グリモワール図書館

oyama

二話(脚本)

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〇華やかな広場
  オグルが向かった先は、サント大公園に続く、庭園だった。
  庭園は散歩をする老夫婦や、ガゼボで団欒をする家族などが利用している。
  時間帯の影響か、あまり人はいないようだった。
  二人が庭園の中を歩いていると、ベンチに座り、花を見ている女性の姿を見つけた。
  女性の姿を確認すると、オグルは界に肘でつついた。
薄墨界「・・・あの人か」
オグル・グリム「やっぱりね!」
  界は女性に近づき、顔を覗き込むように背中を丸めた。
薄墨界「Bonjour,素敵な方」
デボラ「あら、お上手ね」
薄墨界「もしかして、貴女が図書館へ依頼を届けようとした女性ですか?」
デボラ「ええ、そうよ」
デボラ「デボラ。デボラ・ウダールと言うの。あなたが探偵さん?」
薄墨界「ええ、マダム・デボラ。私がその”探偵”です。ルイ・ベイルと申します」
デボラ「ムシュー・ルイ、手紙に記した通りですわ。情報不足だったかしら?」
薄墨界「ああ、実はもう少し詳しい情報をいただければと思いまして」
デボラ「あら、そうでしたの。分かりましたわ、ほら、こちらにお掛けになって」
  そう言うと、デボラは界にベンチに座るよう促した。
  界が隣に腰掛けると、オグルは界の背凭れに寄っかかった。
デボラ「どこからお話ししましょうか・・・」
薄墨界「そうですね、面倒かと思いますが、」
薄墨界「今一度手紙に記載されてあった、“ご主人がいなくなった時のこと”をお話ししていただけないでしょうか?」
デボラ「そうね、分かったわ」
  そう言うと、デボラはゆっくりと語り出した。

〇綺麗な港町
  ・・・・・・三日前になるわね。
  雨が降っていた、あの日。
  あの人が仕事に出かけると言って、普段通り家を出て行ったの。
ジョルジュ「じゃあ、行ってくるぞ」
デボラ「ええ、気をつけてね」
  そう言ってハグをしたわ。
  家を出る時は、特に何もなかった。
  私は玄関を出て、あの人の背を少しの間見送ってから中へ戻ったわ。
  あの人が戻るのは夕方ごろかしら。
  私のためだと言ってね、早く仕事を切り上げているんですって。
  それでも、雨が降っていたでしょう?
  正直ね、変だと思ったのよ。
  雨の降る日に海になんて出るかしら?
  あの人の背を見送るのはいつものこと。
  あの人も知っていたわ。
  仕事場に行くためのルートを使っていた。
  だから、尚更おかしいと思った。
  ・・・その日、あの人が家に戻ってくることはなかった。
  ご飯の支度をして待っていた。
  その日はなんの変哲もない日だったけれど、
  ちょっと浮き足立っていて、お菓子を作っていたの。
  ただのパイだけれど、二人で食べようと思っていたのよ。
  結局、一人で食べちゃった。

〇華やかな広場
デボラ「・・・これで足りるかしら?」
薄墨界「ええ、お辛いでしょうに、ありがとうございます」
デボラ「聞かせてくれる?」
薄墨界「はい?」
デボラ「あなたの考え。あの人がいなくなった時のこと」
薄墨界「・・・わかりました」
薄墨界「まず初めに、ご主人はいつも同じ時間に出勤され、同じ時間に帰宅されるんですよね?」
デボラ「そうね。いつも同じよ」
デボラ「あの人ね、私のことが大好きなのよ。 仲間が飲みに行くと言っていても、断るんですって」
薄墨界「本当に奥様想いの方だったんですね」
薄墨界「そんな彼が、その日に帰ってこなかったと」
オグル・グリム「確か、あの日って海荒れてなかったっけ?」
薄墨界「ああ。確かに風もそれなりにありましたし、そんな日に漁に出れば、確率的に転覆するでしょうね」
デボラ「そうよね。私もそう思うの」
デボラ「だから、・・・だからこそあの人がどこに行ったのかずっと気になっていて・・・」
  一度口を挟んだオグルだったが、すぐに口をつぐみ、二人の会話を聞いていた。
  ・・・ように見えたが、実際はデボラの様子をずっと観察している様子だった。
オグル・グリム「・・・ねえ、デボラさん」
デボラ「何かしら?」
オグル・グリム「さっきの話とかもずーっと気になってたんだけどさ」
オグル・グリム「なんで、自分の夫のことを“あの人”って呼んでるの?」
オグル・グリム「いつも何て呼んでるの?名前で呼びあったりしないの?」
薄墨界「(おい、オグル)」
オグル・グリム「(お兄さんは黙っててよ)」
デボラ「・・・・・・」
デボラ「そうね、どうだったかしら」
オグル・グリム「本当は何があったの?なんでその人のことを探してるの?」
薄墨界「・・・・・・」
  オグルの追及に界は黙り、デボラの様子を伺い始めた。
デボラ「・・・なら、どう思う?」
デボラ「ムシュー・ルイ。あなたはここまで聞いてどう思う?」
薄墨界「・・・」
薄墨界「・・・」
薄墨界「そうですね、引っ掛かるところは、この少年が言っていた部分と、もう一つ」
薄墨界「『ちょっと浮き足立っていて、お菓子を作った』」
薄墨界「ただ聞いていれば、そう言う気分だったんだろうかと思いますが」
薄墨界「主人のことを「あの人」と呼んだり、「雨の日」と言うことを強く強調していたり、」
薄墨界「・・・・・・」
薄墨界「デボラさんが話している間、申し訳ないですが”魔法”を使わせていただきました」
デボラ「あら・・・」
デボラ「・・・」
デボラ「あなたは魔法使いさんだったのね」
薄墨界「ええ。これは内密に・・・」
デボラ「もちろんよ。 ・・・そう、それで?」
薄墨界「私の魔法は人の精神的な内面に干渉できます」
薄墨界「とはいえ難しいことはありません、ただその時どう感じているか、何を思っているのか」
薄墨界「私自身と感覚を多少共有できると言う程度です」
薄墨界「今回の場合、バレてしまっては話を聞き出せませんので」
薄墨界「予め感覚共有の範囲を広げ、貴女だけに絞らないようにしました」
薄墨界「・・・とまあ、説明しましたが端的に」
薄墨界「嘘をついてらっしゃる、と言うことだけ分かりました」
薄墨界「普通ならば嘘をつく時、瞳孔の動き、発汗など見た目で分かるものですが」
薄墨界「見たところそれは感じられませんでしたので、魔法を使っていて正解でした」
オグル・グリム「(・・・お兄さん、そこまでできるようになっていたんだ)」
デボラ「・・・あなた、お若そうだけれど、ずる賢いのね」
デボラ「そうね。さっきの話、半分嘘よ」

次のエピソード:三話

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