まっくら暗井家物語

西瓜頭

アケミちゃんの縦笛(脚本)

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西瓜頭

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〇古いアパート

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「パパ、私ね」
暗井 ヨル(くらい よる)「学校でいじめられてるの」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯そうか」
暗井 晋也(くらい しんや)「よく話してくれたね」
暗井 晋也(くらい しんや)「パパも」
暗井 晋也(くらい しんや)「職場でめっちゃいじめられてる」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「嘘でしょ?」
暗井 ヨル(くらい よる)「秒でかぶせてきた⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「具体的には」
暗井 晋也(くらい しんや)「デスクが工場のど真ん中に溶接されてる」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯スケールが違う」
暗井 晋也(くらい しんや)「しかもその隣には」
暗井 晋也(くらい しんや)「アチアチの溶鉱炉が⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯地獄の職場環境」
暗井 晋也(くらい しんや)「ほら⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「はねた火花で顔に穴が」
暗井 ヨル(くらい よる)「なんかホクロ増えたなと思った⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「労災にすると怒られるから パパ、我慢した⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「むごすぎる⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「パパばかりゴメン」
暗井 晋也(くらい しんや)「ヨルの話を聞かせて」
暗井 ヨル(くらい よる)「別の意味で言い辛い⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「何でも話す約束だろ?」
暗井 ヨル(くらい よる)「じゃあ、言うけど⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「同じクラスのアケミちゃんがね⋯」

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「て事があった⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「そうかぁ」
暗井 晋也(くらい しんや)「辛かったね⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「絶対パパの方が辛いよ」
暗井 ヨル(くらい よる)「横顔が痛々しいよ」
「うわあああん」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「2人共ッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそッ かわいそッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそすぎるよォ〜」
暗井 晋也(くらい しんや)「晩子⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「駄目だよママ」
暗井 ヨル(くらい よる)「寝てなきゃ⋯」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「だって、だってえ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「あんまりだよぉ〜」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「穴だらけになっちゃったパパの机もッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそすぎるヨォ〜」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「ぐすっ」
暗井 ヨル(くらい よる)「ふええ」

〇古いアパート
「オーイオイオイオイ!」
「うっせーぞ暗井家」
「何時だと思ってんのヨォ」

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)(寝ちゃってた?)
「zzz」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「あはっ」

〇おしゃれなリビングダイニング
アケミパパ「アケミは歌が上手だな」
アケミちゃん「えへへ」
アケミパパ「将来は歌手かアイドルかな〜」
アケミママ「親バカね〜」
アケミママ「音楽家や、オーケストラ奏者の方がいいわよね〜」
アケミちゃん「えーと、えーとねっ」
アケミちゃん「私ねっ⋯」

〇可愛い部屋
アケミちゃん「⋯」

〇おしゃれなリビングダイニング
アケミママ「ふぅ⋯」
アケミちゃん「⋯」

〇古いアパート

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「頼んでもないのに朝が来る」
暗井 ヨル(くらい よる)「学校、行かなきゃ」

〇通学路
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」

〇大きな木のある校舎

〇田舎の学校
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「私の机」

〇教室
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「ふぅ」
アケミちゃん「あれ〜? 教室が埃っぽくなっちゃった」
アケミちゃん「誰か犬でも連れ込んだァ?」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
アケミちゃん「犬の方がまだ綺麗かも」
アケミちゃん「ねぇ、一昨日から同じ服着てない?」
アケミちゃん「暗井さん」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
アケミちゃん「なんか言えよ」
暗井 ヨル(くらい よる)「あの⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「言い辛いんだけど」
アケミちゃん「なに」
暗井 ヨル(くらい よる)「やっぱり」
暗井 ヨル(くらい よる)「なんでもない」
アケミちゃん「はぁ!?」
暗井 ヨル(くらい よる)「じゃ⋯」
アケミちゃん「⋯」

