とてたまリボーン

kakiken

100年ぶりの外出(脚本)

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〇古い洋館
  かつて栄華を誇った天埜川家は滅亡の危機を迎えていた。

〇おしゃれな廊下
多賀翔馬「いい加減、外に出てきてくれませんか?」
多賀翔馬「お婆さんの葬儀、終わりました。位牌、受け取ってもらえませんか?」
多賀翔馬「天埜川テラスさん、生きていますか?」
多賀翔馬「もう知りませんよ」

〇貴族の部屋
多賀翔馬「引きこもりの孫娘の世話までしてられるか!」
多賀翔馬「位牌は婆さんの部屋に置いておこう」
多賀翔馬「随分デカいテレビだな。あの婆さん、テレビは見ないと言っていたのに」
多賀翔馬「テレビの裏の壁に何かあるぞ」
  多賀はテレビを動かした。
多賀翔馬「隠し扉!」
多賀翔馬「隠し財産か?」
  多賀は扉を開けようとドアノブを引いた。
多賀翔馬「や、やべえ」

〇古い洋館
多賀翔馬「警報装置までつけるなんて絶対何かあるぞ」

〇貴族の部屋
天埜川テラス「あのバカ弁護士」
天埜川テラス「このドアはスライド式よ」
天埜川テラス「開ければ警報が解除される。お婆ちゃんのアイデアよ」
  テラスは床に落ちていた位牌を拾った。
天埜川テラス「とうとう、独りぼっちになっちゃった」
  ふとテラスの脳裏に祖母・律子の言葉が蘇った。
「この地下には私のお婆ちゃん、天埜川珠子の大切なものが保管されているの。将来テラスにその管理をしてほしいの」
天埜川テラス「大切なものってなんだろう」
  テラスは扉の奥、地下に続く階段を下りて行った。

〇地下実験室
天埜川テラス「な、何これ」

〇古い洋館
多賀翔馬「あの扉、やっぱり気になる」
天埜川テラスの声「嫌よ、私は外に出たくないの!」
多賀翔馬「な、何だ?」

〇洋館の玄関ホール
天埜川テラス「私を巻き込まないで!」
天埜川珠子「久しぶりの外出なのよ。一緒に来て案内しなさい」
多賀翔馬「あ、あの」
天埜川珠子「何ですの?」
多賀翔馬「天埜川テラスさんですか?」
天埜川珠子「テラスはこの子」
多賀翔馬「何だ、ガキの方かよ」
天埜川テラス「お前、お婆ちゃんの部屋を物色していた泥棒」
天埜川珠子「泥棒ですって!」
多賀翔馬「ち、違います。私は多賀翔馬、弁護士です」
多賀翔馬「天埜川テラスさんの後見役を律子さんから頼まれています」
天埜川珠子「多賀? もしかしてうちの執事の多賀栄次郎の子供?」
多賀翔馬「栄次郎は僕のひいひい爺ちゃんです。こんな家の執事だなんて今となっては多賀家の黒歴史ですけどね」
天埜川珠子「こんな家とは何ですの! 多賀家を引き上げたのは天埜川家よ」
多賀翔馬「あ、あなた誰ですか?」
天埜川珠子「私は天埜川珠子よ」
多賀翔馬「天埜川珠子? 大正時代に謎の失踪で世間を騒がせた伝説の美女と同じ名前だ」
天埜川珠子「多賀。あなたわかっているじゃないの」
多賀翔馬「その天埜川珠子さん?」
天埜川珠子「そうよ」
多賀翔馬「御冗談を。100年前の人ですよ、ハハハ」
天埜川珠子「そうだ多賀。これから服を買いに行くからあなたも来なさい」
多賀翔馬「御一緒してもいいんですか!」
天埜川テラス「今は出かけなくても家で買えるから」
  テラスはスマホのショッピングサイトを珠子に見せた。
天埜川珠子「ふ~ん。これは通信販売ね」
天埜川テラス「大正時代に通販なんかあったの?」
天埜川珠子「あったわよ。あなた無知ね」
天埜川珠子「ああ、この服とてたま~」
天埜川テラス「とてたま?」
天埜川珠子「『とてもたまらない』の略語よ」
天埜川テラス「『あけおめ』『ことよろ』と同じか」
天埜川珠子「女学生の流行り言葉よ。『とても素敵な珠子さん』の略でもいいわよ」
天埜川テラス(とことん自分が好きな人だな)
多賀翔馬「あの~大正時代ごっこでもしてるんですか?」
天埜川珠子「やっぱり実物見て決めたいわ」
天埜川テラス「よく考えたら服を買うお金が無い」
多賀翔馬「ハハハ。落ちぶれたもんだな、天埜川家も」
天埜川珠子「多賀、おだまり!」
多賀翔馬「は、はい!」
天埜川珠子「お金の問題より、その奇妙な服を着ていることの方が問題よ」
天埜川テラス「これは寝間着でありながら部屋着でもある機能性に優れた服なのよ」
多賀翔馬「ぐうたらなだけだろ、この腐女子が!」
天埜川テラス「その目。私は天埜川家をバカにする世間の目が嫌だから外には出たくないの!」
天埜川珠子「私と一緒なら心配無用よ」
天埜川珠子「みんな私の美しさに見惚れてあなたの存在なんて気づかないから」
天埜川テラス「はあ?」
  珠子はジッとテラスを見つめた。
天埜川テラス「はい、一緒に行きます!」

