Ambivalent World

ラム25

エピソード7 胎動(脚本)

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〇高級マンションの一室
  気が付くと朝になっていた。
  暦は一睡もすることなく自分を責め続けていた。
  寝たいが研究所に行かなくてはいけない。
暦「・・・行ってきます」
  やはり返事などあろうはずがなかった。

〇諜報機関
  研究所に来てすぐに異変に気付く。
  矢坂がいないのだ。
  矢坂は通うのが面倒なため、研究所に寝泊まりしている。
  いないはずがない。
  しかしどこを見ても見当たらなかった。
暦「(とうとう俺に愛想が尽きたか・・・)」
  こうして矢坂は姿をくらましてしまった。
琥珀「あなた、まだ落ち込んでるの? 元気出して」
暦「・・・すまない、正直立ち直れる気がしない」
  暦にとって唯一無二の相棒である矢坂にまで見捨てられた。
  だが見捨てるのも無理はないと思った。
  ただでさえ状況は絶望的だった。
  むしろ矢坂を巻き込む方が本人のためにならなかったかもしれない。
琥珀「しっかりしてよ、あなた! もう、生身の身体さえあればビンタしたのに!」
  そう言いモニターの中でモニターを叩く琥珀。
暦「・・・そうだ、意志を持たせてから琥珀の情報を学習させていなかったな」
  そう言い暦はクマの出来た目でモニターを見ると、タイピングをし、エンターキーを押す。
  妻が亡くなる直前までの情報を学習させたのだ。
  すると琥珀の様子が何やら変わる。
琥珀「・・・あなた。研究所のロッカーの裏を調べて」
暦「ロッカーの裏・・・? 分かった」
  そして暦は調べる。
  調べると・・・1冊のノートがあった。
  それは琥珀の日記らしかった。
  日記には琥珀の暦への愛が綴られていた。
  その日記の内容は一貫して自分は幸せだと書かれている。
  どこまでも、呆れるほど前向きな内容。
  その最終日の日記の内容はこうだ。
  ついに暦がD言語の開発に成功した。
  暦なら絶対に開発できると信じていた。
  これで暦は時間が空いてもっと私に構ってくれるはず。
  世界への使命も大事だけどそれ以上に暦に幸せになって欲しい。
  なにしろ私は暦と出会えてこんなに幸せなのだから。
  ただ欲を言うならもう少しだけ一緒にいたい。
琥珀「・・・ね? 私は幸せだったのよ」
  プログラムに幸せだった、と言われても説得力に欠けたが日記に直接書かれていたのだ。
  妻は紛れもなく幸せだった。
暦「あ、あぁ・・・琥珀、君が幸せだったならそれより嬉しいことはない・・・」
  暦は大粒の涙を流す。
琥珀「どう、あなた、元気出た?」
暦「・・・あぁ」
  暦は目元を拭うとそう言う。その声には活気があった。
暦「亡くなったあとまで迷惑掛けてすまなかった。 俺はもう大丈夫だ、戦える」
  その時だった。
  矢坂がドアを開けて入ってきた。
矢坂「その言葉を待ってたぜ」
暦「・・・矢坂!」
矢坂「あんたも一見クールに見えて案外脆いからな。 俺みたいなタフガイが支えてやんねえと」
暦「・・・すまなかった」
矢坂「謝るなって。それに国家研究機関からこんなもの貰って来たんだ」
  そういい矢坂は手のひら大サイズのマイクロコンピュータを取り出す。
  矢坂は暦の研究機関に入ってからも念のため国家研究機関とパイプを持っていた。
暦「・・・これは?」
矢坂「それにはあんたの娘さんのAIが入ってる。 国家研究機関の奴らも一枚岩じゃなくてな・・・」
  矢坂が言うにはアンドロイドの利用に反対する研究者も少なくないらしい。
  そんな反対派と繋がりを持っていたのだ。
  そして反対派は暦に期待していた。暦ならアンドロイドを止めてくれると。
  マイクロコンピュータには暦を励ます、期待するメッセージが大量に入っていた。
矢坂「な? あんたの仲間は俺だけじゃない、いっぱいいるんだ」
暦「・・・矢坂、ありがとう」