〇教室
先生「皆さんおはようございます」
「おはよーございます」
先生「お花が綺麗! 当番の子、水換えありがとう」
先生「理事長先生が買ってくれたお高〜い花瓶」
先生「何かあったら先生も怒られちゃいます」
先生「⋯凄く気をつけようね」
先生「今日も1日、元気に行きましょう」
「は〜い」
暗井 ヨル(くらい よる)(給食まだかな⋯)
アケミちゃん「⋯」

〇教室
  1時間目・国語
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」

〇個室のトイレ
  休み時間
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
「くせーんだよ」

〇音楽室
  4時間目・音楽
先生「今日は縦笛のテストです」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
先生「アケミさん、皆に お手本を見せてあげてね」
アケミちゃん「はい」
暗井 ヨル(くらい よる)「あっ⋯」
アケミちゃん「なに」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「ううん」
先生「アケミさん?」
アケミちゃん「あっハイ」
先生「よくできましたね」
暗井 ヨル(くらい よる)「あ〜⋯」
アケミちゃん(なんなの!?)
先生「次は前の席から」
先生「キモ川くん、いってみよう」
キモ川くん「は〜い」

〇大きな木のある校舎

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「ただいま」
「おかえり⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「ママ、何か食べた?」
「うーん⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「駄目だよ食べないと⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「もやし食べる?」
「ヨルが食べていいよォ」
暗井 ヨル(くらい よる)「私は給食あったもん」
「じゃあ⋯」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「パパが帰ってくるまで」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「一緒に寝てよっか⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「うん」
「あったかいね」
「⋯」
「うん」

〇古いアパート

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「パパ」
暗井 ヨル(くらい よる)「今日はね」
暗井 ヨル(くらい よる)「トイレの上から水を⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「ふぐぅ〜」
暗井 ヨル(くらい よる)「えぇ⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「もう泣いてるパターン」
暗井 ヨル(くらい よる)「しかも⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「くっさ」
暗井 晋也(くらい しんや)「ウンチ漏らした」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「くっさ」
暗井 ヨル(くらい よる)「と、とりあえず」
暗井 ヨル(くらい よる)「着替えて?」

〇狭い畳部屋
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)(まだかなり臭い)
暗井 晋也(くらい しんや)「パパ昔、学校でウンチして⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「小中一貫で『ウンチマン』て呼ばれてた」
暗井 ヨル(くらい よる)「長いねスパンが」
暗井 晋也(くらい しんや)「ウンチだけに⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「そういうのいいから」
暗井 晋也(くらい しんや)「だから、決めてた」
暗井 晋也(くらい しんや)「家以外で、絶対ウンチしないって⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「生涯⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「固い誓いだね」
暗井 晋也(くらい しんや)「ウンチだけに⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「うるさいよ」
暗井 晋也(くらい しんや)「でも今日食堂のカレーがまさかの食べ放題で」
暗井 晋也(くらい しんや)「パパ、嬉しくって」
暗井 晋也(くらい しんや)「人生を取り返す勢いで食べちゃったんだ」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯お腹下したの?」
暗井 晋也(くらい しんや)「誰も換えのズボン貸してくれなかったし」
暗井 晋也(くらい しんや)「あだ名が『ウンチマン』に戻った⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「悲しすぎる⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「パパの話ばっかりごめんね」
暗井 晋也(くらい しんや)「ヨルの話、して」
暗井 ヨル(くらい よる)「まあ、言うけど⋯」

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯て感じで」
暗井 ヨル(くらい よる)「犬の臭いとか言われた」
暗井 晋也(くらい しんや)「そう」
暗井 晋也(くらい しんや)「辛かったね⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「パパ程じゃない⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「でも」
暗井 晋也(くらい しんや)「まだ話してない事、ある?」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「いいよ話さなくて」
暗井 晋也(くらい しんや)「辛かったら約束なんて破っていい」
暗井 ヨル(くらい よる)「ううん」
暗井 ヨル(くらい よる)「話す⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「私ね」
暗井 ヨル(くらい よる)「アケミちゃんに復讐したの」
暗井 ヨル(くらい よる)「昨日、あの子の縦笛をすり替えたの」

