読斬 『院菩居巣(インボイス)を斬る』(脚本)
〇寂れた村
村の子供「いてぇよ一閃」
一閃(イッセン)「す、すまん」
村の子供「もういいよ馬鹿力」
一閃(イッセン)「・・・」
〇広い和室
五郎(ゴロー)「起きろ一閃!」
一閃(イッセン)「・・・」
五郎(ゴロー)「おいっ構え!」
一閃(イッセン)「はたくんじゃねぇよ」
五郎(ゴロー)「起きたか」
一閃(イッセン)「稽古はどうした?」
五郎(ゴロー)「つまらんから休憩じゃ」
一閃(イッセン)「俺には近づくなと言われたろ?」
五郎(ゴロー)「乱暴者じゃからな」
五郎(ゴロー)「余にその態度をとれるのもお前くらいじゃ」
一閃(イッセン)「教育係の所に戻るのが良いと思うぜ」
五郎(ゴロー)「いやじゃ」
五郎(ゴロー)「慕われておらん事は知っておる」
一閃(イッセン)「・・・」
五郎(ゴロー)「なぁ一閃・・・」
五郎(ゴロー)「余と城を出ぬか?」
一閃(イッセン)「な、何ぃ?」
五郎(ゴロー)「物心つく前に父は死に、父の腹心がこの城を支配しておる」
五郎(ゴロー)「余は邪魔なのだ」
一閃(イッセン)「そんなことは・・・」
五郎(ゴロー)「気を回すな らしくない」
五郎(ゴロー)「だから余を連れ出してくれ」
一閃(イッセン)「なぜ俺を?」
五郎(ゴロー)「お前は無礼だが、ずっと余を守ってくれている」
五郎(ゴロー)「余にとっては・・・」
五郎(ゴロー)「父親みたいなものなのだ」
五郎(ゴロー)「だからどうじゃ?」
一閃(イッセン)(確かにここにいても・・・)
一閃(イッセン)「わかっ──」
教育係の声「五郎様ーー!」
五郎(ゴロー)「・・・」
五郎(ゴロー)「そろそろ行かねばな」
一閃(イッセン)「準備は進めといてやるよ」
五郎(ゴロー)「本当か!?」
一閃(イッセン)「ああ」
五郎(ゴロー)「なら次会った時は『ちゃん』とでも呼ぼうかの」
一閃(イッセン)「父親って柄じゃねぇんだけどな」
これが五郎との最後の会話になった
〇畳敷きの大広間
一閃(イッセン)「こんな時間になんだ」
教育係「物資の買い出しを頼みたい」
一閃(イッセン)「そんなもん俺に──」
一閃(イッセン)(吾郎を連れ出すのに必要な物も買えるか)
一閃(イッセン)「いや、たまには雑用もやるよ」
教育係「すまぬな」
〇屋敷の門
一閃(イッセン)(よし、これで準備万端だ)
一閃(イッセン)「ん?」
一閃(イッセン)「おいっ!何があった?」
護衛の忍「すみまぜん ゲホッ」
護衛の忍「何も守れまぜんでじた」
護衛の忍「申し訳ござい──」
一閃(イッセン)「もう喋るな」
一閃(イッセン)「・・・」
一閃(イッセン)「トドメ刺していくか?」
護衛の忍「かたじけない」
一閃(イッセン)「後は任せろよ」
護衛の忍「一閃殿の剣で終えるとは光栄です」
一閃(イッセン)(くそっ吾郎は無事だろうな)
〇城
一閃の叫び声「五郎ーーーー!!」
一閃の叫び声「返事しろーーーー!!」
〇屋敷の大広間
一閃(イッセン)「はぁ・・・はぁ・・・くそ」
教育係「一閃」
教育係「五郎様はもう」
一閃(イッセン)「テメェが謀ったんだろ」
一閃(イッセン)「俺を城から遠ざけた隙に襲ったな?」
教育係「何を根拠に」
一閃(イッセン)「見回ったがお前と部下だけ無事じゃねぇか」
教育係「・・・」
教育係「なぁ一閃よ」
教育係「落ち目のこの城に仕えてどうなる?」
教育係「お前程の腕なら私が口を利こう」
一閃(イッセン)「・・・」
一閃(イッセン)「興味ねぇよジジイ」
教育係「この間抜けが・・・ 生きて出られると思うな」
教育係「精鋭百人に押し潰されて終わりよ・・・」
