絶望……それはいつもあなたに(脚本)
〇美しい草原
踏みつぶした草の汁が青臭い匂いをまき散らして弥生にまとわりつく。
それ自体を弥生は不快に思わなかった。それどころではないのだ・・・・・・
汗でじっとりと背中に張り付いた服、少し伸びた前髪、時間の経過と共に肩に食い込むリュックのベルト。
痛い、苦しい、力が入らない。
ありとあらゆる力を総動員して一歩を踏み込む自分を誰か褒めて欲しい・・・・・・
弥生の心の声は酸素を求める肺の前ではぜひょー、ぜひょーとしか実現できなかった。
エキドナ・アルカーノ「噓でしょ・・・・・・」
エキドナの声は膝に手をかけていっぱいいっぱいの弥生の背中にさらなる重みを乗せて来る。
日下部 真司(くさかべ しんじ)「エキドナ姉・・・・・・だから言ったじゃん。無理だって」
日下部 文香(くさかべ ふみか)「えきどなおねーちゃん、文香なら大丈夫だよ」
真司と文香がさもありなん、とかぶりを振りながら弥生から視線を逸らす。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「しん・・・・・・ふみ、か」
何とか呼吸を整え弥生が言葉にならない声を発するが、一度オーバーヒートした身体はいう事を聞いてくれなかった。
エキドナ・アルカーノ「だって・・・・・・たった10分しか歩いてないのに・・・・・・真司、文香。君らのおねーちゃんはどうなってるのさ」
エキドナの言葉は事実だった。村から出てある程度舗装《ほそう》された街道を歩いて弥生は力尽きた。
しかもまだ村の門番さんが見える程度の距離である。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「えっ、きどナさん・・・・・・いった、はぁ・・・・・・じゃない。ですか・・・・・・ぜつ、ぼうする。って」
息も絶え絶えの様子な弥生はだれがどう見ても限界なのだけれど・・・・・・早すぎた。
エキドナ・アルカーノ「・・・・・・絶望してるよ。もやしっ子どころの騒ぎじゃないね」
日下部 真司(くさかべ しんじ)「姉ちゃん・・・・・・本気で運動神経も体力もなくてさ・・・・・・小学校の学内マラソン校庭半周で保健室送りになったんだ」
日下部 真司(くさかべ しんじ)「それ以来体育の時間は取扱注意レベルだよ」
日下部 文香(くさかべ ふみか)「おねえちゃん・・・・・・文香がリュック背負うから、ほら、腕スポん!」
着替えやテントの部品が入ったリュックを弥生から受け取って軽々と背負う文香。
弥生の背中をさすってあげながら革袋の水筒を取り出してゆっくりと水を飲ませる真司。
どう見ても手馴れている弟妹《ていまい》の連携に呆れるべきなのか、褒めるべきなのかエキドナが言葉に詰まる。
エキドナ・アルカーノ「ちょっと村に戻って忘れ物持ってくるよ。真司、文香。任せていいかい?」
一旦エキドナは荷物を降ろして全速力でダッシュ。
その走りはスプリンターも真っ青な加速力で文香と真司が目を丸くするほど
「早・・・・・・」
砂埃が少し舞っただけであっという間にエキドナの後姿は小さくなる。
そのまま村に入ったと思われるエキドナを待つこと数分、今度は何かを背負ったエキドナが金髪をたなびかせて戻ってきた。
エキドナ・アルカーノ「おまたせっ!!」
日下部 真司(くさかべ しんじ)「お帰り、ほら姉ちゃん・・・・・・エキドナ姉が戻ってきたよ」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「はえ? えき・・・・・・どナさん。どこか行ってた、の?」
まだ回復していない弥生に乾いた笑いしか返せないエキドナ。
すでに歩いた時間よりも休憩の時間のほうが長い。
日下部 文香(くさかべ ふみか)「えきどなおねーちゃん。それなにー?」
エキドナ・アルカーノ「背負子《しょいこ》だよ、残念ながらたった今から弥生は荷物扱いさせてもらうよ。この様子じゃ野営地まで三日以上かかりそうだし」
あくまでも今回は体験なのである。
遠足気分できゃっきゃうふふな感じで行くはずなのであって・・・・・・強行軍を強いた覚えはエキドナには無い。
日下部 真司(くさかべ しんじ)「エキドナ姉、リュックは?」
エキドナ・アルカーノ「いったん入れなおして弥生と一緒に背負うよ・・・・・・」
日下部 真司(くさかべ しんじ)「エキドナ姉・・・・・・見た目は姉ちゃんと同い年ぐらいにしか見えないのにすごいね」
エキドナ・アルカーノ「これでも僕は軍用の高級品だからね・・・・・・真司と文香も大したものだよ、そのリュック15キロぐらいあるのに」
日下部 文香(くさかべ ふみか)「ランドセルのほうが重いよー?」
文香の言葉を聞いて、むしろ弥生がどうやって学校に通っていたのか聞いてみたい気がする一方で聞いてはいけない気もする
日下部 文香(くさかべ ふみか)「ほら、おねえちゃん。えきどなおねーちゃんにおんぶしてもらおう?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「だが、こと・・・・・・わる」
エキドナ・アルカーノ「・・・・・・そんな言ってみたかった事を言ってみました的な発言はいいから」
結局、弥生が息を整えて強制的に背負われるまでさらに30分・・・・・・。
道中ではエキドナがどうやってウェイランドに行くか真剣に悩み・・・・・・
弥生が死んだ目で「景色がきれいだなぁ・・・・・・あはは」と絶望しつつも何とか予定より早めに野営地に到着できた。
〇けもの道
日下部 真司(くさかべ しんじ)「エキドナ姉、このロープもやい結びでいい?」
エキドナ・アルカーノ「お、良いねぇ。手馴れているねぇ」
エキドナ・アルカーノ「・・・・・・うん。完璧だよ」
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