猫の手を借りる

とげ

私は猫である。名前はもうない。(脚本)

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〇ビルの裏
???(私は猫だ。名前はまだない)
???(いや、もうないと言ったほうがいいだろうか)
???(何を隠そう、私は捨て猫だ)
???(前の主に路地裏に捨てられたのだ)
???(おそらく世話するのが大変だったのだろう)
???(人間界には「猫の手も借りたい」という言葉があるらしいが、あれは嘘だ)
???(というのも、人間は忙しくなると猫には構ってくれなくなる。ひどい話だ)
???(今の私は「人の手も借りたい」だ)
???(ここで野垂れ死ぬわけにはいけない、そう思い続けて今日で一週間)
???(もうにゃーにゃーと鳴くのも疲れた)
???「あーもう! いい加減だれか拾ってくれ!」

〇ビルの裏
天音「捨て猫・・・?」
???「お、ようやく見つけてくれたか」
???「私を拾ってくれ!」
天音「拾ってほしいの・・・?」
???(よし、今回こそは拾ってくれそうだ)
天音「ごめんね! うちでは飼えないの。学校にも遅刻しそうだし、ほかの人に拾ってもらって!」
???「え、」
???「拾わないのかよ!」
???(これ以上のチャンスはない! 追いかけよう!)
???「ま、まってくれえええ!!」

〇学校の屋上
  数時間後──
  昼休み──
希美「天音!お昼食べよ!」
天音「ねぇ、希美? 変なこと聞いていい?」
希美「うん」
天音「猫って・・・」
天音「”言葉”しゃべるっけ・・・?」
希美「はぁ?」
希美「そんなわけないよ?熱でもあるんじゃない?」
天音「いや、それがね・・・」
???「はぁはぁ」
???「ここにいたのか」
???「おい、そこの君! 私を拾ってくれ!」
天音「あ、しゃべる猫だ」
希美「いやいや」
希美「にゃーにゃー鳴いてるだけだよ!?」
???「なに!? 君は私の言葉がわかるのか!?」
天音「うん、どうやらそうみたい」
???「なら話が速い」
???「私を拾ってくれ!」
天音「朝言ったでしょ」
天音「うちはペット禁止! 親がだめっていうもの」
???「そこを何とか頼む!」
???「路地裏生活はもう嫌なんだ!」
希美「ちょ、ちょっと待って! どうなってんのよこれ!」

〇住宅地の坂道
  放課後──
天音「ねぇ・・・」
天音「いつまでついてくんのよ」
???「すまないね。 しかしこの機会を逃したくはないのだよ」
???「今日ようやく人に見つかったんだ」
???「しかも、言葉が通じるときた」
???「これは出会うべくして出会ったと思わんかね?」
天音「確かに、なんで言葉が通じるんだろう・・・」
天音「希美には全く通じてなかったみたいだし・・・」
???「私も言葉が通じるのは君で初めてだ」
天音「・・・拾うまでずっと付いてくるの?」
???「諦めが悪いのが私の長所でな」
天音「しょうがないわね」
天音「ただし!」
天音「家族に内緒で飼うことになるかもしれないけど、それでもいい?」
???「生活できれば問題ない!」
天音「一応飼ってもいいか聞いてみるけど、ダメなのは覚悟しといてね」
???「もちろんだ!」
???「それにしても、君はいいやつだな!」
天音「「君」なんていう名前じゃないでーす」
???「なんていうんだ?」
天音「あまね。金子天音」
???「天音か。いい名前だ」
天音「あなたは名前あるの?」
???「名前か・・・ そういえば無いな・・・」
???「天音が新しく名前をつけてくれ」
天音「私!?」
天音「うーん・・・」
天音「しろ!」
???「えっ?」
天音「今日からよろしくね!”しろ”!」
???「安直!?」
天音「えへへ」
  こうして、しろは金子家の一員になった・・・

〇綺麗な一戸建て
  はずだった・・・
誠司「だめだ捨ててこい!!」
佳代「お父さんの言う通り、うちでは飼えないわ」
湊「飼いたい気持ちはわかるけど・・・」
天音「やっぱだめかぁ」
しろ「ま、まあ覚悟はしていた・・・」
天音「よし、作戦変更!」
しろ「な、なんだ急に」
天音「ここまでは予想通り・・・」
天音「次が本命の作戦よ」
天音「その名も・・・」
天音「お兄ちゃんに気に入られちゃおう作戦!」
しろ「なんだそのネーミング」
天音「お父さんとお母さんは喧嘩しちゃってて気まずいから・・・」
天音「隙があるとすれば、湊!」
しろ「おお! つまり何をすればいいんだ?」
天音「湊は昔、猫に引っ掻かれて以来猫が苦手らしいの」
天音「ただ本当は根っからの猫好き!」
天音「だからまずは湊の理解を得るってわけ」
しろ「それで本当にうまくいくのか?」
天音「ええ。それに湊は大学生。どちらにしても私が学校行っている間のしろのお世話も頼まないといけないわ」
しろ「なんとか私の魅力で兄上の心を揺さぶり賛同を得るというわけか・・・」
天音「そのとおり。早速明日から作戦決行ね。それじゃよろしく!」
しろ「え、私は外で一夜を過ごせと・・・?」
天音「悪いけど我慢して。路地裏に比べたらまだマシでしょ?」
しろ「そんなああ!」
  こうして、しろと金子家の新たな日常が始まった・・・