一閃(イッセン)「一人残らず斬ってやる!」
一閃(イッセン)「役目の無いお前らに・・・」
一閃(イッセン)「命など必要ないっ!」
一閃(イッセン)(この俺もな)
〇スカイフィッシュの群れ
マル「あ〜暇や」
マル「二度寝するか人間と遊ぶか」
マル「でもアイツらおもんないしなぁ」
〇開けた交差点
マル「寝てる間にだいぶ様変わりしてんな」
マル「君ちょっとええ?」
見知らぬ少年「なんですか?」
マル(なんか変な感じすんなこいつ)
マル(まぁええわ 人がどんだけ進化したか見てみよか)
マル「この世界についてどう思う?」
見知らぬ少年「この世界・・・」
マル(ガキ相手にテーマ重すぎたな)
見知らぬ少年「僕は──」
見知らぬ少年「ペラペラ」
見知らぬ少年「ペラペラ」
マル「自分めっちゃいける口やん!」
マル(侮ってたで人間 もっと色んな奴と絡みたなってきた)
マル「ありがとな また今度話そや」
見知らぬ少年(変な人だなぁ)
〇荒地
マル「こっちの次元からオモロそうな気配すんなぁ」
一閃(イッセン)「・・・」
マル「こんちは」
一閃(イッセン)「・・・」
マル「何してんの? こんな何もないとこで」
一閃(イッセン)「何も、俺に役目はない」
マル「役目ねぇ」
マル(ちょっと覗かしてもらうで)
〇屋敷の門
一閃(イッセン)「はぁ・・・はぁ・・・」
一閃(イッセン)「本当に百人斬っちまったじゃねぇか」
〇荒地
一閃(イッセン)「五郎・・・」
一閃(イッセン)「・・・」
一閃(イッセン)「・・・・・・」
一閃(イッセン)「あふぅん・・・うぅ」
一閃(イッセン)「ぐぅぅ・・・うぐ・・・」
〇荒地
使者A「百人斬りの一閃殿とお見受け致す」
使者A「我が殿が召し抱えたいと」
一閃(イッセン)「・・・」
使者A「良き返事が無ければ、我が千の軍が動きますぞ」
一閃(イッセン)「千で足りればいいな」
使者A「なにっ!?」
〇荒地
使者B「千人斬りの一閃殿とお見受け致す」
使者B「我が主が召し抱えたいと」
一閃(イッセン)「・・・」
使者B「良き返事を頂かねば、我が万の軍が動きますぞ」
一閃(イッセン)「万で足りればいいが」
使者B「なんとっ!!」
〇荒地
マル(こいつえっぐぅ)
マル「ええやんけ」
マル「俺が役目与えたるわ」
一閃(イッセン)「お前なんぞが役目だと?」
マル「お前なんぞて不敬が過ぎるで」
一閃(イッセン)「・・・」
マル「ビックリした」
一閃(イッセン)「なっ」
マル「俺は君達が言うとこの神様みたいなもんや」
マル「斬るとか無理やから」
マル(にしてもこいつ極めすぎて、次元ごと斬っとんがな)
マル(しかも素手でやっとるし、おもろいやっちゃ)
マル「そやっ」
マル「おもろい人間集めて俺の星作ろ!」
マル「ほんでランダム要素として、お前に捕獲してきてもらう」
マル「これが役目や!やったな自分!」
一閃(イッセン)「・・・!?」
マル「俺の基準に満たへん様な奴は、斬れへんようにしとくわ」
マル「自分すぐ斬りすぎやし」
マル「ほんで、君の次元剣の送り先も設定しといたから」
マル「後はしくよろ!」
〇西洋の街並み
マルの声「適当に別次元に飛ばしたから、そっちのおもろいヤツ斬ってきて〜」
マルの声「良い子ちゃんやなくて、ごっついフテこい奴にしてや〜」
一閃(イッセン)「何なんだ一体」
「ちゃーーーーーーん!」
五郎(ゴロー)「父ちゃん!」
一閃(イッセン)「ご・・・五郎?」
ダイ「ち、ちがうよ」
ダイ「ダイだよダイ」
ダイ「うまく合わせて」
ダイの先輩「仕事から逃げるなダイ」
ダイ「違うんだ!生き別れの父ちゃんが!」
一閃(イッセン)(こいつ・・・妖か?)