〇黒
  キモ川君のと⋯

〇音楽室
  アケミちゃん、何も知らずに
  得意気に演奏してた
暗井 ヨル(くらい よる)「あ〜⋯」

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「やり返してやったのに」
暗井 ヨル(くらい よる)「なんか辛くて」
暗井 ヨル(くらい よる)「胸が苦しくて⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯そっか」
「ふわあああん」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそッ かわいそッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「小四にして復讐の哀しみを知るなんてッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそすぎるよォォオ」
暗井 ヨル(くらい よる)「ママ⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「俺は?」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「それにッ それにィッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「知らない間にキモい男子と 間接チッスしちゃうなんてッ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそすぎるヨォ〜」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「アケミちゃん⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「グヒッ」
暗井 ヨル(くらい よる)「ふいーん」

〇古いアパート
「お゛〜んおんおんおん!」
「それはホントにかわいそうだろォ」
「教えてあげなヨォ」

〇狭い畳部屋
暗井 ヨル(くらい よる)「復讐ってむなしいね」
暗井 ヨル(くらい よる)「あと」
暗井 ヨル(くらい よる)「臭いね⋯」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「パパはかわいそうの前に臭い」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「久しぶりに⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「皆で銭湯、行こうか」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「うん」

〇通学路
アケミちゃん「⋯」

〇おしゃれなリビングダイニング
アケミママ「⋯」
アケミちゃん「ただいま」
アケミママ「塾、終わったのね」
アケミママ「しっかり勉強するのよ? すぐに受験なんだから」
アケミちゃん「うん」
アケミちゃん「⋯」
アケミママ「どうしたの?」
アケミちゃん「あ、あのね」
アケミちゃん「今日音楽のテストで、代表で演奏したの」
アケミちゃん「先生も褒めて⋯」
アケミママ「音楽?」
アケミママ「何の役に立つの?」
アケミちゃん「⋯」
アケミママ「ご飯食べて、早く寝なさい」
アケミちゃん「うん」

〇大きな木のある校舎
  翌朝
アケミママ「じゃあね」
アケミママ「ちゃんと教室で予習するのよ」
アケミちゃん「うん⋯」

〇教室
アケミちゃん「⋯」
アケミちゃん「⋯⋯」
アケミちゃん「こんな」
アケミちゃん「こんな物っ」
アケミちゃん「あっ」

〇田舎の学校
暗井 ヨル(くらい よる)(まだ誰もいないよね?)
暗井 ヨル(くらい よる)(机に悪戯されないように早く行こ)

〇まっすぐの廊下

〇教室
暗井 ヨル(くらい よる)「へ?アケミちゃん⋯」
アケミちゃん「あぁっ」

〇まっすぐの廊下
先生「⋯」
先生「まるで今」
先生「お高いアレがアレしたような音がしたけど⋯」
先生「まさかね?」
先生「仮にアレしたとしても」
先生「うちの教室って事は」
先生「ないよね?」
先生「⋯」

〇教室
先生「ひぇー」

〇狭い畳部屋
暗井 晩子(くらい ばんこ)「⋯」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「ふぁい、くらいれす」

〇ボロい倉庫の中
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「あち⋯あち⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「あち⋯あち⋯」
作業者「奥さんから電話です」
暗井 晋也(くらい しんや)「あ、うん⋯」
作業者「すぐ返して下さいね 熱で壊れちゃうから!」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「どしたの」
暗井 晋也(くらい しんや)「えっ」
暗井 晋也(くらい しんや)「ヨルが!?」

