うちのイケメン過ぎる兄が恋をしまして

七四雪

エピソード1(脚本)

うちのイケメン過ぎる兄が恋をしまして

七四雪

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〇オフィスの廊下
  侑士(もうすぐだ・・・もうすぐ、彼女が通る。)
  ドクン、ドクン。心臓の音がうるさい。
  廊下の曲がり角から足音がした。
  侑士(今だ!)
遠田 咲名(えんだ さきな)「わっ・・・!」
  軽い衝突の後、彼女が尻餅をついた。
  そこへ俺はさっと片手を差し出して、とびきりの笑顔を浮かべる。
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「大丈夫?」
遠田 咲名(えんだ さきな)「え?は、はい・・・」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「ほら、立って」
遠田 咲名(えんだ さきな)「あ・・・」
  しかし彼女は俺の手を取らずにさっと立ち上がってしまった。
遠田 咲名(えんだ さきな)「あの、どうもすみません」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「い、いやこちらこそ」
  軽くショックを受けたが、何とか平静を保つ。
  侑士(だ、大丈夫だ・・・肝心なのはここからだ!)
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「遠田さん今から帰り?俺も・・・」
遠田 咲名(えんだ さきな)「あっ」
遠田 咲名(えんだ さきな)「ごめんなさい!私、急いでて!」
  さっと腕時計を見てから彼女が駆け出した。
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「あ・・・・・・」
  俺はその後姿を呆然と見送っていた・・・

〇一戸建て
「はぁ・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
一貫 言花(いちぬき ことか)「あ~・・・この漫画の男の子、素敵だなぁ」
一貫 言花(いちぬき ことか)「世の中にこんなカッコイイ王子様がほんとに居たらいいのに・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「はぁ、クラスの男子なんてほんとにクズですよ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「気持ち悪い顔して漫画読むなよ、言花」
一貫 言花(いちぬき ことか)「うるさい!哉生には分からんのですよ、この乙女心が!!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「はいはい・・・つか、お兄様と呼べよ」
一貫 言花(いちぬき ことか)「えー、だって哉生なんか全然兄ぽくないしぃ。一個しか違わないしぃ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「一個でも兄は兄だ」
一貫 言花(いちぬき ことか)「ふーんだ!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「哉生、今日も高校休んだでしょ。いいの?留年するよ?」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「・・・・・・別に」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「高校なんか出なくてもいいし」
一貫 言花(いちぬき ことか)「あーぁ出た出た、哉生の負け惜しみ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「うるさいな・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「ダメ兄を持つと妹は苦労するですよ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「お前ね、ほんと可愛くない・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「それに比べて、侑士くんは完璧だよね!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「むっ・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「だってさぁ、見てほら」
一貫 言花(いちぬき ことか)「この漫画の男の子なんて、侑士くんそっくり!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「あーぁ、侑士くんがお兄ちゃんじゃなかったら良かったのになぁ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「お前、とことん気持ち悪いな」
一貫 言花(いちぬき ことか)「うるさい!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「哉生には分からんのですよ、この複雑な妹心が!!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「はいはい・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「あっ侑士くんだっ」

〇部屋の前
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)(はぁ・・・)
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)(今日もダメだった・・・)
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くーん、お帰りー!」
  ぎゅっ
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「あぁ、ただいま・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「?」
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くん、元気ないですか?」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「いや・・・なんでもない」
「侑士「はぁ・・・」」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「兄貴、なんか会ったのか?」
一貫 言花(いちぬき ことか)「これは・・・由々しき事態ですよ!!」

〇本棚のある部屋
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)(はぁ・・・)
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)(咲名さん・・・)
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)(今日もマトモに話せなかったな・・・)
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くん!!」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「なんだ、お前ら」
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くん、何か悩みがあるですね!!!」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「え・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「言花が相談に乗るですよ!!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「まぁ、こういう調子だから。諦めて話せば?兄貴」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「・・・・・・」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)(こうなると言花は譲らないからな・・・仕方ない)
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「実はだな・・・」

