頭突きで始まる挨拶(脚本)
〇黒背景
――ちゃんと会えるから!
〇空
日下部 弥生(くさかべ やよい)「うんっ!? 真司!! 文香っ!?」
エキドナ・アルカーノ「ぶげっ!!」
弥生の額に走る衝撃と素っ頓狂《すっとんきょう》な悲鳴はほぼ同時。
目を覚ました弥生が初めて見た光景は金髪の少女が鼻の頭を押さえて涙目で自分を睨んでいる所だった。
エキドナ・アルカーノ「ひどいんじゃないかな!? 看病相手に寝起きで頭突きって・・・・・・どうしてここで寝ていたのかとか教えてくれるかな?」
エキドナ・アルカーノ「それだとエキドナおねーさんは非常にリアクションをしやすいねぇ」
思ったより元気そうだねぇ、と。赤くなった鼻っ柱を左手で撫でつつエキドナは弥生の額を右手で優しくさする。
弥生からすると上下逆さまなエキドナの顔、空が見えること、後頭部の柔らかい感触・・・・・・
それらを総合して弥生は察した。膝枕されていると・・・・・・。
そして慌てたがゆえに失敗する。
弥生は顔を真っ赤に染めて跳ね起きたのだ。
エキドナに膝枕で覗き込まれたままの状態で・・・・・・当然だが
通算二度目の頭突きが発生した。
エキドナ・アルカーノ「・・・・・・いくら心が琵琶湖《びわこ》並みに広いエキドナおねーさんでも限度というものがあるとは思わないかな? かな?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「ごめんなさぃぃ・・・・・・」
お互いに涙目&追撃ダメージを受けた中、わたわたと弥生はエキドナに向き直る。
もちろんエキドナに合わせて正座だ。
なんか周りがだだっ広い草原だとか・・・・・・土の匂いに合わせて心地い風が吹いてるとか。
おねーさんと言いつつ。弥生とそう年が変わらなそうなエキドナの容姿とか、すべて後回しにしてまずは弥生が深々と頭を下げた。
エキドナ・アルカーノ「およ?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「ありがとうございました。助けて・・・・・・くれたんですよね?」
丁寧に、お礼と確認をする弥生にエキドナが目を細める。
何かまぶしいような、懐《なつ》かしいような光景を思い出すかのように・・・・・・。
エキドナ・アルカーノ「そんなところかな? おねーさんはたまたま君らを見つけてねぇ・・・・・・この辺は街道からも外れているから割と物騒でねぃ」
エキドナ・アルカーノ「ちょうど休憩がてらに不寝番といったところだねぇ」
ばちこん! とウインクと横ピースを決めるエキドナ。
鼻の頭が赤くなっているので恥ずかしさをごまかしてるような絵面になっていたが、弥生の緊張感を緩めるのには正解だったようだ。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「もしかして身ぐるみ剥がれます?」
くすり、と笑いながら顔を上げる弥生。
にゃはは、と手をひらひらさせるエキドナと目が合う。
エキドナ・アルカーノ「まさか、野盗だったら運が良くても慰《なぐさ》み者にされて奴隷オークション行きかなぁ?」
エキドナ・アルカーノ「何もなかったから言うけどさぁ、こんな所で子供だけで寝てるなんて不用心にもほどがあるとおねーさんは忠告するよ」
エキドナ・アルカーノ「なんか事情アリっぽいのはわかるけど・・・・・・改めて何があったのか教えてくれるかな? 名前は言える?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「弥生、日下部弥生と言います」
エキドナ・アルカーノ「おーけー弥生。僕のテントで話そうじゃないか・・・・・・ん? 日下部ってさっきの二人も君のきょうだいか何かなのかな?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「小さな女の子と生意気そうな男の子ならそうです」
エキドナ・アルカーノ「じゃあ間違いなさそうだ。 立てるかい?」
そういってエキドナが立ち上がり弥生を手招きすると、長い金髪が風にたなびき・・・・・・不思議な貫録をみせた。
弥生になんとなくこの人なら信じてもいいかなと思わせるほどに・・・・・・
そして、弥生に生まれたほんの少しの余裕が目覚める前の声に疑問を持つに至る。
――『ちゃんと会えるから』どこかで聞いた事のある声だったような気がした。
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