〇まっすぐの廊下
  生徒指導室
「だからッ」
「その子がやったに決まってるわ」

〇応接室
アケミママ「それともうちの子の仕業っていうんですか?」
先生「そういう訳では⋯」
先生「この子達の話も聞いてみないと」
アケミママ「聞くまでもないわ」
アケミママ「アケミの事は、私が一番わかってるんだから」
アケミちゃん「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「パパ」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
アケミママ「はっきりさせましょ」
アケミママ「ヨルちゃん、貴方がやったんでしょ」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「わ、私」
アケミママ「やったのよね」
アケミママ「私は暇じゃないの」
アケミママ「正直に言いなさい」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
アケミママ「な、何よ」
先生「いけません、暴力は──」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「やりました」
「は?」
「へ?」
暗井 晋也(くらい しんや)「俺がやりました」
暗井 晋也(くらい しんや)「花瓶、割りました⋯」
先生「⋯」
アケミママ「ふざけてるの?」
暗井 晋也(くらい しんや)「ひぃん⋯」
アケミママ「しっかり喋りなさいよ」
暗井 晋也(くらい しんや)「ち、ちが⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「責められると」
暗井 晋也(くらい しんや)「反射的に謝ってしまう」
暗井 晋也(くらい しんや)「そういう性格で⋯」
先生「なんでそんな事に⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「1秒でも早く」
暗井 晋也(くらい しんや)「許されたいから⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「ごめんなさい」
先生(⋯)
先生(難義過ぎる⋯)
???「うわあああん」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそっ かわいそっ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそすぎるヨォォオ」
アケミママ「はあ!?」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯ママ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「だって、だって」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「何も聞いてあげないで決めつけるなんてっ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「かわいそすぎるよッ」
アケミちゃん「⋯」
先生「そ、そうです!もう一度ちゃんと」
アケミママ「大概にして」
アケミママ「もううんざりよ やったのは──」
アケミちゃん「やめて」
アケミママ「⋯」
アケミママ「アケミ?」
アケミちゃん「⋯」
アケミちゃん「やったのは、私だよ」
アケミちゃん「縦笛の袋を投げて、花瓶にぶつけたの」
アケミママ「どうして⋯」
アケミちゃん「だって」
アケミちゃん「だって⋯!」

〇おしゃれなリビングダイニング
アケミちゃん「えーとねっ」
アケミちゃん「私ねっ」
アケミちゃん「アイドル音楽家になる!」
アケミパパ「そうか、じゃあ」
アケミママ「私達でプロデュースしないとね!」
アケミちゃん「約束だよ!」

〇応接室
アケミちゃん「お父さんが出てってからッ⋯」
アケミちゃん「お母さん、仕事ばっかり」
アケミちゃん「ちっとも私の事見てくれないっ」

〇おしゃれなリビングダイニング
  あの日の約束も

〇応接室
アケミちゃん「忘れちゃったんだ⋯」
アケミママ「⋯」
アケミママ「そんな」
アケミママ「そんな思いをさせてたなんて」
アケミちゃん「⋯」
アケミママ「私が間違えてた」
アケミママ「忘れてて、ごめんね」
アケミママ「アケミ⋯」
アケミちゃん「⋯ふっ」
アケミちゃん「えええん」
「ぐしゅっ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「おうっ おうっ⋯」

〇大きな木のある校舎
「おろろ〜〜ん!」

〇応接室
アケミママ「私の思い込みで、ご迷惑を⋯」
先生「いえ⋯」
アケミママ「ヨルちゃん、お父さん」
アケミママ「疑ってごめんなさい」
アケミママ「きっとお父さんは」
アケミママ「全部わかってて、うちの子を庇ってくれたのね」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「コクン」
アケミママ「アケミ」
アケミちゃん「⋯」
アケミママ「お母さん、先生と話してくるから」
アケミママ「それが終わったら、一緒に帰って」
アケミママ「今までの分、お話しましょ」
アケミママ「アケミの気持ち、いっぱい聞かせてね」
アケミちゃん「⋯」
アケミちゃん「うん!」

