ダーク・ボール~狂気のGM~

YO-SUKE

第一話「2月、キャンプイン」(脚本)

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〇森の中
  男が頭だけを地上に出し
  土に埋められている。
  その前で棒キャンディーを舐めながら
  電話をしている、
  花ケ崎健治(はながさきけんじ)。
男「頼むよ。殺さないでくれ! 家で、妻と子どもが 待ってるんだよ・・・!」
花ケ崎健治「ああ・・・そうだな。 もうすぐ仕事は終わる」
花ケ崎健治「次の仕事・・・? 報酬はいくらになる?」
男「なあ! 助けてくれよ!」
花ケ崎健治「大丈夫だ。 わかった、その金額で・・・ また連絡する」
  花ケ崎は携帯を切る。
花ケ崎健治「すまん。次の仕事が決まった。 少し急がせてもらう」
男「は?」
  花ケ崎は拳銃を取り出すと、
  それを男の口の中に入れた。
男「へ?」
  パンッ!という乾いた音が森に響き渡り、コウモリたちが一斉に木々から飛び立つ。

〇血しぶき
  『GM~花ケ崎健治のチーム改革~』

〇野外球場
  たくさんのプロ野球選手たちが
  練習に励んでいる。
  2月。球春到来
  各球団の選手たちはキャンプインし、
  シーズンに向けて過酷な練習を始める
  キャンプの出来がチームの成績を左右する
  と言われるほど、ここでの過ごし方は
  各チームにとって重要になる
  だが──
  キャプテンマークを腕に付けた
  清宮泰助(きよみやそうすけ)が
  多くのマスコミから取材を受けている。
記者A「清宮選手、今年はどうでしょう?」
清宮泰助「ええ。雰囲気は悪くないと思います」
記者A「では今年こそ、三年連続リーグ最下位を 脱出できますかね?」
清宮泰助「そのつもりで頑張っています。 ちょっと練習があるのでこのへんで・・・」
  清宮は選手たちの元に近づいて行く。
清宮泰助「みんな聞いてくれ!」
若手選手A「おつかれーっす」
若手選手B「あれ、もう休憩っすか?」
清宮泰助(マスコミの前でああは言ったものの、 若手を中心に、選手たちの覇気は 感じられない・・・)
清宮泰助(やはり何かを変えないと 今年も結果は目に見えてる)
清宮泰助「実は、球団オーナーからの話だと、 今日からうちにGMが来るらしい」
若手選手A「GM? ゼネラルマネージャーってやつですか?」
清宮泰助「そうだ。人事なども含めて、 監督以上に権限が与えられている」
花ケ崎健治「キャプテン清宮」
  清宮が振り返ると、棒キャンディーを
  舐めた花ケ崎が立っていた。
花ケ崎健治「花ケ崎だ。よろしく」
清宮泰助「あなたがGM、ですか・・・?」
花ケ崎健治「最初に言っておく。私に敬語は禁止だ。 特にキャプテン、あんたは同士として 共に戦わなくてはならないのだから」
清宮泰助「わかりまし・・・いや、わかった」
花ケ崎健治「清宮泰助・・・9年前のドラフト一位入団」
花ケ崎健治「プロ2年目から不動のレギュラーで ショートを守り、3年前からキャプテンを 務めている・・・チームの要選手だな」
清宮泰助「よく調べているんだな」
  花ケ崎は選手たちの前に立つ。
花ケ崎健治「私がGMに就任した花ケ崎健治だ。 このチームを優勝させるためにやってきた」
  マスコミと選手たちが
  互いの顔を見合わせ失笑する。
清宮泰助「お、おい! あんたもチームのことは 調べて来てるだろ? うちが優勝なんてできるはずがない」
花ケ崎健治「どうかな?」
清宮泰助「なに?」
花ケ崎健治「それは私がGMになる前の話だろ?」
清宮泰助(な、なんだこいつは・・・)

