エピソード49(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
人ごみの中、ひとり立ち尽くすカボチャ頭の男はずっとこちらの方を見ている
おそらくあれが今回の事件の犯人だろう。
まだ八木さんから被害者が見つかったという連絡は来ていない。
茶村和成(誰かが犠牲になる前に早くあいつを消さないと・・・)
茶村和成「薬師寺! あそこに見えるカボチャのマスクを被った奴って・・・」
女子高生1「お兄さんめっちゃイケメン! もしかして芸能人!?」
茶村和成「!!」
突然耳に飛び込んできたのは甲高い女の子の声だった。
はっとして声の方へと向くと、そこには思い思いの仮装をしている女子高生の二人組がいた。
学校帰りだろうか。
制服の上から魔女の帽子や小悪魔のカチューシャなど、簡単にイベントを楽しめる仮装をしている。
ふたりは俺たち・・・。
いや、主に薬師寺に話しかけてきた。
女子高生2「高校生ですよね? 同い年かも~」
女子高生1「よかったら一緒に写真撮りませんかっ!」
女子高生は、薬師寺を熱のこもった目で見つめている。
茶村和成(あー・・・。 そういえばこいつ、異常に顔整ってるんだったな)
変人意識の先行と慣れが生じて、薬師寺の顔が整っているのを忘れていた。
薬師寺廉太郎「写真? いいよ~。一緒に撮ろうか」
女子高生2「ありがとうございます! あ、あの! それと・・・」
女子高生2「その狐のお面ってもしかして妖狐☆ファンタジアの金汰のコスプレですか?」
女子高生2「めちゃくちゃ似合ってます!! もうほんとアニメからそのまま出てきたってかんじで!」
この場所だと、こいつの狐面もコスプレだと思われんのか。
そう思い呆れた俺の目に飛び込んできたのはその子が持っているカボチャのマスクだった。
茶村和成(そうだ! カボチャ頭の怪異・・・!)
俺は先ほどのカボチャ頭のことを思い出し、薬師寺の袖を引っ張った。
茶村和成「薬師寺! さっきあっちの方に怪しいヤツが・・・」
そう言って俺は慌ててカボチャ頭がいたところを見たが、それらしき姿は見当たらなかった。
茶村和成「あれ?」
とまどっている俺を気にも留めずに、女子高生たちはさらにぐいぐいと前に出てきた。
女子高生1「えーっ! 薬師寺さんって言うんですか~!? ちょーカッコイイ!」
女子高生1「イケメンにしか許されない名字ってかんじ!」
薬師寺廉太郎「・・・茶村、どうしたの?」
様子がおかしい俺に気づいたのか、薬師寺が声をかけてくる。
俺はひとまずここを乗り切ってから薬師寺に話すことに決め、問題ないというふうに手をひらひらと振った。
茶村和成「あとで話すよ」
すると女子高生のひとりが、俺の手を取りながら話しかけてきた。
女子高生2「写真撮りましょ! もうちょっとこっちに寄って・・・」
女子高生1「えっ待ってすご! 筋肉めっちゃある! なにかスポーツとかやってるんですか!?」
茶村和成「え、あ、うん。空手やってるけど・・・」
女子高生1「やばー! 鍛えてるんですね! カッコいい! 守ってくれそうなかんじ~!」
それを聞いてもうひとりの女子高生も俺の腕を触って来る。
俺はどうすればいいのかわからず、ただされるがままになっていた。
茶村和成(やばい、普段こういうタイプの女子とは話さないから、どうすればいいのか全然わかんねえ・・・)
とまどっておろおろしていると、突然誰かが俺の左手を握って引っ張ってきた。
茶村和成「え」
左手の方を見ると、伸びる手は薬師寺のものだった。
思わず薬師寺の顔を見る。
目が合うとニッコリと笑みを浮かべられた。
薬師寺はそのまま視線を女子高生に向けるといつもの調子で微笑む。
薬師寺廉太郎「ごめんねぇ。 ちょっと用事を思い出して、急いで行かなきゃいけないんだ~」
女子高生たちは突然のことにびっくりして固まっている。
そのあいだに薬師寺は俺の手を掴んだまま、引っ張ってその場から脱した。
茶村和成「お、おいっ、薬師寺? 手・・・」
困惑したまま声をかけると、薬師寺は立ち止まって振り返った。
そして俺の顔を覗き込み、至近距離で甘いマスクで笑いかけてきた。
薬師寺廉太郎「だって、はぐれちゃ危ないでしょ?」
茶村和成「・・・あのなあ」
呆れて言葉も出ない俺を尻目に、薬師寺はまた人ごみをかき分けて歩き出した。
俺は薬師寺の手を振り払うと、薬師寺が抗議の声をあげた。
薬師寺廉太郎「あてっ。茶村ぁ?」
茶村和成「別にはぐれないって」
薬師寺廉太郎「照れなくてもいいのに。・・・はーい」
俺がキッと睨みつけると、薬師寺は肩をすくめて返事をした。
茶村和成「はぁ・・・」
薬師寺の行動には呆れるばかりだが、助かったのも事実だ。
俺はひとつ大きくため息をつくと、さっきのことは忘れることにした。
そしてさっき見かけたカボチャ頭のことを薬師寺に報告する。
俺がそいつを見た方を指さすと、薬師寺はそちらに視線を送りながらヒュウと口笛を吹いた。
薬師寺廉太郎「やっぱりね。さすがは茶村!」
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