エピソード47(脚本)
〇けもの道
数日後、一行はカラカール山脈を超え、麓まで下りてきた。
突然、エルルが荷台から乗り出して、嬉しそうに行商隊が向かう先を指さした。
エルル「あ、見えてきましたよ~!」
エルルの声を聞いたニルたちは、エルルが指さす方を見る。
〇西洋の街並み
青空の下、森を拓いた土地に赤い屋根の建物が建ち並んでいる。
緑が豊かに残され、住宅街らしき並びの近くには、大きな畑が広がっている。
カラカール山脈を越えた先にある、麓町「ティアルモーニ」だ。
ティアルモーニに着いた一行は、リンド商会の用事が終わるまで3日ほどこの街にとどまることになった。
ニルたちもリンド商会の護衛として、引き続き荷台に乗せてもらうため3日後に再び落ち合うことになった。
商人向けの宿から離れ、ニルたちはティアルモーニのギルドに顔を出して宿を教えてもらう。
教えてもらった宿に部屋をとってから、ニルたちは街を見て回ることにした。
〇怪しげな酒場
給仕「おまたせしました~」
笑顔の店員がニルたちの前においしそうな料理がたくさん乗った皿を置く。
にぎやかな酒場で久しぶりに温かい食事を摂れると楽しみにはしていたものの、その量の多さにニルは驚いた。
料理に続いて出されたのは、これまた大量の酒だ。
鼻を刺激する酒のにおいにアイリは顔をしかめた。
ニル「すごい量だね」
アイリ「・・・頼んだのは誰だったかしら?」
ニルの視線は、エルルとエミリアへ向く。アイリは小さくため息を吐いた。
エミリア「ん?」
エルル「美味しそうですね! みなさんいただきましょう!」
エルルとエミリアは嬉々としてテーブルの上の料理たちを見ている。
ニルとアイリはお互い苦笑を見せてから、ふたりにならってフォークを手にした。
エルル「いっただきまーす!」
〇怪しげな酒場
温かい料理に舌鼓を打ちながら、4人は楽しく談笑していた。
すでにニルとアイリもこれ以上食べられないほど食べていたが、料理はまだまだ残っている。
「・・・・・・」
エミリア「なんだ、ふたりとももう食べないのか? ならこの皿は私がもらおう」
エルル「あ、エミリアさん、私にもください!」
4人の中でエミリアだけはお酒も口にしていたが、4杯目だというのに、少し赤くなった以外はけろっとしている。
そのとき、酔っ払いが何人かビールジョッキを片手にふらふらとテーブルに近づいてきた。
チンピラ1「よお姉ちゃん~」
チンピラ2「女の子たちだけで食事なんてさびしくねぇか~? 俺たちと一緒に飲もうぜ?」
4人はチンピラたちをムッとした表情でにらんだ。
チンピラたちは慣れているのか、それを見てもけらけらと笑うだけでさらに近づいてくる。
その中のひとりがニルを見て、白けたような表情をする。
チンピラ1「ん? なんだよ、こいつガキじゃねぇか。 あんまり細っちいから女かと思ったぜ」
「ギャハハハハハハ!」
下品に笑うチンピラを見て、エルルはため息をついて隣に座るアイリに耳打ちした。
エルル「なんなんですかこの人たち。ぶっとばしていいですか?」
アイリ「あんまり問題は起こさないほうがいいわ。 この程度無視しましょう」
しかしチンピラたちは無視されても立ち去らず、ニタニタと笑いながらアイリの肩をつかむ。
チンピラ2「なんだよ~、せっかく誘ってやってんのにこっち見ろって~。 いいじゃん、楽しく飲むだけだぜ?」
アイリはしつこいチンピラの手をさっと払った。
エミリア「はぁ、ここは立派な酒場だと思っていたのは私だけか?」
エミリア「ここはこのようなはた迷惑な客に、注意もできない店なのか?」
エミリアは非難のこもった眼差しを、遠巻きに見ているだけの給仕に向ける。
しかし給仕だけでなく酒場にいる人たちはみな、目をそらして遠巻きに怯えている。
ニル「・・・?」
ニル(なんで怯えてるんだろう・・・?)
チンピラたちは戸惑っているニルたちを見て、ニタリと笑う。
チンピラ1「おっと、この街のルールを知らねぇようだな」
チンピラ1「誰か助けてくれるなんて思わないほうがいいぜ? 俺たちはヴェルムントの一員だからな」
ニル(ヴェルムント・・・?)
ピンときていないニルを見て、チンピラたちは大げさにため息を吐いた。
チンピラ1「お前、まーさか「ヴェルムント」を知らねぇのか? どこの田舎から来たんだお前ら」
チンピラ1「まさか『暗機』を知らねぇってことはないよな?」
ニル「『暗機』・・・?」
チンピラ2「ハハ! 本当に知らないのかよ!」
エミリア「『暗機』とは、ギルドに所属せずに、つまりコレクターにならずにギアーズを狩る集団のことだ」
チンピラ1「そっちの姉ちゃんはちったぁ知ってるようだなぁ」
チンピラ1「んじゃ、俺たちが所属してる「ヴェルムント」についても聞いたことくらいあんだろ?」
エミリア「知らんな。そのような弱小暗機など」
チンピラ1「なっ・・・!」
アイリ「ちょっと! エミリア!」
アイリが肘でエミリアを小突いた。
アイリ「こんなのとやりあう必要ないわよ。 無視してたらそのうち飽きてどっか行くから」
エミリア「あぁ、たしかにそうだな」
チンピラ1「て、てめぇら・・・!!」
そのとき、チンピラのひとりがエミリアを見て目を見開く。
チンピラ2「まっまさか!?」
チンピラ1「なんだよ急に大声だしやがって。どうした?」
声を上げたチンピラはエミリアを指さして、大きな声でその名を叫ぶ。
チンピラ2「あ、赤髪碧眼の女騎士・・・。 お前・・・、まさか、ブッシュバウム家の・・・!」
エミリアはジョッキの取っ手を握り、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
ニルたちのテーブルを遠巻きに見ていた人々に、ざわめきが走る。
エミリア「ふん・・・、この場にブッシュバウム家の者はいない」
アイリ「アンタ・・・」
チンピラ2「そ、そうだよな。 いや、まあこんなところにメタリカの騎士団長がいるわけねえか!」
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