〇銀座
天埜川珠子「これが100年後の銀座ね、とてたまだわ」
天埜川珠子「フフフ。すれ違う人はみんな私を見ているわ」
天埜川テラス(全身白のスーツが目立っているだけかも)
天埜川テラス(てか、私この人の言いなりになってる?)
多賀翔馬(どうしてこのガキの服を俺が買わなければいけないんだ?)
天埜川珠子「次は私の服ね。そこの店がよさそうね」

〇試着室
天埜川珠子「とてたま~な服がいっぱいだわ。この店気に入ったわ」
天埜川珠子「特にこの服がいいわ。これ頂こうかしら」
店員「申し訳ございません。その商品はすでに先約がございまして」
天埜川珠子「先約?」
桜小路彩乃「それは私の服よ」
天埜川珠子「悪いけど私に譲って下さらない?」
  珠子は女をジッと見つめた。
桜小路彩乃「何ジロジロ見ているのよ」
天埜川珠子「その変な眼鏡外しなさいよ」
桜小路彩乃「あなた私が誰だかわかって言ってるの?」
多賀翔馬「この方は女優の桜小路彩乃さんですよ」
天埜川珠子「桜小路彩乃?」
天埜川珠子「思い出した! 女学校時代、何をやっても私に勝てず海外に逃亡した桜小路彩乃!」
桜小路彩乃「あ、天埜川珠子!」
天埜川珠子「やっぱり!」
桜小路彩乃「ひ、人違いよ。もう、その服はいらないわ!」
天埜川珠子「まさか彼女もこの時代に?」
多賀翔馬「良かったですね、服譲ってもらって」
天埜川珠子「多賀、支払い宜しく」
店員「98万8千円です」
多賀翔馬「そんな大金、払えませんよ」
天埜川珠子「多賀、私を見なさい」
多賀翔馬「え?」
多賀翔馬「店員さん、支払いはカードで!」

〇銀座
天埜川珠子「お腹空いたわね。この町に確か美味しい洋食店があったはずだわ」
天埜川テラス「100年前の店なんて残ってないよ。それにお金無いし」
天埜川珠子「お金なら今買ったこの服を売ればいいわよ」
天埜川テラス「え?」
天埜川珠子「桜小路が気に入った服なんて着れないわ」
天埜川テラス(無茶苦茶だな、この人)

〇ホテルのレストラン
天埜川テラス「まさか存続していたなんて」
天埜川珠子「本物は生き残るのよ。うん、今も変わらず美味しいわ」
天埜川テラス「そうか。天埜川家は偽物だから滅亡するのか」
天埜川珠子「しません。私がこの家を再興させます!」
天埜川テラス「本当にこの時代で暮らす気なの?」
天埜川珠子「当然です。元はと言えばあなたが悪いのよ」