〇本棚のある部屋
一貫 言花(いちぬき ことか)「な、なんですと・・・!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くんのアタックになびかない女子が・・・!?」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「そうなんだ・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「へぇ~・・・兄貴でもそんなことあるんだ(ニヤニヤ)」」
一貫 言花(いちぬき ことか)「そんなのおかしいですよ!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くんのイケメンオーラにトキメかない女がいるなんぞ!」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「だろう?」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「俺もこんなのは生涯初めてだ・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「・・・アンタら、ほんといい性格してるよ」
一貫 言花(いちぬき ことか)「それで、これまでどんなアタックをしてきたですか?」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「そうだな・・・」

〇オフィスのフロア
  侑士「彼女が落としたペンを拾ってあげたり・・・」
  言花&哉生「ふんふん」

〇綺麗な会議室
  侑士「咳き込んでた時に大丈夫?って声をかけてあげたり・・・」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「大丈夫?」
  言花「ふんふん」
  哉生「ふん?」

〇異世界のオフィスフロア
  侑士「パソコン操作に困っていたとき、横から操作を手伝ってあげたり・・・」
  言花「ふんふん」
  哉生「んん・・・?」

〇施設の休憩スペース
  侑士「ガムあげたり・・・」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「ガム、いります?」
  哉生「うん、ちょっと待って」
  侑士「?」

〇本棚のある部屋
一貫 哉生(いちぬき かなお)「それ、全部普通のことじゃない?」
「?」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「いや、だから」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「会社とか良く分かんないけど、普通に生活してたら誰でもそういうことってあるでしょ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「なんでそれをアタックだと思ってんの」
「???」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「いや、その『何言ってるか分かりません』顔、逆に怖いんだけど・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「だって哉生、相手は侑士くんですよ?」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「は?」
一貫 言花(いちぬき ことか)「そこいらの凡庸な男ならともかく!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「こんっなイケメンが近くに来て、話しかけてくれただけでも卒倒モンじゃないですかー!!!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「もはや設定が二次元!!!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「だよねぇ?侑士くん」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「そうだよな」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「あぁダメだ、この家にマトモな人間は僕しかいない・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「でもそういうことなら、この言花にお任せですよ!侑士くん!」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「言花?」
一貫 言花(いちぬき ことか)「きっとその女性は、侑士くんが余りにイケメンだから逆に緊張しちゃうんだよ!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「だから、侑士くんのイケメンオーラをちょっとだけ消してみたらいいと思うです!」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「なっなるほど・・・!」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「そうだったのか!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「ほんとにどうしようもないな、この兄妹は・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「さっそく見た目から変えてみよう!!」

〇本棚のある部屋
一貫 言花(いちぬき ことか)「どうですか?侑士くん」
  侑士「あぁ・・・一応着替え終わったぞ」
※イメチェンした侑士「どうだ?少しはオーラが消えたか?」
一貫 言花(いちぬき ことか)「うーん・・・見た目は一見ダサダサだけど・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「つか、それ僕のジャージ・・・」
一貫 言花(いちぬき ことか)「いや、やっぱりダメ!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くんはどんな格好してもやっぱりイケメンですよ!」
※イメチェンした侑士「そうか・・・ここまでやってもダメか・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「アンタらほんと幸せね・・・いっそ清々しいよ」
※イメチェンした侑士「これ以上どうしたらいいんだ・・・」
「うーん・・・・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「・・・・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「あのさ・・・一言言わせてもらってもいい?」
「?」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「僕も恋愛とかよく分かんないけどさ・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「その、そもそも相手を惚れさせようとか、他人の気持ちをどうこうしようと思ってるのがダメなんじゃない?」
※イメチェンした侑士「え」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「だってその人、多分兄貴の気持ちに気付いてないよ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「見た目だけに頼るんじゃなく、もっとちゃんと・・・何だろ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「優しくしたりとか?特別扱いしたりとか・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「気持ちを伝える努力を、兄貴はした方が良いんじゃないかな」
※イメチェンした侑士「哉生・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「なんて・・・僕が言っても説得力無いかもだけど・・・」
※イメチェンした侑士「いや・・・」
※イメチェンした侑士「確かに、お前の言う通りだ」
一貫 言花(いちぬき ことか)「侑士くん?」
※イメチェンした侑士「確かに今まで俺は、自分がイケメンであることに頼りすぎていた」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「自分で言えたら世話ないよね・・・」
※イメチェンした侑士「思えば幼稚園の頃から、俺が傍に行くだけで女子たちは頬を赤らめてチヤホヤしてくれた・・・」
※イメチェンした侑士「特に勉強もしていないのに成績は常に学年トップ」
※イメチェンした侑士「難なく一流大学に進学し、そのまま一流企業に就職、今も将来を嘱望されている身だ」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「はぁ・・・」
※イメチェンした侑士「だからこれまで、自分から女子を誘ったりアピールする必要なんて無かった」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「羨ましい人生ですね・・・」
※イメチェンした侑士「だが、俺は変わる!」
※イメチェンした侑士「今日から俺は、どこにでもいる普通の男になるぞ!!!」
一貫 言花(いちぬき ことか)「すごいよ侑士くん!言花感動したよー!!!」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「ほんとに分かってんのかな、この二人・・・」