〇シックな玄関
  次の日──
天音「行ってきまーす」
湊「お、今日は遅刻しなそうだな」
天音「昨日は間に合ったわよ」
天音「そんなことよりさ」
湊「ん?なんだ?」
天音「しろの世話お願い」
湊「し、しろ?」
天音「昨日の猫、外にまだいると思うから。私のいない間は面倒見てやって」
湊「え~!?」
湊「俺、猫苦手なのに?」
天音「悪いけど、今頼めるのは湊しかいないから」
天音「よろしく」
湊「おいおい・・・」
湊「そりゃないぜ・・・」

〇綺麗な一戸建て
湊「しろー?」
湊「いるならおいでー?」
しろ(お、きたな兄上)
しろ「ここにいる」
湊「あ、いたいた」
しろ(天音は兄上が猫が苦手と言っていたからな)
しろ(ここは慎重に)
しろ「私は引っ搔いたりしないから大丈夫だ」
湊「なんだ?腹減ったのか?」
しろ(あ、そうか天音じゃないから言葉が通じないんだった)
湊「そうだ、餌になるもの持ってくるからちょっと待っててな」
しろ(なんだ、意外と優しいじゃないか)
  その後──
しろ「この魚肉ソーとかいうやつ、なかなかうまいじゃないか」
湊「しろ、美味しそうに食べるね。今までご飯食べれなかったのかな」
しろ「まぁな。おかわり!」
湊「しろは穏やかな猫なんだな」
しろ(聞いてない・・・あたりまえか)
湊「今まで大変だったろ。頑張ったな」
しろ「ああ。伊達に野良猫やってない」
湊「俺も頑張らなきゃな・・・」
しろ「なんだ、悩みでもあるのか?」
湊「・・・」
  湊は独り言のようにつぶやき始めた──

〇綺麗な一戸建て
しろ(なるほど、天音と喧嘩したんだな)
湊「ほんとは天音を応援したいんだけどさ、」
湊「自分でもどう声をかければいいのかもわからなくて」
湊「まさに『猫の手も借りたい』だよ」
しろ(天音のやつ・・・)
  こうして、しろは湊に手を貸すことにした

〇学校脇の道
希美「またねー!」
天音「じゃあねー」
天音「あ、しろ。何でここにいるの?湊と仲良くなれた?」
しろ「もちろん。しかし、人の心配より自分の心配するほうがいいと思うぞ」
天音「な、なによ急に」
しろ「天音、兄上と喧嘩しているそうじゃないか」
天音「ええそうよ。けどそれがどうしたっていうのよ」
天音「湊は地元の有名大学に通っているからって、私の進路を快く思ってないの」
天音「それに、私が頭悪いからって上京なんてやめとけなんて言うのよ」
しろ「天音。君はいろいろ勘違いしているようだぞ」
天音「しろに何がわかるっていうのよ。猫のくせに」
しろ「・・・」
天音「あっ、ごめん・・・」
しろ「まあいい。慣れてる」
しろ「天音に見せたいものがある。ついてこい」
天音「な、なによ・・・」

〇綺麗な一戸建て
天音「あれ、うち?」
しろ「外で待ってろ」
  しろは湊の部屋から何かを咥えてきた
天音「これ・・・物件の資料?」
しろ「ああ。おそらく天音の行きたい大学の近くのな」
しろ「天音、君は大きな勘違いをしている」
しろ「兄上は、天音のことを大事に思っている」
しろ「心配してるからこそ上京に反対している」
しろ「だが天音を応援したいというのが本音だろう」
しろ「応援してくれる人が身近にいるというのは意外と気づきにくいだろうが」
しろ「失って気づいてからでは遅いぞ天音」
しろ「これは私が路地裏で学んだ教訓だ」
しろ「天音には私と同じ轍を踏んでほしくないからな」
天音「しろ・・・」
天音「ありがと!」
天音「謝ってくる!」
しろ「わかってくれればよい」
天音「うん!!」
  こうして天音は湊と仲直りをした
  そして数日後・・・

〇一人部屋
しろ「いやー湊の部屋は落ち着くなぁ」
天音「じゃあ、しろをよろしくね!」
湊「おう!任せてくれ!」
天音「湊が苦手克服できてよかったぁ」
湊「しろは特別!穏やかだし、かわいいし」
しろ「湊、私はかわいいで売ってないぞ」
天音「くれぐれも親にはバレないでね」
しろ「おう、任せろ!」
湊(なんだか、天音としろって本当に会話してるみたいだよなぁ)
湊(それに、しろが来てから天音と仲直りできたし)
湊(なんか不思議な猫だよなぁ)
しろ(よし、ひとまずこれで安心だ)
しろ(あとは父上と母上か・・・)
しろ(あの二人はかなり手ごわそうだぞ。どうしたものか・・・)
  こうしてしろは湊の部屋に匿ってもらうことになった
  そして、一匹の捨て猫と金子家の一風変わった日常が始まるのだった─

コメント

  • しろの人生、じゃなくて猫生の経験値の高さに驚きます。的確なアドバイスで人間二人をコントロールしちゃってますね。天音の良きパートナーになってくれそう。それにしても、しろほど賢い猫でも人間に飼ってもらわないと生きていけないなんて、ペットの世界も厳しいですね。

  • しろちゃんは当然かわいいし動物はみんな可愛いのに
    面倒見れなくなったとか勝手な理由で捨てるのが本当に理解出来ないし許せませんよね🤥
    しろちゃんも路地裏で不安だったでしょうね🥲
    金子家の家族みんなに認められて、何の心配も無く穏やかに暮らしていけますように☺️

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