第二話「3月、オープン戦」(脚本)
〇寂れた一室
暗闇の中でソファに座り、
テレビを見ている花ケ崎。
〇テレビスタジオ
木村奈々「続いてプロ野球です。 オープン戦が開幕し、 各地で熱戦が繰り広げられ──」
〇寂れた一室
花ケ崎健治「木村奈々・・・か。 なるほど、確かに男ウケしそうな顔だ」
〇野外球場
野球のオープン戦が行われている。
開幕を一ケ月後に控え、
日本各地でオープン戦が行われる
オープン戦は本番までの大事な
準備期間であり、多くの選手が
ここで実践的な試合勘を掴んでいく
平凡なボールが外野に飛ぶが、
若手外野手がエラーしてしまう。
ショートの位置でそれを見て、
溜息をつく清宮。
清宮泰助(これでオープン戦は開幕二連敗。 先が思いやられるな・・・)
〇更衣室
清宮泰助「お前ら、いい加減にしろよ」
若手選手A「いやぁ、自分では確実に 取ったと思ったんですけど」
清宮泰助「オープン戦とはいえ、 お客さんも入ってる」
清宮泰助「プロとして恥ずかしい試合だけはするな」
若手選手A「でも、うちは例年 こんなもんじゃないすか?」
清宮泰助(ダメだ・・・ 浜田さんが抜けて怪我の功名、 チームの雰囲気は良くなったと思った)
清宮泰助(だが若手がこの調子じゃ──)
花ケ崎健治「キャプテン清宮」
清宮泰助「GM? なんでここに」
花ケ崎健治「ここは俺に任せてくれ」
清宮泰助「何言ってるんだ。 俺はキャプテンとしてこいつらを──」
花ケ崎健治「結果は必ず出す」
清宮泰助「結果・・・」
〇霊園の駐車場
赤い車の前で
ドライバーを持っている花ケ崎。
花ケ崎健治「商品価値のないものは、 交換対象にはならない」
〇更衣室
清宮泰助「お前・・・危険なことはするなよ」
花ケ崎健治「危険? なんの話だ。 それより、俺はオーナーから 選手に関与する権限も与えられている」
花ケ崎健治「ここを任せてくれと言ったのは 提案ではない。命令だ」
清宮泰助「・・・わかった」
若手選手に何かを話し込む花ケ崎。
〇観光バスの中
試合後の選手たちが、真剣な顔で
対戦チームのデータ資料を見ている。
若手選手A「やはりこのバッターは カーブから入るのが有効だよな」
若手選手B「ああ。初球はそれでいい」
その様子を後方でポカンと見ている清宮。
清宮泰助「あの日・・・花ケ崎が若手選手と 何かを話し込んでから一週間経った」
清宮泰助「その間、うちのチームは まさかの五連勝を飾った」
若手選手A「キャプテン。明日の対戦チームの 先発に関して、少し対策練りませんか?」
清宮泰助「あ、ああ。わかった」
清宮泰助「若手選手を中心に、 まるで魔法がかかったかのように チームのムードが一変したのだ」
〇旅館の受付
宿泊施設
ソファに座り、テレビを観ている花ケ崎。
大量の砂糖を入れて、
コーヒーを飲んでいる。
清宮が花ケ崎の前に座る。
花ケ崎健治「キャプテンか。何の用だ?」
清宮泰助「何をした?」
花ケ崎健治「何の話だ?」
清宮泰助「あんたが若手に何かしたんだろ?」
花ケ崎健治「このチームは、元々弱いチームじゃない。 個々の成績を見てればよくわかる。 特に若手のポテンシャルは高い」
清宮泰助「質問に答えろ。あの日を境に、若手は 目の色を変えて試合に取り組んでいる。 まるで死に物狂いだ」
花ケ崎健治「プロ野球選手が男だけで良かった。 男は単純で扱いやすい」
清宮泰助「なんだと?」
花ケ崎健治「オープン戦で優勝すれば、そいつとの 食事をセッティングすると約束した」
花ケ崎がテレビを指差す。
〇テレビスタジオ
〇旅館の受付
清宮泰助「! 木村奈々・・・?」
花ケ崎健治「いまアナウンサー界で 人気ナンバーワンらしいじゃないか」
清宮泰助「な、なんでお前が この人と繋がりがあるんだ!?」
花ケ崎健治「キャプテンもお気に入りだったか?」
清宮泰助「ふざけるな! それよりお前、 もし食事の件がデマだったりしたら、 どうなるかわかってんだろうな?」
清宮泰助「あいつら暴動を起こすぞ」
花ケ崎健治「俺は、嘘はつかない。 なんならキャプテンも食事に招待しよう」
コーヒーを一気に飲み干すと
立ち去ってしまう花ケ崎。
清宮泰助「冗談じゃない・・・! そんな約束、 本当に果たせると思ってるのか!?」
〇野外球場
ピッチャーのラストボールを
バッターが空振りし、試合が終了した。
公式戦で優勝したかのようにグラウンドに集まり、大騒ぎをする若手選手たち。
その様子をショートの位置から見て、
目を丸くする清宮。
清宮泰助(こいつら・・・ ほんとにオープン戦で優勝しやがった)
〇ホテルのレストラン
清宮と若手選手数名が、
ソワソワしながら席についている。
清宮泰助(こんなレストランまで予約して・・・ 本当にここに木村奈々が来るのか)
若手選手たちから歓声が上がり、
奈々が入って来た。
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