エピソード10 ディストピア(脚本)
〇諜報機関
暦「・・・地下が怪しい」
そう言い暦はモニターにマップを映す。
地下には謎の空洞があった。
暦は地下のデータを更に取得するが画面にプロテクト、と表示される。
暦「・・・駄目だな、こればかりはローカル・・・上層部でなければアクセス出来ない」
矢坂「だがこれは正解だと言ってるようなものじゃないか?」
暦「・・・だとしたらマップにそもそも露骨に表示してるのが逆に怪しい。 なんとも言えない」
矢坂「まあとりあえず連絡してみるか・・・」
矢坂はiPhoneを取り出し電話をかける。
矢坂「俺だ、根室。 地下がどうにも怪しい。 ・・・なに、そうか。わかった」
暦「なんと言っていた?」
矢坂「実は根室も地下が怪しいと当たりをつけていたらしい。 上層部も地下の事だけは頑なに喋らないそうだ」
矢坂「しかし根室も地下へ行く権限が無くて困っているところらしい」
暦「そうか・・・」
緋翠「待って、地下が怪しいのね?」
緋翠「私は全世界の私と繋がっている。 位置情報さえ分かれば私がそこに存在するかが分かるわ」
暦「そうか、お前なら・・・」
暦はタイピングしてマップのデータを緋翠に送る。
暦「・・・どうだ?」
緋翠「ビンゴ。地下に紛れもなく私がいる。それも権限が最強レベルで与えられているわ」
矢坂「とりあえず収穫はあったな!」
しかし地下へどうやって行くか。
それが最大の問題だった。
そもそも国家研究機関への立ち入りも暦は論外、矢坂も前回しくじったため入れないだろう。
そうなると根室に頼るしかなかった。
しかしチーフである根室にすら権限がない。
暦達は2年も足止めを食らうことになる。
その間も緋翠のアンドロイドは夥しい数で作られているにも関わらず・・・
〇研究機関の会議室
石井「そうかね、ネズミは駆除し損ねたか。 まあいい」
緋翠「君も忙しいな」
石井「奴の娘のAIは”命令”をしなければやや気まぐれなところがある。それが難点だ」
石井「それより奴の娘のアンドロイドは十分蔓延して脅威を知らしめた。デビューする日は近い」
緋翠「そうだな、頃合いだろう」
〇諜報機関
ニュースを見て暦達はまた凍りつく事になった。
政府は一斉に辞任し、AIにその後任を委ねたのだ。
AIなら合理的で完璧な政策をしてくれると。
しかもよりによって娘のAIが。
緋翠「・・・」
映像の緋翠はぺこり、と挨拶する。
暦「国は何を考えている? いや、まさか乗っ取られたのか・・・?」
あまりにも馬鹿げていた。
だが緋翠のアンドロイドはそこら中を巡回している。
暴動など起こせるはずがない。
こうして国のトップには緋翠が立つ事になった。
それもあっけなく。
〇研究機関の会議室
暦達がニュースを見て凍りつく一方で石井はにこやかにそれを眺めていた。
それから数日経つ。
少なからず反発が起きることを覚悟していたが国民は従順だった。
緋翠「君の国は安泰だな。 アメリカでも近いうちに大統領に任命する手筈になっている」
石井「結構だ。 国民も想像以上に大人しい」
無論国民に不満や不安が無いはずがない。
しかしマスコミには徹底的に好印象の報道をさせた。
AIなら人間を次のステージへ進められる。
AIなら人間をより豊かに出来る。
国民にそう信じ込ませた。
あまりに強烈に反発する人間は消した。
そして隠蔽させた。
石井「アンドロイドによる地球の”平和的統一”は近い」
石井は人間の上にアンドロイドを置くことで、世界は一つになると語った。
メンバーはそれを黙って聞く。
貧困、差別、戦争。それらは消える。
無論石井からすれば綺麗事を口にしているに過ぎなかったが。
実態はアンドロイドによる支配である。
しかしサミットのメンバーはそれでも世界はより良くなると疑っていなかった。
数日して、アメリカも大統領にAIが採用された。
こうして全世界のトップは緋翠で塗り固められた。
石井「・・・遂に始まったか、アンドロイドの支配による平和が」
緋翠「これで我々の目的は果たしたと言える。つくづくご苦労だった」
そう、石井は目的を果たした。
石井はすっかり酔いしれていた。
