逆行

音霧むつみ

逆行(脚本)

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〇開けた高速道路
  バイクのエンジン音が夜の街に轟く。
  後ろからはパトカーのサイレンが響いていた。
警察官「止まりなさい、親御さんが悲しむぞ!」
  (ハッ、そんなもん顔も覚えてねえよ)
  鼻で笑ってしまうような青臭いセリフに思わず挑発してやろうと思った。
小山 春斗「ハハハ!ノロマなポリ公共、追いつけるもんなら追いついてみやがれ!」
小山 春斗「・・・っ、うわっ・・・」
  身を斬るような風の冷気と、現実味の無い浮遊感。
  それが俺の最後に感じたものだった。

〇男の子の一人部屋
小山 春斗「はっ・・・!はっ・・・」
  自身の死の光景に跳ね起きる。
  周りを見るとそこは普段通りの俺の部屋だった。
小山 春斗「なんだ、夢だったか・・・」
  そんなことを言いながら日にちを確認する。
  メンバーを集めてバイクを乗り回し、警察をおちょくる計画の決行日は明日だ。
  それにしても中々にリアルな夢だったな・・・
  軽装の奴は度胸があってカッコいいという風潮がメンバーの間であるが明日はちゃんとしたライダースーツを着て行こうか・・・
小山 春斗「明日の決行日に備えて今日はゆっくり過ごそう・・・」
  翌朝になって目を覚ます。
  今日は計画の決行日だ。
  あれから妙にあの不吉な夢のことが気になったので包帯などの応急手当ての用意も念のためにしておいた。
  これで心置きなく計画に参加することが・・・
小山 春斗「あれ・・・?」
  決行日まであと二日になっていた。
小山 春斗「今までが夢でここが現実・・・ってことなのか・・・?」
  腑に落ちない感覚を受けるが現実かどうかなどはっきり確認する方法など知らないのでそのまま一日を過ごした。
  決行日まであと三日。
  
  確定だ。
  俺は寝る度に前日の朝に遡っている。
  理屈はさっぱり分からないが現に起こっている以上受け入れるしか無い。
  一体全体どういうことなのか、そして俺はどうすれば良いのだろう・・・
  こうして俺の人生の逆行が始まった。
  そういえば俺はこの先どうなるのだろう。
  このまま行けば俺は徐々に幼くなっていき、いずれ迎える誕生日をもって俺はこの世から消えることになる。
  ま、考えたってどうにもならないし誰かに相談してもまともに取り合ってくれないだろう。
  慣れというものは恐ろしいものでそんな生活にいつしか俺は何も感じなくなって何年も時が経った。
小山 周「お前のせいだ!」
  親父の怒号が響く。
  親父から放たれる蹴りが俺の腹部に容赦なく入った。
小山 春斗「あうう・・・」
  うめく俺に親父はかぶりを振って去っていく。
  この日以降この男は俺の前に姿を現すことはなくなる。今の状況だとこれからは顔を合わせることになるのか。
  棺が見える。
  この時の俺はガキでよく分かってなくて。
  知らない大人達がたくさん来るのが嫌で、母ちゃん起きるの遅いなーなんて思っていて。

〇街中の道路
  幼い俺が親父と、女性に挟まれて歩いている。
  俺は顔を輝かせた。
  道路の向こう側に風船を配る着ぐるみを見つけて。
  幼い俺は駆け出す。
  やめろ。
  そっちに行っちゃいけない。
  体が勝手に動く、どうして
  今が一番変えなきゃいけない出来事なのに。
  クラクションが聞こえる。
  トラックが迫ってきたと思ったら母ちゃんが俺を抱き抱えて・・・
  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・どういう理屈か分からないが変えられる過去と変えられない過去がある様だ。

〇明るいリビング
  親父と母ちゃんと俺が食卓を囲んでいる。
  母ちゃんが今日のハンバーグは上手くできたと自慢し、俺と親父はウマイウマイと頬張っている。
  涙が頬を伝う。
  俺が余計なことをしなければこんな光景が続いていたのだ。
  徐々に俺の体が幼くなっていく。
  遊園地、公園、幼稚園、サンタからのプレゼント、すっかり忘れ去っていた記憶・・・自分は愛されていたのだと。
  ・・・・・・
  そんな日々を続けていく内に

〇病室
  産声をあげる俺がいた。
  母ちゃんが、笑ってる・・・まるで人生の全てをやりとげたかのような表情で・・・
  母ちゃんは呟いた。
小山 リカ「優しい子に育ちますように」
  俺は泣いた。赤ん坊としてのそれとは別に泣いた。
  (母ちゃん、俺・・・還るよ、母ちゃんの中に)

〇男の子の一人部屋
小山 春斗「えっ・・・?」
  気づくと元の体で俺は自室に立っていた。
  なんとなくポケットの中にあったスマホを確認する。
小山 春斗「俺が死んだ日だ・・・」
  机を見るとそこには大学の合格通知があった。
  無論元の世界ではその様なことは無い。
小山 春斗「歴史が変わった・・・?」
  俺が時間を逆行したことによる影響なのだろうか・・・
  もしかしたら・・・!
  一階の和室の神棚には以前と変わらず母の遺影が鎮座していた。
  まあ・・・そうだよな・・・だからあの時動けなかったんだろうし・・・
小山 春斗「母ちゃん・・・俺、頑張るよ」
  バカな生き方して死んで・・・まともになるのにすげえ時間掛かっちまったけど・・・
  明日があるってこんなに素晴らしいことだって分かったから・・・

〇面接会場
  数年後
教師「本日は我が校の面接にお越しいただきありがとうございます。教師を志したきっかけは何ですか?」
小山 春斗「亡き母に誇れる職に就きたかったからです。母が私に言ったんです、」
  優しい子に育ちますように、と

コメント

  • 時間の逆行ができるのは一日単位なのかな…?
    それともターニングポイント的なところに戻れるのでしょうか?
    でも過去の両親の子育ての姿を見たら、今より強く芯のある人間になれそうです。

  • この逆行が彼の脳内だけで起きていたとしたら、実際に夢を深く長く見る事で自分でも実現できそうだと思ってしまいました。まさに甦りですね・・・。

  • 私も過去にもどれたら大好きだった祖父母に会いたいな。この主人公が赤ちゃんの頃の母の言葉を胸に今がんばっている姿に心打たれました。同じように、今は亡き祖父母の存在や言葉は今も私の中に生きています。

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