あと3ページ〜人間辞める前日に〜

結丸

あと3ページ〜人間辞める前日に〜(脚本)

あと3ページ〜人間辞める前日に〜

結丸

今すぐ読む

あと3ページ〜人間辞める前日に〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇地下広場
謎の男「・・・・・・はい、そんじゃ受理しますねー」
太一「えっ、もう終わり?」
謎の男「? はい」
太一「そんなもん・・・・・・なの?」
謎の男「そんなもんっすよ?」
太一「そ、そっか」
謎の男「あ、もっと時間かけたほうが良かったっすか?」
太一「そ、そういうわけじゃ・・・・・・」
  チラリと書類に視線を落とす。
  こんな紙切れ一枚で人生が変わるなんて・・・・・・
太一「(いや、違う。変わるんじゃない)」
太一「(・・・・・・辞めるんだ)」
  すると、男は僕を気遣うように話し始めた。
謎の男「まぁ、もっと何かあるんじゃね? って思っちゃいますよねー」
謎の男「なんせ、人間辞めるっつーんだから」
太一「あ、ああ・・・・・・」
  現実味のない会話に脳がフワフワする。
  だが、これは紛れもない現実だった。
謎の男「それで、明日からどーすんです?」
太一「どうする、とは?」
謎の男「人間辞めて、次何すんですか?」
太一「次・・・・・・あるの?」
謎の男「あるでしょ、そりゃあ」
  当たり前だ、と言わんばかりに男は真顔で
  言う。
太一「(そんなこと言われても・・・・・・)」
謎の男「あれ?  もしかして、何も考えてなかったとか?」
太一「いや、そんなことは・・・・・・」
謎の男「そーっすよね。さすがに次のこと考えずに 辞めないっすよねー」
謎の男「そんじゃ、俺はそろそろ──」
太一「待って!」
  僕は立ち上がろうとした男の腕を咄嗟に
  掴んだ。
謎の男「? まだ何か?」
太一「ええと、その・・・・・・」
太一「もし、次を決めずに辞めたらどうなるの?」
謎の男「それって・・・・・・」
太一「もしもの話! 後学のためっていうか」
謎の男「後学ぅ?」
太一「そ、そう! 後学!」
  自分でも苦しい言い訳だとは思ったが、
  とにかくこのまま男を行かせる訳には
  いかない。
謎の男「・・・・・・ま、いいっすよ。 まだ時間あるし」
  男は腕時計を見ると再び腰を下ろした。
謎の男「簡単なハナシっすよ。 次が決まらなけりゃ漂うだけ」
太一「漂う・・・・・・って?」
謎の男「行き場のない魂が、どこにも留まることなく漂い続けるんす」
太一「ふぅん。それって良くないことなの?」
謎の男「そりゃあね」
謎の男「一度器を失った魂をもっぺん器に戻すのは 難しいっすから」
太一「へぇ・・・・・・」
  分かるような分からないような話だ。
太一「デメリットはそれだけ?」
謎の男「それだけって・・・・・・ おっかない奴らに狙われ続けるのに?」
太一「・・・・・・え」
謎の男「運悪く食われちまったら、悪霊の仲間入りっすよ」
太一「・・・・・・」
  ごくり、と生唾を飲み込む音が響いた。
  人間を辞めること、ひいては死ぬことに対しては抵抗はないけど・・・・・・
太一「(あ、悪霊は・・・・・・ちょっとなぁ)」
謎の男「ま、だから次のことは考えておいたほうが いいっすよ」
太一「そう、だね・・・・・・」
謎の男「・・・・・・じゃ、後学ってことで。 コレ」
  男は懐から取り出した水色の紙を
  僕に見せた。
太一「これは?」
謎の男「“次”になりたいものをココに記入すれば、 遠隔で申請先に反映されるっつー特別な用紙っす」
太一「遠隔で? すごいね」
太一「・・・・・・でも紙なんだ?」
謎の男「はは、アナログなんだかハイテクなんだか 分かんねーっすよね」
謎の男「でもま、そんなのを超えたモンがこの紙にはあるらしいっす」
  そう言うと、男は僕に背を向けて
  本を開いた。
太一「・・・・・・?」
謎の男「キリのいいとこまで読み進めたいんで」
太一「や、そうじゃなくて──」
謎の男「あと3ページの間っすよ」
太一「・・・・・・!」
  男の言葉に僕はハッとした。
  どうして彼が僕にこんなことをしてくれるのかは分からないけれど・・・・・・
太一「(無駄には出来ない・・・・・・よな)」
  ページをめくる音が聞こえた。
  あと2ページ。
太一「(次、次・・・・・・どうする?)」
  僕は頭を必死に働かせる。
  と同時に、これまでの人生を振り返った。

