藍の話(脚本)
〇ラブホテルの部屋
愛してるなんて、嘘だってわかってた。
都合のいい女だとしか
思われてないということも
わかってた。
それなのにどうして、
嫌いになることができないのだろう。
第4話「藍の話」
子日裕「じゃあ、俺はもう行くから」
藤倉藍「・・・うん」
子日裕「そんな顔するなよ。仕事なんだから仕方ないだろ?」
藤倉藍(仕事なんて嘘だ。私以外に付き合ってる人がいることは知ってる)
藤倉藍「・・・次はいつ会える?」
子日裕「あー、いつだろうな。仕事が落ち着いたら・・・また連絡するよ」
藤倉藍「はぁ・・・結局いつもこんなんだよな・・・」
男運がない、と妹たちにまで言われている。
私が好きになる人は、大体が私のことを都合のいい女だとしか思ってくれない。
頭ではわかっている。
そんなクズなんてさっさと捨てて次に行けばいいんだと。
藤倉藍(それができたら苦労しないよなぁ・・・)
二股をかけるようなクズ男でも、その人に魅力があるから好きになってしまう。
藤倉藍(嫌いになれたら楽なのにね・・・)
可愛げのない私のような女が愛されることなんてないというのもわかっている。
愛されたいのに、愛されるために自分を捻じ曲げることはできない。
「藍と違って彼女は俺がいないと生きていけないから」と言われて振られたこともあった、
藤倉藍(いっそ、あの人がいなくなってしまえばいいのに・・・)
藤倉藍(なんて、ね)
あの人と同じ香りが欲しくて、好きでもないタバコをふかす。
馬鹿な女だと、自分でも思っている。
〇綺麗なダイニング
藤倉茜「ねえ、今日一緒に服買いに行こうよ!」
藤倉雫「めっちゃ雨じゃん・・・。私はパス」
藤倉茜「んもう・・・雫姉はインドアなんだから 藍姉は?」
藤倉藍「私もちょっと買い物したいし・・・いいよ、一緒に行こう」
藤倉茜「やったー!ありがとう、藍姉!」
藤倉藍「雨だし、私が車出すよ」
藤倉雫「雨だっていうのに元気だねぇ・・・行ってらっしゃい」
藤倉藍「そういえば今日、奏は?」
藤倉茜「今日は用事があるんだって。デートかな?」
藤倉藍「最近結構家を空けてるから、もしかしたらそうかも」
藤倉藍「はぁ・・・」
藤倉茜「どうしたの、藍姉? でっかい溜息ついて・・・」
藤倉藍「何でもないよ。出かける準備してくるね」
藤倉茜(藍姉、さてはまた悪い男に引っかかったんじゃ・・・)
〇車内
藤倉茜「いやぁ買った買った!」
藤倉藍「この天気の中、あれだけ服買うの凄いと思うよ・・・」
藤倉茜「新作が可愛くて、どうしても欲しかったの」
藤倉茜「この日のためにお年玉とお小遣いを貯めてきたんだよ」
藤倉茜「藍姉も色々買ってたね」
藤倉藍「うん。なんか気分を変えたくて・・・」
藤倉藍「にしてもすごい雨だな・・・」
藤倉茜「天気予報では、一時間後くらいに弱くなるみたい」
藤倉藍「じゃあ一時間くらいどこかで休憩でもする? 確か近くに喫茶店があったはず」
藤倉茜「そうしよ! 雫姉たちには悪いけど」
藤倉藍「二人にはお土産買って行こうか」
藤倉茜「それがいいね!」
車は近くにあったコーヒーチェーンに入っていく。
藍は駐車場の一角に車を停め、エンジンを切った。
藤倉茜「隣の車、めっちゃいちゃいちゃしてる・・・」
藤倉藍「こら、茜。そういうのは気付いても見なかったことに──」
藤倉茜「藍姉?」
藤倉藍「ごめん、茜。先に店に入ってて。お金は渡しておくから」
藤倉茜「どうかしたの、藍姉?」
藤倉藍「・・・気にしないで、これは私の問題だから」
藤倉茜「うん・・・わかった」
藤倉藍(何でまた、こんなところで鉢合わせるかなぁ・・・)
隣の車。
雨の中でキスをしている男の顔を、
私はよく知っていた。
愛されていないことはわかっていた。