〇商店街の飲食店
  一方その頃・・・

〇テーブル席
咲名の友人A「最近さぁ、親がいよいよ言い出したの」
咲名の友人A「『いい相手はいないのか』とかって」
咲名の友人B「わかるわー・・・うちらもぼちぼちアラサーですもんね」
咲名の友人A「でもさ、そんなこと言われてもって感じだよね」
咲名の友人A「実際、会社にいいなと思う相手なんていないし!」
咲名の友人B「うちもうちも」
咲名の友人A「そういえばさ、咲名んとこ、『一貫侑士』って人いない?」
遠田 咲名(えんだ さきな)「いるよ、同じ部署」
咲名の友人A「高校の時の後輩に聞いたんだけどさ、その人めちゃくちゃイケメンってほんと?」
咲名の友人B「え、それは見てみたい!」
遠田 咲名(えんだ さきな)「確かに、芸能人みたいだなーって感じではあるね」
咲名の友人A「話とかするの?」
遠田 咲名(えんだ さきな)「まぁ普通に」
咲名の友人A「反応薄いなー」
咲名の友人B「まぁ咲名はあれだからね、B専」
遠田 咲名(えんだ さきな)「違うよー」
遠田 咲名(えんだ さきな)「私はシュッとした人よりカバっぽい人がタイプなだけ」
咲名の友人A「ほんと変わってるよねぇ、咲名」
遠田 咲名(えんだ さきな)「そうかなぁ・・・」
咲名の友人A「そのイケメン君が近くに来ても何も感じないわけ?」
遠田 咲名(えんだ さきな)「うーん・・・」
遠田 咲名(えんだ さきな)「逆に苦手かも・・・イケメン・・・」

〇一戸建て

〇本棚のある部屋
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「で、どうすれば普通の男になれるんだ?」
一貫 言花(いちぬき ことか)「サングラスとマスクで顔を隠すとかどうですか!?」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「なるほどな・・・」
一貫 侑士(いちぬき ゆうし)「だけど会社でサングラスはマズいかもな・・・」
「うーーーん・・・」
一貫 哉生(いちぬき かなお)「はぁ・・・」
「やっぱズレてんだよなぁ、この兄妹・・・」
  つづく

コメント

  • ド天然の兄と妹に対する哉生のツッコミが絶妙にいい味出していて、この兄弟の会話をずっと聞いていたいほどでした。イケメンを消すために弟のジャージを着たりしてわちゃわちゃする3人の雰囲気、ほんとにほっこりするなあ。

  • 兄妹の関係がすごく可愛らしくて、少しぐらい感覚がづれているところも良かったです。イケメンにはそれなりに不都合なこともあるっていうことですね。それでも人間は中身で勝負したいですね。

  • 可愛い表紙に惹かれてきました!
    イケメンお兄ちゃん、しょっぱから計算高い女子みたいで笑いました🤣
    まるで恋する乙女ですね👍

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