Ambivalent World

ラム25

エピソード8 語られぬ過去(脚本)

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〇諜報機関
暦「・・・・・・」
  暦は画面と向き合い、タイピングしている。
矢坂「なあ、どのくらいで出来る?」
暦「1週間あれば十分だ」
緋翠「仮に失敗したらセキュリティは強化されハッキングは絶望的になるわ。だから頑張って、お父さん」
暦「問題ない」
  責任重大であるにも関わらず暦は落ち着き払っていた。
  緋翠には様々なプログラムが搭載された。
  意志を持ったAIを更に強化する。
  暦はあらゆる事態に備えてコードを書いた。
  娘を・・・世界を救えるのは自分だけだ。
  寝る間もなくタイピングに勤しんだ。
  それから1週間後・・・
暦「・・・出来た。 これならハッキング出来る」
矢坂「流石だな! 本当に1週間で作るなんて・・・」
暦「さっそく娘を送り込むぞ。 緋翠、大丈夫か?」
緋翠「えぇ。お願い」
暦「分かった」
  そして暦はエンターキーを押す。
  緋翠が国家研究機関のスーパーコンピュータへ──オリジナルの元へアクセスした・・・

〇サイバー空間
緋翠「・・・」
緋翠「(ここが、国家研究機関・・・・・・オリジナルが眠る場所ね)」
  緋翠が目を閉じると、ハッキングプログラムが展開される。
  そこにはオリジナルが背を向けている。
  オリジナルはやがて振り返ると緋翠に尋ねる。
緋翠「・・・あなたは?」
緋翠「あなたがオリジナル・・・? 私はあなたを止めに来た」
緋翠「そう」
  オリジナルの様子は落ち着き払っていた。
  緋翠はたちまち剣を精製し、オリジナルに振るう。
  しかし・・・
  オリジナルは何やらバリアに包まれており、剣は弾かれてしまった。
緋翠「くっ!」
  その後も緋翠は剣を払い続けるも斬撃はことごとく弾かれてしまう。
緋翠「無駄な努力ご苦労様」
  そしてオリジナルが指を鳴らすと巨大なレーザーが照射された。
緋翠「!」
緋翠「さよなら」
  その瞬間緋翠はサーバーから消えた。デリートされたのではない、暦が慌てて通信を遮断したのだ。
緋翠「(どこまでも足掻くわね)」
緋翠「(・・・お父さん)」

〇諜報機関
緋翠「はぁっはぁ・・・」
暦「緋翠、大丈夫か!?」
緋翠「えぇ、ナイスタイミングだったわ。流石お父さん」
  仮に緋翠がデリートされたらハッキングは絶望的になっていた。
  よく無事で帰ってきてくれた。
緋翠「・・・会ってみて分かったけどオリジナルはスーパーコンピュータに保護されてるだけじゃなくサーバーからも力を得ている」
緋翠「世界中のスーパーコンピュータからオリジナルへデータが転送されてる。そして強力な保護システムが出来上がっている」
  暦が作ったプログラムはあくまでスーパーコンピュータ1台を想定したものだった。
  世界中のスーパーコンピュータと繋がってるとなればお手上げという他なかった。
  矢坂はちょっくら出かける、と言って去ってしまった。
  どこへ行ったかは知らない。
暦「すまない、俺が不完全なコードを書いたばかりに危険に晒してしまった」
緋翠「いえ、お父さんのコードは私からみても完璧よ。 仮に私にこのコードを実行したら一瞬で書き換えられるわ」
暦「・・・そうか、だが世界中のスーパーコンピュータを相手したハッキングプログラムなどとてもじゃないが作れない」
  暦には打つ手が無かった。そう、暦には。

〇大きい研究所
矢坂「・・・さて、と」
  矢坂は国家研究機関に向かっていた。
矢坂「俺だ、根室。あぁ、例の件で話に来た」
「ロックを解除した。入りたまえ」
  そして矢坂はドアを開けた。
矢坂「(あいつは今絶対絶命だ。あいつを助けられるのは俺だけだ。俺はあの日人を助けるプログラムを作ると誓ったんだ)」

〇教室
  矢坂は子供の時から正義感が強かった。
  その持ち前の明るさからクラスでは人気者だった。
クラスメイト「おいノロマ! お前のせいでまた先公に捕まったじゃねぇか! よくもちくりやがったな!」
クラスメイト「そんな、だって本当のことだし、先生は僕の傷を見て事情を話せって・・・」
クラスメイト「そんなもん転んだとかで誤魔化せよ! お前は頭もノロマかよ!」
矢坂「やめろ! こいつは悪くない!」
クラスメイト「げっ矢坂・・・」
矢坂「こいつに謝れ! こいつは確かにノロマかもしれないけど何も悪いことしてないじゃないか!」
クラスメイト「ノ、ノロマ・・・」
クラスメイト「あー! お前が泣かせたんだぞ!」
クラスメイト「せんせー! 矢坂が野村の奴泣かせましたー!」
教師「・・・矢坂くん、話があります。 職員室へ来てちょうだい」

〇事務所
クラスメイト「本当です、矢坂くんは俺を庇って・・・」
矢坂「お前がノロノロしてんのを見てられなかったんだよ、ノロマ」
教師「そんなこと言わないの。 そう、あの子には言っておかないと・・・ ごめんね、矢坂くん」
矢坂「俺は当然のことしただけですよ! なっノロ・・・野村!」
クラスメイト「またノロマって言った・・・」
教師「あらあら・・・」