ダイの先輩「あんたダイの父ちゃんなのか?」
一閃(イッセン)「あ、あぁ」
ダイの先輩(本当か? でも人族はほぼ絶滅したし)
一閃(イッセン)(よし、斬ろう)
一閃(イッセン)(ぐぐ・・・なんだ腕が動かん)
一閃(イッセン)(アイツの仕業か)
(なんかプルプルしてる)
ダイの先輩(はっ)
ダイの先輩(感動の再会に感極まって・・・)
ダイの先輩「良かったなぁダイ」
ダイの先輩「今日は俺に任せて父ちゃんと過ごしなぁ」
〇西洋の大浴場
ダイ「さっきはありがとう」
一閃(イッセン)「それはよいがなぜ風呂に?」
ダイ「裸のつき合いってのやってみたかったんだ」
一閃(イッセン)「父親はおらんのか?」
ダイ「父親どころか家族もいないよ」
ダイ「家族ってどんな感じ?」
一閃(イッセン)「俺も孤児でな」
ダイ「子供もいないの?」
一閃(イッセン)「いない・・・な」
ダイ「ふーん・・・」
ダイ「家族って良いものなのかなぁ?」
「・・・」
一閃(イッセン)「俺も夢見たことはある」
一閃(イッセン)「かつて養子をとる予定があってな」
一閃(イッセン)「一緒に旅をする筈だった」
ダイ「なんでしなかったの?」
一閃(イッセン)「その子は遠くに行ってしまってな」
ダイ「そっか・・・」
ダイ「ねぇおじさんどこから来たの?」
一閃(イッセン)「俺にもわからん 気付けばこの世界にいた」
ダイ「じゃあ次はどこいくの?」
一閃(イッセン)「それもわからんのだ」
ダイ「ふーん・・・」
「・・・」
ダイ「あのさ・・・」
ダイ「僕を連れ出してくれない?」
ダイ「少しは道案内できるし」
ダイ「荷物も持つよ」
一閃(イッセン)「仕事は?」
ダイ「こんな町さっさと出たいんだ」
ダイ「そうだっ」
ダイ「その子の代わりに僕が息子になって、旅に付き合うよ!」
ダイ「どう?良いでしょ?」
一閃(イッセン)(言うことも同じか・・・)
一閃(イッセン)「わかった」
ダイ「ホントに?」
一閃(イッセン)「あぁ」
ダイ「やったぁ!」
ダイ(でもこのまま逃げたら先輩が・・・)
ダイ「じゃあ明日、ここで待ってるね」
一閃(イッセン)「わかった」
ダイ「今度会う時からは『ちゃん』て呼ぶから!」
一閃(イッセン)「慣れるのに時間が掛かりそうだ」
〇上官の部屋
院菩居巣(インボイス)「ダイはどこだ?」
ダイの先輩「それが父親と再会したようで」
ダイの先輩「仕事は私が代わりに」
院菩居巣(インボイス)「父親だぁ?」
院菩居巣(インボイス)「ギャハッギャハッ」
院菩居巣(インボイス)「アイツの父親なんざとっくに死んじまったよ」
ダイの先輩「そんな・・・」
院菩居巣(インボイス)「戻ったら俺のところに連れてこい」
ダイの先輩「ハイィッ」
院菩居巣(インボイス)(父親気取ってんのはどいつだ?)
院菩居巣(インボイス)(もう今晩にでも売っちまうか)
〇サウナの脱衣所
スラりん「聞いてたよさっきの」
一閃(イッセン)(妖っ!?)
