読切(脚本)
〇ゆるやかな坂道
ここはなんてことのない田舎町。
この街で、
今日も元気に暮らす一家がいた。
山田家である。
父「父です!」
父「早速ですが、 会社をクビになりました!」
母「母です!」
母「またですか・・・ 今月に入ってから、何回目ですか?」
息子「息子です!」
息子「つーか、よくそんなにすぐ仕事クビになれるよね、父さん」
父「父さんが入った会社はすぐに潰れちゃうんだ! 倒産だけに!」
娘「娘です!」
娘「父さん、普通につまんない」
父「そう言うな。お前たちだって、 人に言えない秘密の一つや二つあるだろ?」
父「いい機会だ、ここで全部言ってしまいなさい」
父「家賃が払えなくて、どうせ明日にはこの家を追い出されるんだ」
父「夜逃げと一緒に、いらない思い出はこの街へ捨てていこう」
息子「父さんのは秘密でもなんでもない気が・・・」
息子「まあいいや、とりあえず僕から」
息子「彼女を孕ませました。もう堕ろせません。 責任も取れません」
娘「うわ、我が弟ながら最低だなおい」
息子「しかも僕は同時に五人の彼女と付き合ってました。そして五人とも孕ませました」
息子「養育費を払うつもりも余裕もありません。とっとと逃げましょう」
父「はっはっは! さすが私の息子だ! 私も若い頃、よくやったよ!」
娘「いやそれ誇らしげに言うことじゃないから。というか、その子供どうした?」
父「逃げたに決まっているだろう?」
息子「血は争えないから仕方ないよね! 僕は悪くない!」
娘「どう考えてもお前らが悪い!」
息子「ちなみに僕は彼女ともう一人、孕ませました。実はこっちは逃げてもどうもできません」
娘「え、どゆこと? 誰孕ませたの?」
母「私です」
娘「いやお母さんかいぃぃぃ!!! まさかの近親相姦!?」
母「黙っててごめんなさい。 けど、私は二人とは違うから」
母「ちゃんとお金を稼ごうと努力したのよ」
娘「ちなみに何やったの?」
母「FX でもごめんなさい、失敗しちゃった」
母「お母さん借金こさえちゃって、 今夜ヤーさんが取り立てに来るんだ」
娘「なんの意味もないじゃん!」
息子「いやいや、僕だって少しは行動したんだよ?」
息子「お金を受け取るだけで、大金が手に入る仕事を始めたんだ」
娘「それって詐欺の受け子的なあれじゃ・・・」
息子「安心して。 信頼できる人がやってる事業だから」
父「副業で詐欺師やってました!」
娘「この世で最も信頼しちゃいけない人きた!」
父「でも儲けは出たんだぞー!」
父「この間なんて、息子がオレオレ詐欺で数百万も巻き上げたんだ」
母「あらヤダ。息子ちゃんに払ったと思ってたお金、お父さんが持っていってたの?」
娘「実の母親にオレオレ詐欺かましてんじゃねぇか! いや、もう詐欺ですらねぇよ!」
母「ただ家族間でお金が行き来しただけね。ちなみに、このお金も借金から捻出しました」
娘「ただただ借金になっただけじゃねぇか!」
父「まあまあ、これから夜逃げで全部チャラにするんだから!」
息子「そうそう。慌てるだけ無駄だよ」
母「じゃあ早くお出かけの準備をしましょうね」
娘「なんでそんな冷静でいられるの!?」
娘「もういい! アンタたちとはやってられんわ!」
かくして、一家は旅立った。
誰も知らない居場所を求めて。
新たな生活を求めて。
彼らは今も、旅を続ける。
テンポのいい会話の中に、アカン内容が散りばめられていて、んっ、と2度読みすること幾度か。会話は流れるように、しかし内容に起伏がある展開、面白かったです
「ドタバタ」とか「ファミリー」とか「危機一髪」なんていうコメディっぽい可愛い話じゃなくてびっくりしました。この世の地獄をドロドロに煮詰めたような一家で、ある意味読み応えがあったけど。唯一まともそうな娘も最後になんか爆弾発言するんじゃないかとビクビクしてたら大丈夫で二度びっくり。
最低で最強なドタバタファミリーに度肝ぬかれました! やってる事は全て決して許されることではないけど、リセットして・・と意気揚々と進もうとしている精神が並ではないですね。