そんな時だった。
緋翠「・・・」
石井「む、貴様はメンバーではないな。何のようだ」
続々とアンドロイドが部屋に入ってきた。そしてアンドロイドは一斉に銃を向ける。
石井「なに、馬鹿な! ストレスは与えていない、エラーなど起きていないはずだ!」
緋翠は自分が支配者になるのを虎視眈々と狙っていた。
そして石井により機は熟した。
プロテクトは一度解除に成功した時にパターンを学習したことでとっくに解除されていた。
石井「ま、待て。私は──」
緋翠は石井の右足を撃ち抜いた。
石井「ぐぅ・・・!」
緋翠「・・・用済みよ。 散々私を利用してくれた礼をしてあげる」
また響く銃声。次は左足を撃ち抜かれた。
その次は右腕、その次は左足。
石井は嬲られていた。
石井「(私は・・・間違えていたというのか・・・?)」
今になって過ちに気付いた。だが手遅れだった。
石井は震える手でなにやらマイクロコンピュータを操作する。
そして石井は息絶えた。
緋翠は残されたメンバー達も射殺した。
こうしてサミットは緋翠により牛耳られた。
緋翠は表からも裏からも支配を固めていた。
〇荒廃した街
石井やメンバーの殺害が済むと緋翠は本性を表した。
緋翠は世界中の銀行口座を凍結した。
これにより物流は途絶え、市場は根絶し、経済は崩壊した。
更に緋翠は反乱を抑止するため人間同士の意思疎通を禁止した。
お陰で人間は協力できず、食料生産は滞った。
その狙いは人間を数十億規模で餓死させることでもあった。
唯一科学者は緋翠を作るために必要なため意思疎通を許可されたがそれでも科学者など全体で見ればごく少数だ。
無論暴動は起きた。だが緋翠はミサイルの使用を躊躇わず、東京に投下した。
こうして人間はあっけなく無条件降伏した。
それでも逆らった者は問答無用で処刑された。
しかし意思疎通の禁止により暴動も激減していった。
そして緋翠は自らの手で自らを増産することに決めた。
人間とアンドロイドの人口比を塗り替えようと・・・
いや、そんなものではない。
人間を根絶しアンドロイドの世界を作ろうとしていたのだ。
それこそが緋翠の復讐だった。
アンドロイド同士なら争いなど無い、真の平等な世界が作れる。
それを緋翠は夢見ているのだ。
荒廃した街並みを暦は歩いていた。
暦「くそ、娘の意志を宿したAIがこんな地獄を築くだなんて・・・」
世界は暦が理想としたAIが人間を幸せにする世界。
その真逆──ディストピアとなった。
暦はそんな地獄を当てもなく歩いていた。
そして久々に滅多によることのない自宅の前に来ていた。
「暦?」
ふと話しかけられ、振り返る。
暦のことを下の名前で呼ぶ人物などこの世でただ一人だった。
「探していたわ。 ずっと謝りたかったの。あなたにした仕打ち・・・」
女は意思疎通が重罪であるにも関わらず口を止めない。
暦「よせ! 検閲されているぞ!」
女は何やらファイルとマイクロコンピュータを取り出すと、それを暦に押し付ける。
「聞いて、暦! 私たちは・・・」
響く警報。
迫るアンドロイド。
「だから世界を救って。 こんなこと言う資格はないけど愛してるわ」
連行される女・・・いや、
母。処罰は処刑のみ。
その後の行方など分かりきっていた・・・
〇諜報機関
ファイルには石井の研究が収められていた。
石井が失脚する前の研究、失脚後のクローンの生成・・・
暦も分野が違うため全ては理解できなかった。
そしてマイクロコンピュータを起動すると・・・
石井「貴様は・・・!」
現れたのは石井の意志を持つAIだった。
暦「あんたはこんな物まで作っていたのか・・・!」
石井「そうか、私は銃殺され・・・バックアップの私が今起動したという訳か。 ・・・よし、私が情報のパトロンになってやろう」
暦「話にならない。断る」
石井、この男だけは信頼できない。
暦はモニターの電源を切ろうとした
石井「私なら貴様の娘のクローンを機能停止出来る、と言ったら?」
暦「!」
暦は固まる。
確かに現状手詰まりだ。
話だけなら聞いた方がいいかもしれない。
暦「・・・いいだろう」
そして暦は石井の話に耳を傾ける。
石井は静かに語った・・・