〇地下実験室
天埜川テラス「何が入っているのかな」
  テラスはカプセルの中を見るために作動している装置を停止させた。
天埜川テラス「だ、誰?」
天埜川珠子「私は天埜川珠子。あなた誰ですの?」
天埜川テラス「天埜川珠子?」
天埜川珠子「私を呼び捨て? あなた誰ですの!」
天埜川テラス「天埜川テラス」
天埜川珠子「天埜川? 執事の多賀からこの機械の管理を引き継いだのね」
天埜川珠子「すると今2233年ね?」
天埜川テラス「今は2023年だけど」
天埜川珠子「2023年?」
天埜川珠子「210年も前じゃない! どうして機械を止めたのよ」
天埜川テラス「カプセルの中が気になって」
天埜川珠子「どうしてくれるのよ。この機械は一度止まったら二度と使えないのよ!」
天埜川テラス「冷凍保存の機械なら今でもあると思う」
天埜川珠子「すぐに手に入れなさい!」
天埜川テラス「そんなもの買うお金なんて無い」
天埜川珠子「天埜川家には有り余るお金があるはずよ」
天埜川テラス「今あるのはこの館だけ」
天埜川珠子「情けない、それでも天埜川家の人間なの?」
天埜川テラス「あなたが悪いのよ!」
天埜川珠子「はあ?」
天埜川テラス「あなたが失踪してから天埜川家の不幸が始まったんだから」
天埜川テラス「あなたの二人の息子も戦争の犠牲になったのよ」
天埜川珠子「え?」
天埜川テラス「私の父も家の再興のために事業を拡大して失敗し責任を取って自殺した。父の跡を継いだ兄もすぐ事故で死んだ」
天埜川テラス「こんな呪われた家、滅びればいいのよ!」
天埜川珠子「そう」
天埜川珠子「わかったわ。私が家を再興するわ」
天埜川テラス「え?」

〇ホテルのレストラン
天埜川珠子「この家を再興してから2233年に行くつもりよ」
天埜川テラス「でもあんな機械が大正時代にあったなんて驚いたな」
天埜川珠子「あれは2233年から来た男からもらったの」
天埜川テラス「男はタイムマシンで来たんでしょ? 一緒に未来に行けばよかったのに」
天埜川珠子「男の話では過去の人間を未来に連れてくると死刑になるからダメだって」
天埜川テラス「どうして未来で暮らそうと思ったの?」
天埜川珠子「2233年には不老の薬があるからよ」
天埜川珠子「『老い』は私が唯一恐れるもの」
天埜川珠子「私は永遠の若さを手に入れて生き続けたいのよ!」
天埜川テラス「自分の事ばっかり考えている」
天埜川珠子「あなたも大切な存在よ」
天埜川テラス「え?」
天埜川珠子「私を保存する機械の管理人だから」
天埜川テラス「そんなことだと思った」

〇古い洋館
天埜川珠子「この時代で暮らすのも悪くないわね」
天埜川テラス「はあ、疲れた」
天埜川珠子「明日は何をしようかしら」
天埜川珠子「そうだ、あなたの結婚相手も見つけないといけないわね」
天埜川珠子「子々孫々で私の保存管理をしてもらわないといけないから」
天埜川テラス「勝手に決めないでよ」
天埜川珠子「ところであなた年はいくつ? 15,6ってところかしら」
天埜川テラス「28」
天埜川珠子「28ですって!」
天埜川珠子「私より年上だなんて・・・」
天埜川珠子「出しなさい」
天埜川テラス「な、何を?」
天埜川珠子「不老の薬」
天埜川テラス「持ってないけど」
天埜川珠子「28歳でその見た目はありえないわ。若さを保つ秘訣を教えなさい」
天埜川テラス「そんなもの無い・・・」
天埜川テラス「あっ」
天埜川珠子「やっぱりあるのね」
天埜川テラス「家で引きこもること」
天埜川珠子「そうなの?」
天埜川テラス「だからもう私を無理やり外に連れ出すのはやめて」
天埜川珠子「う~ん。それは困った秘訣だわ」
  テラスは真に受けている珠子に少し優越感を覚えた。
天埜川テラス「フフフ」
天埜川珠子「な、何ですの?」
天埜川テラス「アハハハ!」
  テラスは久しぶりに笑った。それはテラスが珠子を受け入れた瞬間であった。
  第1話『100年ぶりの外出』 完

コメント

  • 大正の時代にも今と同じように若者言葉のようなものがあったのですね。過去を回顧する機会になりました。それにしても最後の笑みが意味深ですね~続きが気になります

  • テラスも珠子も一人では家の外に出れない状態だったのに、お互いの存在を得ることで二人とも久しぶりに外の世界に出れたということか。リボーンしたのは珠子だけでなくテラスもなのですね。時代の違いはあれど残された二人きりの家族、仲良くすったもんだして暮らしてほしいなあ。

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