エピソード49(脚本)
〇荒れた小屋
チンピラのひとりが、ヴェラグニスを手にしてぷらぷらと振る。
チンピラ1「それにしてもこいつ、どんな高価な剣かと思ったら、大した切れ味もねぇし使えねえじゃねえか」
チンピラ1「ガキのおままごと用ってわけか?」
チンピラ1「お前、女の子を侍(はべ)らす前に自分の装備に金使ったほうがいいんじゃね?」
「ギャハハハ!!」
相変わらずの下品な笑いの中、ニルは表情を変えずに言った。
ニル「その剣は強いよ。 ためしに、グリップを捻ってみたらいい」
チンピラ2「はぁ?」
チンピラ1「へえ、おもしろそうじゃねーか!」
チンピラはニルの言葉を聞いて、冗談半分で鞘からヴェラグニスを抜きグリップを握った。
グッと力を込めて捻ると、たちまちヴェラグニスの刀身にオレンジの脈が走る。
チンピラ1「!?」
ヴェラグニスのまとう熱気が小屋の中をほとばしる。
ヴェラグニスを持っていたチンピラは驚いてグリップから手を離した。
チンピラ1「な、なんだこれ!」
そしてチンピラの手から離れたヴェラグニスは、石造りの床を溶かして垂直に突き刺さった。
別次元の力を前に、チンピラは情けない声を上げて後ずさる。
チンピラ1「うわあああ!?」
チンピラは、尻もちをついて口を開けてヴェラグニスを見つめた。
ニルは無言のままでヴェラグニスへと近づくと剣のグリップを握り、慣れた手つきでヴェラグニスを引き抜いた。
そして刀身に溶けてはりついた石を、ニルは剣をふるって払った。
溶けた石が飛び散り、尻もちをついたチンピラの股の間に落ちる。
ジュー・・・
チンピラ1「ヒィッ!」
音が立ち、わずかに煙が上がる。
チンピラはガクガクと膝を震わせていた。
ニルはヴェラグニスを構えて、ゆっくりとチンピラたちへ近づく。
チンピラ1「な、なんなんだよお前!」
チンピラ2「俺たちに手を出したらタダじゃすまねえぞ!」
チンピラ1「そ、そうだっ! ヴェルムントを敵に回したらどうなるかわかってんのか!?」
チンピラ1「刻印者の方々の手にかかればお前なんて・・・」
チンピラたちは必死に声を上げるが、ニルは歩みを止めない。
チンピラ1「クソッ、かかれ! 殺しても構わねえ!」
やけになったチンピラは、仲間に合図すると手に剣を持ちニルへと襲いかかってきた。
ニル「・・・・・・」
ニルは表情ひとつ変えずに、襲いかかるチンピラたちの剣をヴェラグニルであしらった。
チンピラたちの得物の刀身は、ヴェラグニルに触れた瞬間にぐにゃりと形を変える。
ヴェラグニルの刀身の熱で、溶けて変形してしまったのだ。
チンピラ1「ヒッ!?」
あまりの熱にチンピラは剣を放り投げたが、その剣は運悪くテーブルのランプにあたってしまう。
床に落ちたランプの火は周囲に散らばる蒸留酒をエサにあっという間に広がった。
チンピラ1「うわああ俺たちのアジトが!!」
チンピラ2「水、水!」
チンピラ1「言ってる場合か! 逃げろ!」
チンピラたちはわき目もふらずに小屋から逃げ出した。
小屋の外から振り返ると、火は一瞬で小屋全体にまわり、燃え盛る炎は屋根に達するほど大きくなっていた。
その中からニルは特に急いだ様子もなく、ゆっくりと出てくる。
〇西洋の街並み
猛々しくオレンジ色にうねる炎を背に、ニルはチンピラたちを冷めた目で見下ろす。
チンピラ2「あ・・・あ、あいつは、まさか・・・」
チンピラのひとりが、思い出したように声を震わせた。
ゆっくりと指先がニルに向けられる。
チンピラ2「・・・名滅・・・」
チンピラ1「は?」
チンピラ2「ついこの間、吟遊詩人から聞いたんだよ!」
ニルの姿をまじまじと見つめ、チンピラは信じられないという表情をする。
チンピラ2「白銀の髪、機械の右腕、赤い筋の入った漆黒の剣・・・、間違いないっ!」
チンピラ2「でも、たしか処刑されたはずじゃ・・・!?」
ニルはチンピラに向けて剣を振り下ろした。
チンピラ1「ヒッ!」
チンピラの鼻先にまだ熱を帯びているヴェラグニスの刀身が突き付けられる。
チンピラはカタカタと歯を鳴らして涙目で剣先を見つめる。
ニル「俺のことはどれだけ馬鹿にしてもいい。 だけど・・・」
ニル「アイリたちに手を出したら、許さない」
ニルは冷たい目つきでチンピラたちを睨む。
圧倒されたチンピラは、壊れたオモチャのようにコクコクと頷くことしかできない。
チンピラは恐怖のあまり失禁し、冷たい地面をじんわりと濡らす。
ニルはチンピラたちの反応を確認して、ゆっくりと剣を鞘に収めた。
そしてそのままチンピラたちの横を通ると、その場を立ち去った。
ニル「・・・・・・」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)