読切(脚本)
〇コンビニ
XXXX年X月W日
〇コンビニのレジ
吉沢亮太「お客さん来ませんね」
店長「まあ、前日ですからね」
吉沢亮太「廃棄チェックしてきます」
店長「うん、お願いします」
〇コンビニの雑誌コーナー
男の子「レンジャーチョコあるかな?」
母親「あるといいねー」
〇コンビニの店内
男の子「あ、あった! ねえ、これ全部買ってもいいの?」
母親「いいよー。今日は特別に」
男の子「やったー!!」
〇コンビニのレジ
店長「いらっしゃいませ」
母親「これお願いします」
店長「今日はお代、結構ですよ」
母親「・・・・・・いえ、払います」
店長「あっ・・・・・・失礼しました。2580円です」
〇コンビニの雑誌コーナー
男の子「レアシール出るといいなー」
〇コンビニのレジ
吉沢亮太「今のお客さん、何でお代払うって言ったんでしょうね」
店長「きっと明日のことを子供には話してないんでしょうね。だから子供が怪しまないようにいつも通りにしたかったんでしょう」
吉沢亮太「なるほど・・・・・・。あのご家族は日常のまま迎えるんですね」
〇落下する隕石
〇コンビニのレジ
吉沢亮太「暇ですね。電車も今日までは運行してるんで、もう少しお客さん来ると思ったんですけどね」
店長「鉄道マンもプロですよね。前日まで世の人のために働くんですから」
吉沢亮太「それ言ったら、店長だってそうじゃないですか」
店長「いえいえ、私はそんな立派なものじゃありませんよ。そう言う吉沢君は、何で今日シフト入ったんですか?」
吉沢亮太「他に行くところがなかったから、ですかね」
店長「ご実家は?」
吉沢亮太「両親には兄の家族がついてますから」
店長「そうですか」
吉沢亮太「店長こそ、奥さんやお子さんと一緒に過ごした方がいいんじゃないですか?」
店長「ふたりは先週、奥さんの実家に帰りました。お恥ずかしい話ですが、もともと夫婦仲が冷めていたもので」
吉沢亮太「すみません、余計なこと言って」
店長「いえ、気にしないでください」
〇商店街
〇コンビニのレジ
店長「吉沢君は、何かやり残したこととかないですか?」
吉沢亮太「やり残したこと、ですか・・・・・・」
店長「いま世の中は、最後にやりたかったことをしてる人が多くいますよね。犯罪に走ってる不届き者もいますけど」
吉沢亮太「でも、それも少数派ですよね。僕はもっと荒れた世界になると思ってました」
店長「100%抗えない状況が貧富問わず平等に訪れると、人は意外にすんなりと受け入れるものなのかもしれませんね」
吉沢亮太「なるほど、不条理がないからってことなんでしょうか」
店長「それで、質問の答えはいかがですか?」
吉沢亮太「やり残したことでしたね。あまり思い浮かびませんが」
吉沢亮太「強いて言えば、大学で同じ学科にいる女性ともっと話がしたかったですね」
店長「ほう」
吉沢亮太「いまくだらないと思ったでしょ?」
吉沢亮太「そう、そんなことしかない、小さい人間なんですよ、僕は」
店長「何言ってるんですか、そんなことありませんよ。人が人を好きになる。むしろ人間にとって一番大切な部分じゃないですか」
吉沢亮太「フォローすみません」
店長「こちらこそ、ちょっと大げさに言い過ぎました」
店長「で、会いに行かなくていいんですか?」
吉沢亮太「もう前日ですからね。大切な人と過ごしてるでしょうし、きっと迷惑ですよ」
〇コンビニの雑誌コーナー
〇コンビニのレジ
吉沢亮太「ええっ!?」
店長「どうしました?」
吉沢亮太「あのお客さん、いま話してた女性なんです」
店長「ホントですか!?」
唐沢みやび「ほんとにバイトしてたんだ」
吉沢亮太「どうしてここに?」
唐沢みやび「町田君に聞いたら、今日もここでバイトしてるらしいって言ってたから」
吉沢亮太「いや、そうじゃなくて、明日を前に、なぜってこと」
唐沢みやび「ああ、そういうこと。ほら、私ってこれまで恵まれてた人生だったじゃない?」
吉沢亮太「いや、知らないけど・・・・・・」
唐沢みやび「で、最後にやりたいこと何かなぁと考えても特に思い浮かばなくて」
唐沢みやび「まあ、それだったら、私に気がありそうな吉沢君にボランティアするのもいいかなって」
吉沢亮太「え?」
店長「ププッ・・・・・・。確かに話がしたくなるような女性ですね」
唐沢みやび「どういうこと?」
吉沢亮太「いやー、何でもない!」
唐沢みやび「バイト何時まで?」
吉沢亮太「今日は特に何時までとは・・・・・・」
店長「15時23分までです」
店長「おお、ちょうど時間になりました。吉沢君、上がっていいですよー」
唐沢みやび「だってー。面白い店長さんね」
店長「吉沢君、素敵な夜になるように頑張ってください」
吉沢亮太「店長は、これからどうしますか?」
店長「最後まで店にいるつもりです。雇われ店長ですけど、ここが我が家みたいなものですから」
店長「ほら、早く行って」
〇コンビニ
唐沢みやび「なんか店長さんをひとりにさせちゃったみたいで悪かったかな?」
吉沢亮太「いや、そろそろ僕が邪魔になりそうな感じだったから、ちょうど良かったよ」
唐沢みやび「なら、いいけど」
さよなら、店長
唐沢みやび「さあ、素敵な夜にしてもらおうじゃないの」
吉沢亮太「どうしたのそのキャラ? 普段と全然違うから驚いたよ」
唐沢みやび「だって・・・・・・。別人にならないと自分から迎えに行くなんてとてもできないから」
吉沢亮太「そっか」
なにそれ、めっちゃかわいいんですけど!
あー、もっと早く出逢いたかった。
神様のバカヤロー!!
吉沢亮太「えっと、会いに来てくれてありがとう。 時間はないけど告白から始めさせてもらえるかな?」
唐沢みやび「うん」
吉沢亮太「それじゃあ、僕たちのしゅうまつを始めようか」
完
またまた引き込まれていきました。日常があるから危機が際立つ、逆目を張る、あ、等身大のドラマが刺さる。
もし明日地球がらなくなるとわかっていたら…大切な人との時間を過ごす、アルバムを見たりして過去を振り返るかなぁ。
見る未来がないのだとすると、過去の振り返りになってしまいそうですが、やり残したことをやれる人はごく少数な気もします。
こんな日が本当にやってくることになったら、現実はどうなってしまうんなろう。たしかに、全人類平等に起こることなら、受け入れるしかないのかな。なんだかとても考えさせられました。