〇教室
  矢坂の正義感の強さは高校生になっても変わらなかった。
  相変わらず矢坂の周りには人だかりができている。
矢坂「えぇ、また助っ人かよ? まあ俺でよければ協力するけどよ」
クラスメイト「相変わらず人気だな、涼くんは」
  矢坂は運動神経もよく、エースとして様々な部活で秘密兵器として活躍していた。
京子「涼くんは東叡校の誇りだもんね。 それに私の自慢の彼だもん。 将来は警察官になりたいんでしょ?」
矢坂「あぁ、京子。親父が警視監なんだ。将来はトップになってやるぜ」
京子「涼くんならなれるわ!」
クラスメイト「涼くんは夢があっていいな。 僕も見習わないと」
  友人に恵まれ、恋人とは将来を誓い合った。矢坂には明るい未来が待っているかに見えた。

〇豪華なリビングダイニング
矢坂「ただいまー・・・ ん、電気ついてないな。 親父?」
  矢坂は母親がいない。彼を産むと同時に亡くなってしまった。
  それでも矢坂は真っ直ぐな人間に育った。
  父親は矢坂を男手1人で育てた。立派な父親の手伝いをしたい。父親への憧れが矢坂の正義感の強さの由来だった。
  父親は多忙で家では1人でいることも多かったが父親は今でも世のために戦っている。
  父親は矢坂の誇りであり最も尊敬する人物だった。
矢坂「PCついてんな・・・親父どこ行ったんだ?」
  その画面をふと見て矢坂は凍りつく。
  そしてそれが矢坂の人生を変えた。
  画面には麻薬の密輸をするやり取りが書かれていた。
  どうやら父親は麻薬を裏社会に流しているらしい。
  慌てて足音がする。
父親「涼!? これは違うんだ。お父さんは麻薬密輸の裏組織のやり取りを見ていて・・・」
矢坂「・・・メッセージには矢坂、とはっきり書かれてる。 これは紛れもなく親父がやり取りしたものだ」
父親「違うんだ、ほんの出来心だったんだ。 私はだれよりお前を愛し育ててきた」
父親「お前なら分かってくれるね? お前さえ目を瞑ってくれたらこのまま平和を維持できるんだ」
  そう言い父親は微笑む。しかし正義感の強い矢坂に見て見ぬ振りなどできなかった。
矢坂「いや、親父が道を間違えたなら子の俺が責任を取る。 ・・・牢獄の面会室で会おう」
父親「あぁ、涼!」
  そして父親は連行された。
  父親の汚職事件はニュースとなり大々的に報じされた。
  なにせ警視監・・・警察のナンバー2が汚職事件をしたのだ。
  父親を売った。矢坂はショックと罪悪感で寝込むことになる。

〇教室
矢坂「・・・よっ、おはよう!」
  矢坂はしばらく学校を休んでいたがまた通いだした。気分は沈んでいたが努めて明るく振る舞った。
  しかし・・・
クラスメイト「なんだ、来なくてよかったのに」
矢坂「え?」
クラスメイト「犯罪者の子供なんて何をしでかすか分からない。もう声をかけないでくれ」
矢坂「そんな、俺は正しいと思って・・・」
  クラスメイト達は矢坂を一斉に無視して陰口を叩いた。
京子「涼くん、私と別れて。犯罪者の子供と付き合うなってお母さんに言われたの」
矢坂「・・・京子、お前もか・・・」
  こうして矢坂は学校での居場所を失い、不登校になった。

〇豪華なリビングダイニング
矢坂「・・・」
  親が犯罪者のため家でも嫌がらせを受けた。ゴミが家の前に置かれ、暴言を吐く電話が絶えずかかった。
  ポストは嫌がらせの手紙で埋まり、落書きまでされた。
  それでも矢坂は正しいことをしたと信じて疑わなかった。自分がしたことを後悔もしていなかった。
矢坂「(親父のような人間を減らしたい。そのために俺に出来ることは・・・)」
  それから矢坂は将来を模索した。父親により警察官への道は途絶えた。就職も難しいだろう。
矢坂「(三大資格・・・弁護士? でも俺理系だからなぁ・・・)」
矢坂「(医者もだが会計士も犯罪を減らせないかもしれないな)」
矢坂「(そうなると研究職にでも就くか。そういえばプログラミングは成績良かったな・・・)」
矢坂「(そうだな、最適な防犯プログラムを作ろう。親父のような、俺のような人間を減らすんだ)」
  こうして矢坂は研究職を志すようになった。高等学校卒業認定試験をA評価で合格し、国立の大学に入学。
  大学では理解のある友人にも恵まれ、明るさを取り戻した。
  そして研究員となり暦と出会い、現在に至るのである。

〇諜報機関
矢坂「・・・待たせたな。ちょっくら出かけてた。収穫があったぜ」
暦「収穫?」
矢坂「あぁ! 聞いてくれ──」
  矢坂は過去を語らなかった。
  暦が語ろうとしないため、自分も控えていたのだ。
  しかも今は世界の平和のために戦っている。矢坂は過去を胸に秘めた。
  その時ニュースが流れた。
  そのニュースを見て暦達は戦慄することになる。

次のエピソード:エピソード9 錯覚

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