〇田舎の学校
暗井 ヨル(くらい よる)「一人で外に出て⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「危ないよ、ママ」
暗井 晋也(くらい しんや)「家にいろって言ったのに」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「だってぇ」
暗井 晩子(くらい ばんこ)「心配だもん⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯もう」
暗井 ヨル(くらい よる)「パパ」
暗井 ヨル(くらい よる)「全部わかってたって、ホント?」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「ハパ、褒められる機会には常に飢えてる」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「でもヨルの事なら少しはわかるよ」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 晋也(くらい しんや)「話したい事、あるんでしょ?」
暗井 晋也(くらい しんや)「アケミちゃんと」
暗井 ヨル(くらい よる)「なんだ」
暗井 ヨル(くらい よる)「やっぱり、全部わかってるんだ」
暗井 晋也(くらい しんや)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「私、いってくる」

〇教室の教壇
アケミちゃん「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「アケミちゃん」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯笛、うまいね」
アケミちゃん「まあね」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
アケミちゃん「それを言いに来たの?」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯なんで」
暗井 ヨル(くらい よる)「なんで、庇ってくれたの?」
暗井 ヨル(くらい よる)「花瓶、割ったの⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「私なのに」
アケミちゃん「⋯」

〇教室
アケミちゃん「ああっ」
暗井 ヨル(くらい よる)「あ」
暗井 ヨル(くらい よる)「倒れるっ」
  パシッ
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「セーフ」
アケミちゃん「⋯あ」
アケミちゃん「ありが──」
暗井 ヨル(くらい よる)(あ、やば⋯)
暗井 ヨル(くらい よる)(おなか空っぽで)
暗井 ヨル(くらい よる)(めまい、が──)
先生「ひぇー」

〇教室の教壇
アケミちゃん「別に」
アケミちゃん「そもそもの原因は私だし、それに」
暗井 ヨル(くらい よる)「それに?」

〇通学路

〇教室の教壇
アケミちゃん「アンタの家族」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
アケミちゃん「貧乏でかわいそうだと思ってさ」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯⋯」
アケミちゃん(いや)
アケミちゃん(そうじゃない)
アケミちゃん(私が、言いたいのは──)
アケミちゃん「あの」
アケミちゃん「今まで私、暗井さんの事⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「私も」
暗井 ヨル(くらい よる)「言いたい事、ある⋯」
アケミちゃん「⋯」
アケミちゃん「⋯何?」
暗井 ヨル(くらい よる)「⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「キモ川君の」
アケミちゃん「⋯」
アケミちゃん「うん?」
暗井 ヨル(くらい よる)「その縦笛⋯」
暗井 ヨル(くらい よる)「キモ川君の」
アケミちゃん「は?」
暗井 ヨル(くらい よる)「じゃ⋯」
アケミちゃん「いやいや」
アケミちゃん「アハハ、そんなワケ⋯」

〇大きな木のある校舎
「ヴォオオエ゛ッ!」

〇田舎の学校
暗井 ヨル(くらい よる)「もう」
暗井 ヨル(くらい よる)「まっくらになっちゃった」

コメント

  • 大変遅ればせながらに、読ませていただきました🙏
    なんですかこの怪作は😅!
    しっかり、いじめに貧乏なシーンも描かれてるのに、コメディと言えるくらいユーモアさがあるなんて!
    一部、パパの心情に正直、共感が‥‥ゴホン。
    ラストまで本当おもしろかったです!

  • 酷いイジメでもカウンターパンチの威力が大きければ陰気になりすぎなくて良いですね
    (o゚∀゚)=○)´3`)∴

    しかも最後に教えたのは入れ替わっている事だけで、ヨルちゃんが交換した事って言ってなかったですもんね(保身力SS)
    今後もとばっちりの被害者が増えそうで面白いですね🤤

  • 暗井家の暗さが私に刺さりました! 貧乏でいじめられている陰の雰囲気が好きです。暗いエピソードを延々と読んでいたくなりました。
    それでも家族仲はよさそうなところに救いを感じますね。

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