わかっていても、自分とは正反対の可愛らしい子とキスをする恋人の姿に、打ちのめされてしまう
藤倉藍(惨め、って・・・こういうことなんだな)
藤倉藍(こんな思いをするなら、いっそ・・・)
意を決して車を出る。そして隣の車の窓を叩いた。
〇駐車車両
子日裕「あ、藍・・・どうして」
藤倉藍「どうしてはこっちのセリフよ!」
藤倉藍「私とは会う時間ないのに、その子とは会えるんだね?」
藤倉藍「しかも私のときは毎回ラブホしか行かないのにコーヒーショップ?」
藤倉藍「あんたが私のことをどう思ってるかはよくわかった」
子日裕「・・・お前だって、薄々わかってただろ」
子日裕「お前みたいな可愛げのない女、俺のキープにしてもらっただけありがたいって思えよ」
藤倉茜「うちのお姉ちゃんは可愛げのない女なんかじゃない!」
藤倉藍「あ、茜・・・」
藤倉茜「そりゃあ確かに無愛想だし、人見知りでたくさん人がいると一言も喋らなくなったりするけど!」
藤倉藍「あ、茜・・・」
藤倉茜「それでも私の大切なお姉ちゃんなんだから!」
子日裕「なんだあ? こいつ、お前の妹か? 大人の話に口出すんじゃねぇよ!」
茜のおかげで冷静になれた。
確かに私は彼が好きだった。
でも今は、こんな男よりも妹の方が大事だと言える。
藤倉藍「そう。私の大切な妹。 ありがとう、茜。おかげで目が覚めた」
藤倉茜「お姉ちゃん・・・?」
藤倉藍「あんたみたいな男、こっちから願い下げだよ!」
藤倉藍「行こ、茜。あったかいコーヒー飲んでから帰ろう」
藤倉茜「うん!」
〇綺麗なダイニング
藤倉雫「で、そのあとどうなったの?」
藤倉藍「知らない。コーヒー買ってる間に消えてた」
藤倉茜「いやぁ・・・あれはめちゃくちゃ痛そうだったもん」
藤倉藍「言っとくけど、先にビンタしたの茜だからね?」
藤倉茜「それはそうだけど・・・藍姉、昔はめちゃくちゃ乱暴者だったって本当なんだろうなって・・・」
藤倉藍「ちょっ・・・別に私も理由なく人をぶっ飛ばしてたわけではなくてね?」
藤倉雫「まあまあ。クズ男と切れてよかったじゃん、藍姉」
藤倉藍「・・・言っとくけど、好きだったのは本当だからね?」
茜の言葉で気がついた。
あの人のことは好きだった。
でも、会う度に打ちのめされて、惨めになるだけだった。
そんな関係を続けていたって、自分がダメになっていくだけだ。
藤倉藍「ま、人生経験たっぷりの私から言えるのは、自分を惨めな気持ちにさせる相手とはさっさと別れた方がいいってことだね」
藤倉雫「実感がこもってるなぁ・・・」
藤倉雫「肝に銘じておくよ」
藤倉茜「それにしても、今日奏姉遅いね?」
藤倉藍「雨降ってるし、どこかで弱くなるの待ってるんじゃない? 一応メッセージだけ送っとくよ」
〇綺麗なダイニング
藤倉奏「ただいま・・・って、みんなもう寝てるかな」
藤倉藍「遅かったね、奏」
藤倉奏「ごめんなさい・・・今日、大丈夫だった?」
藤倉藍「それは私が聞きたいんだけど? 既読もなかなかつかないから心配したんだけど」
藤倉奏「ごめんね、藍」
藤倉藍「で、何してきたの? もしかしてデート?」
藤倉奏「・・・恋人がいるのは本当。でも、デートじゃなくて、病院に行ってきたの」
藤倉奏「それからずっと、二人で話し合ってて・・・」
藤倉藍「あのさ、奏・・・違ったらごめんなんだけど・・・もしかして、妊娠してたりする・・・?」
藤倉奏「うん。でも・・・産むかどうかも、まだ決められなくて」
藤倉奏「海斗は産んでほしいって言ってるんだけど、私は・・・迷ってるの」
藤倉藍「どうして?」
藤倉奏「自信がないの。子育てって辛くても逃げられないけど・・・私はまたいつか、家族から逃げてしまいそうで」
藤倉藍「奏・・・」
両親がいない夜。
藤倉家には波乱が訪れようとしていた。
第4話「藍の話」・終