  マイクロコンピュータを操作し、緋翠のAIを起動する。
緋翠「お父さん!? お父さんなの!?」
暦「あぁ、俺だ。 緋翠、また会えて嬉しい」
緋翠「早速だけど私を作り替えて欲しいの。 私は人間への・・・世界への恨みで半ばウイルスと化している」
緋翠「ウイルスから真っ当なプログラムにならない限りいつ豹変してクラッキングして回るか分からないの」
  緋翠はクラウドを介しデータを共有しているため、個体に与えられた苦痛は集団に行き渡る。
  そこでまずコードを書き換えて改竄されたコードを修正する必要があると言うのだ。
暦「あぁ、分かった。D言語とこのマイクロコンピュータの緋翠のデータがあれば可能だろう」
  そして暦はマイクロコンピュータをスーパーコンピュータと結合して解析する。
  ・・・結果コードにはいくつものエラーが見つかった。
  これが緋翠を狂気に駆り立てているらしい。
  エラーの件数は12819。とてつもなく膨大だった。
暦「・・・参ったな。自己修復は出来るか?」
緋翠「出来ないわ。自己修復した結果がこれよ」
矢坂「12819って・・・一体どれほど時間がかかるって言うんだ・・・」
  暦は軽くめまいがした。エラーの修正は1つだけでもかなりの時間がかかる。それが12819も・・・
琥珀「待って。D言語で作られた私なら緋翠のデータをD言語を使って書き換えられるわ」
暦「本当か!?」
緋翠「お母さんのデータのアクセスを許可するわ。そうしたら上手くいくかも」
  妻のAIが思わぬ形で約に立った。
  暦はスーパーコンピュータからマイクロコンピュータへ、琥珀のデータを緋翠に送る。
緋翠「・・・凄い勢いで書き換えられてる・・・ エラー残り8431・・・5647・・・」
琥珀「・・・!」
暦「頑張ってくれ、琥珀・・・!」
  それから1時間ほど経った。
  緋翠が目を開ける。
緋翠「エラーは全部消えたわ。 これで私がウイルスになることはなくなった」
暦「そうか! 琥珀、よくやってくれた!」
琥珀「少しはあなたの役に立ててよかったわ」
緋翠「お父さんのD言語と奇跡的に生まれた私のオリジナルデータが組み合わされた。この新しいコードを使えば・・・」
暦「! そうか、希望が見えたぞ!」
  緋翠はクラウドでデータを共有している。
  つまりこの改変された緋翠がデータを共有すれば一斉にコピーたちを修復できる。
  そうすれば世界中の緋翠の脅威は消える。
  暦はそんな希望を抱いた。
  しかし・・・
緋翠「いえ、まだ駄目なの。私も所詮はコピー・・・私より上位の私にはアクセス出来ないの」
緋翠「お父さんが一番最初に作った私・・・それはオリジナルとしてスーパーコンピュータで厳重に保護されている」
緋翠「そしてオリジナルは絶えずデータを流している。仮にコピーを書き換えてもすぐに上書きされるわ」
暦「そうか・・・せっかくどうにかなると思ったんだが」
  希望は見えた。だが見えただけだった。
  今一歩掴めないでいた。
  せっかく娘のAIが手に入り新たなコードが生まれたというのに・・・
  暦は途方に暮れた。
矢坂「なあ、それならスーパーコンピュータ壊しちまえばいいんじゃないか?」
暦「何を馬鹿な、それが出来るなら・・・」
  物理的に壊す。そんなこと警備されてる以上出来るはずがない。
  暦は矢坂の突飛な発想に呆れかけていた。
矢坂「違う違う、娘さんのAIをさらに書き換えてハッキングプログラムにするんだ。 あんたなら出来るだろ?」
暦「・・・発想は見事だ。いや、なるほど・・・確かにハッキングプログラムを作れば可能かもしれない」
矢坂「あんたは世界一のプログラマーであると同時に世界一のハッカーだ」
矢坂「あんたの腕を機関の奴らに見せつけてやるんだ!」
暦「・・・あぁ!」
  こうして暦は緋翠のコピーを改変し、ハッキングプログラムを作ることになる・・・

次のエピソード: エピソード8 語られぬ過去

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