一閃(イッセン)(斬・・・れない)
スラりん「聞いてくれ」
スラりん「ダイの家族には世話になってたんだ」
スラりん「ダイが望むならアンタと行かせてやりたい」
一閃(イッセン)「そうか」
スラりん「だが院菩居巣の旦那が問題だ」
一閃(イッセン)「誰だ?」
スラりん「ここらの統治者だ 暴力で支配する悪党よ」
スラりん「助け合いの物々交換で成立していた我々に、貨幣と税金というシステムを押し付け──」
一閃(イッセン)「ダイとは何の繋がりが?」
スラりん「あ、あぁ人族は希少だからな 保護してる名目でコレクションしてやがるのさ」
スラりん「俺達はいつかダイが売りに出されやしないかとヒヤヒヤしてる」
スラりん「実はアイツの親も院菩居巣の旦那に・・・」
スラりん「アンタ強そうにゃ見えないが守れるかい?」
一閃(イッセン)「・・・」
一閃(イッセン)「ソイツなら斬れそうだ」
一閃(イッセン)「居場所は?」
〇上官の部屋
院菩居巣(インボイス)「さぁついてこい」
ダイ「イヤだ」
院菩居巣(インボイス)「お前の意見は聞いとらん」
ダイ(くそ 明日になれば自由になれたのに)
〇洋館の廊下
一閃(イッセン)(今度は返事してくれよ)
一閃(イッセン)「ダーーーーーーーイ!!」
〇上官の部屋
ダイ「ここだよ・・・」
ダイ「ちゃーーーーーーーん!!」
院菩居巣(インボイス)「静かにしろ」
〇上官の部屋
一閃(イッセン)「すまんなダイ 明日の約束を破ってしまった」
ダイ「・・・うん」
院菩居巣(インボイス)「テメェが父親気取りかぁ?」
一閃(イッセン)「お前の役目は此処には無い」
院菩居巣(インボイス)「死ねぇぇ!!」
〇美しい草原
院菩居巣(インボイス)「ギャーー!! 斬られ・・・」
マル「お〜来た来た」
院菩居巣(インボイス)「え?」
マル「歓迎するでぇ」
マル「とりあえず家でも建ててくれる?」
院菩居巣(インボイス)「俺に言ってるのか?」
マル「そらそやろ」
院菩居巣(インボイス)「死ねぇぇ」
マル「反抗的でええね」
院菩居巣(インボイス)「え?また?」
マル「よっと」
院菩居巣(インボイス)「ぐぇ」
マル「言うこと聞けボケ」
院菩居巣(インボイス)「ぐぐ・・・」
〇西洋の街並み
「じゃあなダイ」
ダイ「うん 元気でね」
一閃(イッセン)「行こうか」
???「ちょいまち」
マル「1人目はまぁまぁて感じやなぁ」
一閃(イッセン)「貴様」
ダイ「誰?」
マル「ん?」
マル「自分子供おったん?」
一閃(イッセン)「あぁ・・・いや」
ダイ「そうだよ ダイです」
マル「ダイ君かぁよろしくね」
マル「ほな次のとこは家族一緒にレッツゴー」
ダイ「えっ」
マル「ん?」
マル「次元ちゃうし家族て有り得へんか」
マル「まぁでもそう見えたしええか」
〇未来の都会
ダイ「うわぁ〜 何ここ」
一閃(イッセン)「転ぶなよ」
ダイ「早く早く!遅いよぉ」
ダイ「『ちゃん』」
役目を果たせなかった一閃
家族を夢見て、長く耐えていたダイ
気まぐれな神による奇妙な出会い
失われた時間を取り戻すように
あらゆる次元を渡り歩く
とある親子の物語
舞台がどんどん移り変わっていくのに、一閃が次元を斬れるまでに強くなった悲しみが物語を一貫してるのがいいですね。クライマックスの一太刀にはカタルシスがありました。雑魚モンスターに人情があるギャップも面白かったです😊
みんな第一斬、とかにしてるのに読斬ってサブタイにしてるの面白いですね。潔すぎる。
途中からしとしとぴっちゃんの曲が頭の中で流れてきました。ダイは例の作品よりは年上に見えましたが、きっとトロッコとかに乗って登場するのでしょうね。
神の縛りで刀が全然抜けなくなってるのに次々に化け物が出てくるので、おいおいやられるぞ、と始終ドキドキしてました。
かっこいい!😆好みのお話でした💕
圧倒的に強くてクールな老人。
飄々としながら絶対的力を持つ神。
オタクの心をくすぐる要素を盛り込みつつ、「巨悪だけが斬れる」「剣がなくても斬れる」で時代差問題もクリア。
そこに可愛い少年をトッピングして抜かりなしですね☺️
インボイス……斬られて欲しい!