〇広い公園
いじめっ子「おいお前! この公園で遊ぶんじゃねー!」
いじめっ子「ん? なんだよ、やんのか?」

〇高い屋上
いじめっ子「パン買ってきたか?」
いじめっ子「ああ? 売り切れ?」

〇オフィスのフロア
上司「頼んでた書類、出来たか?」
上司「おい、何でお前の名前があるんだ?」
上司「ワシが作った事にしないとダメだろ! 全く、気が利かん奴だなぁ」

〇地下広場
太一「(ロクなことがない人生だったな・・・・・・)」
太一「でも、いざ人間辞めるってなると・・・・・・」
太一「大したことじゃないように思えてくる・・・・・・」
太一「(・・・・・・あ)」
  ふと、脳裏に優しい笑顔が浮かんだ。

〇オフィスのフロア
陽子「太一くん」
  同期の陽子ちゃん。
  いつも明るくて、僕みたいなヤツにも優しいコだった。
  もう、陽子ちゃんに会えなくなるんだ・・・・・・
陽子「数字、こっちで直しておいたからね」
  陽子ちゃん・・・・・・

〇地下広場
太一「(・・・・・・あ、ヤバい。泣きそう)」
  鼻をすすると男が振り返った。
  そして僕に見えるように、ゆっくりとページをめくる。
太一「(あと1ページ・・・・・・急がないと!)」
太一「(何か、何かなかったっけ・・・・・・!)」
  これまでの人生を脳内で早送り再生する。
  ほとんどがロクなもんじゃない。
太一「(他、他・・・・・・)」
太一「(・・・・・・あっ)」

〇オフィスのフロア
陽子「〜♪」
太一「陽子ちゃん、書類・・・・・・」
陽子「はーい、じゃ処理しとくね」
  カシャンッ
太一「あっ、ごめん ペン落ちちゃったね」
太一「はい」
陽子「ありがとう」
太一「それ・・・・・・ネコ?」
陽子「うん、可愛いでしょー」
太一「うん、可愛いね」
太一「ネコ、好きなんだ?」
陽子「うん、好き」
太一「そ、そうなんだ」
太一「(か、可愛いなぁ・・・・・・)」

〇地下広場
太一「(・・・・・・よし、決めた)」
  僕はペンを動かした。
  僕は、明日から・・・・・・
太一「ネコになる!」

〇街中の道路
  ――翌日。

〇街中の道路
陽子「可愛い〜」
ネコ「ニャーン」
陽子「あっ、こっちきた」
陽子「ごめんね、私・・・・・・」
陽子「ネコアレルギーなの」
ネコ「ニャオン・・・・・・」

〇木調
  完

コメント

  • すごいおちでした!結果的に陽子ちゃんの飼い猫にはなれないだろうけど、彼女のおかげで生まれ変わる姿を見いだせたのは本当によかった。私も生まれ変わったら猫になりたいたちです。

  • 次を指定出来るあたり、サービスが行き届いているというか。
    でも、残念でしたね。
    まさかの猫アレルギーとは!
    書類で人間を辞められるって、おもしろい発想だなぁって思いました。

  • 残念!好きな娘のペットになろうとしてもよりによって猫アレルギーとは。でもね、猫好きな女性は沢山居るから積極的に探しに行こう!

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