽しみにしてる・・・」
「・・・声が元気ないけど、大丈夫？」
澤田広志「少し疲れてしまってな・・・ 明日は晴れの舞台なのに、すまない」
澤田広志（クビになったとは言えない）
「明日までには元気出してよね！ パパが来るの、本当に楽しみにしてるんだからね！」
澤田広志「あ、ああ、、、 勿論だよ。 今日は早く寝るんだよ」
「パパもね！ それじゃ、おやすみなさい！ 今日は飲んじゃ駄目よ！」
澤田広志「うん、おやすみ・・・」