グリモワール図書館

oyama

三話(脚本)

グリモワール図書館

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〇華やかな広場
デボラ「・・・私、本当はあの人のこと嫌いだったの」
デボラ「昔は確かにね、言った通り、ハグをしたり、背を見送ってから家の仕事に戻る、ってことをしてたわ」
デボラ「でもね、もうこの歳で、あの人はいつまでも少年のままで・・・」
デボラ「私はね、ちょっと、嫌になってた」
デボラ「そんな時にね、素敵な方と出会ったの」
デボラ「私よりも若い方だったけれど、私に優しくしてくれて」
デボラ「気がついたら、その方のことを好きになってしまっていた」
デボラ「・・・五日前ね、その方が私に一生添い遂げたいと言ってきたの。とても嬉しかった」
デボラ「でも、主人にバレてしまったらって、話したの。そしたら、『僕に任せてください』って」
デボラ「それから、話した通り、三日前。主人が帰って来なくなった」
デボラ「私があの人のことを嫌いになってしまっても、あの人は変わらず早く帰宅して一緒に食事をしようと言ってきたわ」
デボラ「あの人だけは変わらなかったのよ」
  デボラは悲しげに目を細めた。
  嫌いだと言っていたが、長く連れ添った相手を、そこまで嫌いになれるのだろうか。
  少しの間でも距離をあけるだけで、感情は落ち着いたのではないか。
  話し合うことができていれば、思いが移ることはなかったのではないか。
  界はそう考えていた。
デボラ「・・・今日まで、あの方からの連絡もない」
デボラ「どうしましょうと思って・・・」
デボラ「それでね、探偵さんがこの街にいるって聞いて、」
デボラ「魔女が住むあの館にいると聞いていたから、ちょっと怖かったのだけど、でも仕方がないと思って」
薄墨界「それで図書館へ行こうと?」
デボラ「ええ」
薄墨界「この少年と会ったのは?」
デボラ「山を登らなければいけないでしょう? 整地されていないし、運動をするような質じゃないから怯んでしまってね」
デボラ「そこに坊やが通りかかって、話しかけてくれてね」
薄墨界「そうでしたか」
デボラ「でも、悪いと思って、・・・・・・ううん」
デボラ「きっと、バレてしまうのが怖かったのね。まさか、あなたが魔法使いだなんて思わなかったしね」
薄墨界「私を騙そうと?」
デボラ「ごめんなさいね」
デボラ「でもね、いなくなるなんて思わなかったの。あの方が任せてって言っても、何をするのかなんて、たかが知れてると思って」
オグル・グリム「そのさ、あの方って誰なの?名前とか教えてよ」
  オグルの質問に少し躊躇った。
  デボラは一拍間を置いて話し出す。
デボラ「・・・彼は、オンブルと名乗っていたわ」
デボラ「主人が帰らなくなってから、彼のことを信用しなければ良かったって思ってて・・・」
デボラ「だから、本名なのかどうかも正直分からないわ」
薄墨界「影、か・・・」
オグル・グリム「オンブルさんの容姿とか、分からない? その人のことも探そうよ」
デボラ「でも、・・・」
  デボラはオンブルという男のことを恐れているようにも見えた。
  俯きがちに躊躇う彼女に、界は言う。
薄墨界「ご主人のこと、嫌いだと言っていましたが、本当はもうそんなことどうでもいいんでしょう?」
薄墨界「いなくなってしまって、もし万が一のことがあれば、きっと貴女は悲しむはずです」
薄墨界「必ず二人とも見つけてみせますから、どうか」
  強い眼差しで真っ直ぐとデボラの瞳を見据える。
  界の本心が見えた、彼なら信頼できるかもしれない。
  そう思ったデボラはこくん、と頷いた。
デボラ「ええ、ええ、ありがとう」
デボラ「主人のこと、よろしくお願いします・・・!」

〇けもの道
  デボラと別れ、二人は一度図書館へ引き返した。
  彼女からオンブルの容姿を聞き出し、界がその場で特徴を捉えて描いてみると、
  デボラから「そのような感じの方でしたわ」と驚き、怯えのような感情が入り混じった声色で言われた。
  他にも特徴を教えてもらっていたので、メモ帳にひたすら書き記していた。
オグル・グリム「ララお姉さんなら知ってるかな?」
  オグルは先を走り、界の方を振り返って言った。
  界は山を登るのに体力が追いつかないのか、時折膝に手をついて休みながら息を整えていた。
薄墨界「そ、そう、だな。あいつも魔女、だし・・・・・・」
オグル・グリム「お兄さん大丈夫?」
薄墨界「なんで、お前、平気なんだよ・・・・・・」
オグル・グリム「僕? だって子供だよ? 見ればわかるでしょ?」
  黒いコートをバサッと翻して踊るように一周回った。
  オグルはそう言うが、実際の年齢は不明で、彼の弟弟子という秋次郎は大人の姿をしている。
  つまりは見た目と年齢が合っていないのだ。
  咲次郎に関しても、年齢は正直なところ不明であるが、オグルの方が何倍も年上だということは確かだった。
  界はオグルの調子に合わせていたら命がいくつ合っても足りない、と感じて溜息をついて無視することにした。

〇英国風の図書館
  図書館の戸を開けると、ララが出迎えてくれた
ララ「お帰りなさい、二人とも」
オグル・グリム「ただいま! お姉さん♪」
  楽しそうに中へ入っていく姿をララは微笑ましそうに眺めた。
  視線を戻し、界の方を見るとくす、と笑った。
ララ「探偵さん、体力が足りないのね。もっと運動しなきゃダメでしょう?」
薄墨界「お前に言われたくない」
ララ「あらあら」
  少し楽しげにふふっと笑うとカウンターの中へ入っていった。
  「なあ、ララ」と呼びかけ、懐から手帳を取り出し、先ほど書き記したものをララに見せた。
ララ「あら、これは? 上手に描けてるわね」
薄墨界「似顔絵、だな。オンブルという男を探しているんだ」
ララ「オンブル・・・・・・魔法使いかしら?」
薄墨界「さあな。魔法使いなら人に紛れて生活しているだろうし」
ララ「それもそうね。情報屋も姿を消してしまったし・・・・・・」
  ララは手帳を見ながら考え込んだ。
  すると、中央のニケの彫像がある方からオグルの声が聞こえてきた。
オグル・グリム「お兄さーん!」
  何か見つけたのだろうかと界はそちらの方へ向かう。
オグル・グリム「オンブルのこと知ってるかもって!」
薄墨界「は?」
  ふと見ると、オグルの隣にはアルベリがもじもじとしながら立っていた。
  アルベリはこの図書館の司書で、オグルとは違い、年齢と容姿が合致した子供の魔法使いだった。
アルベリ「えっと、でも、本当にその方かどうかは・・・・・・」
薄墨界「いや、聞かせてくれ。些細な情報(もの)でも、手がかりになる」
  界がそう言うと、アルベリは話し出した。

次のエピソード:四話

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