エピソード51(脚本)
〇中世の街並み
ニル「すごい・・・。 人とギアーズが一緒に暮らしてる」
エルルの前を、大きな角が二本生えた大型のギアーズがたくさんの荷物を積んで通った。
通りには馬の代わりにオオカミ型のギアーズが引く馬車が走り、道行く人は肩に小型のギアーズを乗せている。
そしてニルたちの近くでは子供たちが二足歩行のギアーズに乗って走り回っていた。
エルル「こんな世界があるなんて、私ちっとも知りませんでした」
アイリ「えぇ、そうね・・・。私も知らなかったわ」
エルル「わぁ~。 私、ちょっと触らせてもらってきます!」
アイリ「あ、ちょっと!エルル!」
エルルは道端で休んでいる馬車(?)を見つけ、飛び出していった。
〇中世の街並み
馬の代わりにつながれているラウルは主人を待つ犬のように静かに座っている。
御者「なに、触りたい? アンタら観光客? いいぜいいぜ好きにしな!」
エルル「ありがとうございます!」
エルル「・・・・・・」
エルル「うわぁ~~」
エルル「生きてるギアーズをこんなに近くで見たのははじめてです!」
エルル「私、ずっとこんなふうに触ってみたかったんです!」
アイリ「ちょ、ちょっと、そんなに触って大丈夫なの? 暴れたりしないのかしら?」
御者「ははは、面白いことを言うなお嬢さん。 うちの相棒は暴れたことなんかねぇぜ?」
ニル(この国じゃこれが当たり前なんだな・・・)
御者「ほら、こいつぁあごの下を撫でられるのが好きなんだ。 お嬢さんやってみな」
エルル「・・・・・・」
ラウルはエルルに撫でられると気持ちよさそうにぐるぐると鳴いた。
エルル「わぁ~かわいいです!」
エルル「アイリさんも触ってみませんか?」
アイリ「え、えぇ・・・」
アイリはおずおずとラウルの背中を撫でた。
しかしすぐに手を離すと、すっとラウルから離れた。
アイリ「・・・・・・」
ニル「アイリ?」
アイリ「私はもういいわ」
ニル「大丈夫? 顔色が悪いけど」
アイリ「大丈夫」
アイリ「ただ、ちょっとまだ怖くて・・・、ごめんなさい」
そういうとアイリはラウルを触った手を見つめた。
その手はまだ震えている。
ニル「俺も初めて見ることだし全然信じられないよ」
ニル「最初は難しいかもしれないけど・・・。 少しずつ、慣れていけばいいんじゃないかな」
エミリア「なに、気に病むことはない」
エミリア「コレクターとしてずっと戦う相手だったのだからな。 怖いのは当然だ」
アイリ「ニル、エミリア」
アイリ「・・・ありがとう」
「・・・・・・」
エミリア「さて! せっかくだ、このラウルに宿まで運んでもらうか」
エミリア「御者殿、頼めるか?」
御者「おう、まいど! ほら、相棒! 仕事だ!」
〇中世の街並み
エルルは馬車の窓からずっと周りの街の様子を眺めている。
アイリ「やっぱりにわかには信じられない光景ね」
アイリ「私が知ってるギアーズはみんな人間を見ると警戒して攻撃してきたわ」
アイリ「それがこんなふうに人に慣れるどころか協力して働くなんて・・・」
エミリア「あぁ、驚くのも無理はない。 私も初めて見たときは本当に驚いた」
アイリ「どうしてここのギアーズはこんなにおとなしいのかしら」
エミリア「あぁ、それはな・・・。 私も聞いた話だが」
エミリア「聞いた話では、ここ、ハイドン帝国の皇帝にはギアーズをおとなしくさせる不思議な力があるらしい」
アイリ「不思議な力?」
エミリア「ああ」
エミリア「どんなに暴れまわっていたギアーズも皇帝陛下が触れると、まるで魔法をかけられたようにおとなしくなるらしい」
アイリ「本当にそんな力があるの? 同じ人間とは思えないわね」
アイリ「もし本当にそんな力が使えたなら、もうアーティレやチェルコのような悲惨なことも起きなくなるのね」
エミリア「皇帝は日々皇都に運ばれてくるギアーズにその力を使ってくださっているそうだ 」
エミリア「きっといつかそうなる日が来る」
アイリ「ええ、そうね」
〇中世の街並み
御者「そら、荷物はこれで全部だな」
ニル「ありがとうございました!」
エルル「じゃあね・・・」
ニルたちは宿屋の前で馬車から降りた。
エルルは降りると名残惜しそうにまたラウルを撫でた。
御者「そうだ、あんたら、この国にはしばらくいるのかい?」
ニル「はい、しばらくはいることにはなると思います」
御者「そりゃあよかった! じゃあもしかして皇都に行くのか?」
ニル「ええ、行くつもりでしたがどうしてですか?」
御者「なんだ、あんたがた知らねぇのか? もうすぐ皇都で『闘機祭』をやるんだよ!」
アイリ「『闘機祭』?」
御者「ほら、あれを見な!」
そう言うと、御者は近くの建物の壁に貼ってあるポスターを指さした。
よく見ると同じポスターがそこら中に貼ってある。
ポスターには大きく『闘機祭』『ギアーズVS人間』『1VS1真剣勝負』などとでかでかと書かれている。
御者「ギアーズと人間の本気のバトルが見られるんだぜ! せっかく皇都に行くんなら見てかねぇとな!」
ニル「へぇ、そんなのがあるんだ」
御者「見るだけじゃなくて出場してギアーズと戦うこともできるぜ」
御者「お兄さんがた、武器も持ってるし、見たところコレクターだろ?」
御者「出場するギアーズはみんな陛下が調整してくださってるから危険はないよ。 いっちょ腕試しにどうだ?」
アイリ「ふーん・・・。面白そうね」
エミリア「たしかに、最近は4人で戦うことが多かったからな」
エミリア「仲間が強いのは嬉しいことだが、どうにも腕がなまってしまう」
エミリア「ちょうどよい機会だ。 久々に暴れさせてもらうか」
エルル「たしかに面白そうですね。 ニルさんも出ませんか?」
ニル「うーん、俺はいいかな。 帝国には調べものに来たんだし」
ニル「それにあんまり目立つのは好きじゃないから」
御者「アンタがたが出るなら応援するぜ! 頑張ってくれよ!」
そういうと、御者は馬車に乗って去っていった。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)