〇応接スペース
  花ケ崎と清宮がたくさんの資料を
  前にして話し込んでいる。
清宮泰助「・・・確かに。 うちのチームが低迷しているのは、 ベテランの不振によるところが大きい」
花ケ崎健治「やはりそうか」
清宮泰助「だが、監督もチームメイトも、ベテラン 選手に逆らえる空気じゃないんだ。 チームの功労者が多いから」
花ケ崎健治「過去の栄光など関係ない。 今、使える選手かどうかだ」
清宮泰助「わかってる。けど、 理屈で割り切れないこともあるだろう?」
浜田久志「GMさんとキャプテンが さっそく打ち合わせか。 トレード要員でも決めたか?」
清宮泰助「浜田さん。練習は?」
浜田久志「キャプテンがいねえのにできねえだろ」
清宮泰助「いい加減なこと言わないでください。 俺がいなくても練習してくださいって 言いましたよね? それじゃあ優勝なんて」
浜田久志「あー、聞こえねえなあ」
花ケ崎健治「お前が、浜田だな?」
浜田久志「な、なんだ、おめえ」
花ケ崎健治「浜田久志(はまだひさし)・・・ 38歳のベテラン外野手。 近年は怪我に苦しみ成績不振が続く」
花ケ崎健治「性格に難があり、チームメイトとの衝突が 度々報告されている。まさに老害だな」
浜田久志「てめぇ・・・!」
花ケ崎健治「トレードは積極的に行う予定だ。 シーズン入りする前からな」
浜田久志「俺がトレード要員だって言いたいのか?」
花ケ崎健治「膿は出し切らないと、チームは変われない」
浜田久志「この野郎っ・・・!」
花ケ崎健治「私は事実を言っているだけだ」
浜田久志「・・・清宮キャプテン。 おめえはどうなんだ?」
清宮泰助「いや、俺はその──」
浜田久志「ふん。まあいい」
浜田久志「GMだがなんだか知らないが、 よそ者がチームに口出しするなら、 すぐに追い出してやるかな」
清宮泰助「すまん・・・俺がキャプテンとして ガツンと言わなくちゃいけないのに」
花ケ崎健治「問題はない。いくらでも方法はある」
清宮泰助「・・・・・・?」

〇霊園の駐車場
  練習終わりの清宮が
  赤い車の足元にいる花ケ崎を見つける。
  花ケ崎の手にはドライバー。
清宮泰助「あんた・・・ そんなとこで何やっているんだ?」
花ケ崎健治「商品価値のないものは、 交換対象にはならない」
清宮泰助「何の話だ?」
花ケ崎健治「チームの膿の話だ。 トレードできなければ、 ただ膿を出すだけでいい」
花ケ崎健治「簡単だろ」
清宮泰助「は?」
  花ケ崎は立ち去って行く。

〇開けた交差点

〇車内
浜田久志「さっさと宿舎戻って、 パッーとキャバクラにでも行くか」
  信号が近づき、ブレーキを踏む。
  だがブレーキが利かない。
浜田久志「なっ・・・! どうなってる!?」
  赤い車が、猛スピードで
  交差点に突っ込んでいく。
浜田久志「だ、誰か! 助けてくれ! ブレーキが!! ブレーキが壊れ──」
  横から車が飛び込んで来て、
  慌ててハンドルを切る浜田。
浜田久志「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

〇開けた交差点
  浜田の赤い車がガードレールにぶつかり、車体から黒い煙を出している。
  その様子を、離れたところから見守り、
  ニヤリと笑う花ケ崎。
花ケ崎健治「・・・悪くない」

〇野外球場
  若い選手たちを中心に、
  活き活きと練習に励んでいる。
  それを複雑な表情で見つめる清宮。
清宮泰助「浜田さんが事故を起こして チームを離れた結果、」
清宮泰助「若手を中心にみんなが 伸び伸びと練習に励んでいる・・・」
花ケ崎健治「チームが引き締まってきた。 そうだろ? キャプテン」
清宮泰助「GM花ケ崎・・・ 浜田さんが事故を起こす直前、 間違いなくあの赤い車に何かをしていた」
花ケ崎健治「この調子ならオープン戦も楽しみだ」
清宮泰助「なあ、あんた──」
花ケ崎健治「なんだ?」
清宮泰助(あんたが浜田さんの事故を 起こしたんだろ・・・?)
花ケ崎健治「どうかしたか?」
清宮泰助「いや・・・なんでもない」
  言葉をグッと飲み込む清宮。
清宮泰助「俺は知らなかった。こいつの狂気じみた チーム改革が、この時はまだ一回の表に しかすぎなかったことを」
花ケ崎健治「キャプテン。 私がこのチームを必ず優勝させて みせる・・・どんな手を使ってもな」

次のエピソード:第二話「3月、オープン戦」

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