怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード47(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇高層マンションの一室
茶村和成「ただいま・・・」
  今日は稽古はなく、少し買い物をしてから家に帰ってきた。
  誰もいない薬師寺の部屋で、俺はため息を吐いて荷物を下ろす。
  制服も脱がずにどさりとソファに身体を預け、ぼんやりと天井を見つめる。
  俺は数日前に、少年に襲われたときのことを思い出していた。

〇高層マンションの一室
  俺はあのあと、家に帰り着いてから薬師寺におずおずと彼は何者だったのか尋ねた。
薬師寺廉太郎「・・・今は答えられない。ごめん」
  薬師寺は少し困ったような笑顔を浮かべてそう言った。
  そして俺の手をとると、ぎゅっと握りしめた。
薬師寺廉太郎「ただ、もう茶村には絶対に危害を加えさせない」
  絶対に、と言葉を重ねる薬師寺は普段の飄々とした雰囲気がなりを潜め、いつになく真剣な表情だ。
  俺はなにも言えずにそんな薬師寺を、見つめることしかできなかった。
  俺はそれ以上の詮索をやめ、薬師寺の手を握り返して頷いた。

〇高層マンションの一室
  あのとき少年に対して殺意をむき出しにしていた薬師寺は、俺の知っている薬師寺ではなかった。
  今思い出しても少し肌があわ立つ。
  あれがもし自分に向けられたらと思うと、ゾッとしてしまう。
  ソファの上で寝返りをうって、俺を襲った少年のことを考える。
茶村和成(廉太郎、って呼んでたな・・・)
  「薬師寺の一族」ってなんなんだろう。
  少年が言っていた薬師寺の「役目」って・・・
茶村和成(薬師寺家ってなんなんだ? なんで、俺が狙われたんだ・・・?)
  ピンポーン
  そんなことを考えていると突然インターホンが鳴った。
茶村和成(宅配かなにかか・・・?)
  カメラを確認すると、そこには知った顔が映っていた。
茶村和成「・・・へ? 八木さん」
  いつもの無表情で立っている八木さんはじっとカメラ越しに俺を見る。

〇シックな玄関
  扉を開けるといつもの不愛想な八木さんが立っていた。
茶村和成「八木さん。お久しぶりです。 今日はどうしました?」
八木要「・・・薬師寺いるか?」
茶村和成「今はいませんが・・・」
八木要「そうか・・・。薬師寺への依頼の件で来た。 薬師寺には連絡してある」
茶村和成「えっ」
  俺はなにも聞かされていなかった。
  薬師寺はどうせ忘れていたんだろう。
茶村和成「・・・・たぶん、すぐ帰って来ると思うので、とりあえず中で待っててください」
八木要「ああ」
  八木さんは頷いて靴を脱ぐと部屋に入った。

〇高層マンションの一室
  俺はキッチンでお茶を入れてから、八木さんの前にお菓子とお茶を置く。
茶村和成「・・・どぞ」
八木要「ありがとう」
  ソファに座っている八木さんと少し離れた位置に腰を下ろす。
  時計をちらっと見ていると、短針がもうすぐ6のところまで来ていた。
茶村和成「薬師寺、いつもだったらもう帰って来てるんですけど・・・」
八木要「別に構わない、帰って来るまで待とう」
  広い部屋の中で、八木さんがお茶を飲む音だけが響く。
  沈黙が続き、俺は気まずさに耐えかねて口を開いた。
茶村和成「あの」
  八木さんの目が俺に向けられる。
茶村和成「八木さんって、普段はどんな仕事をしているんですか?」
茶村和成「警察、っていうのは知っているんですがいまいちイメージできなくて・・・」
八木要「薬師寺からはなにも聞いてないのか?」
茶村和成「えっと・・・。 警察に持ち込まれた怪異にまつわる事件を、薬師寺に持ってくるってことくらいですかね」
八木要「そうか・・・」
  八木さんは両手を組んで、小さくため息を吐いた。
  無神経なこと言ったかな、と思ったら八木さんはいつものように淡々と説明してくれる。
八木要「・・・俺が属している部署は『警視庁刑事部捜査0課』だ。 通称霊課、と呼ばれている」
八木要「此世(このよ)の常識ではおおよそありえない、怪異と思われる事件を担当する部署だ」
茶村和成「・・・そんな部署があったなんて、知りませんでした」
  八木さんは表情を変えずに言った。
八木要「関係者以外には、公になっていない部署だ。 知らなくて当然だ」
茶村和成「・・・俺が聞いてもよかったんでしょうか?」
八木要「問題ない。君はすでに無関係ではないしな」
  たしかに、俺は何度も怪異に遭っている。
  勝手に薬師寺に助手に任命されて八木さんの依頼についていったこともある。
茶村和成(そうか・・・、たしかに俺はもう“普通の人”じゃないんだな)
  そのとき、玄関から物音がした。
  ガチャリとリビングの扉が開く。
薬師寺廉太郎「ただいま茶村~。・・・あれ?」
  薬師寺は視界に入った八木さんを見て、あごに手をやって首を傾(かし)げた。
  しばらく考えてから、思い出したように手のひらをポンと叩く。
薬師寺廉太郎「そういえば、そうだったねえ」
  気の抜ける薬師寺の声に、俺は呆れた表情を浮かべた。

〇高層マンションの一室
  ソファに座って、薬師寺は甘いココアをすする。
  いつもどおりの調子で、薬師寺はへらへらと笑っている。
薬師寺廉太郎「ひゃひゃ、すっかり忘れてた~」
  八木さんは薬師寺の言葉に表情ひとつ変えないまま慣れた様子で言った。

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