Ambivalent World

ラム25

エピソード5 再びの悲劇(脚本)

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〇諜報機関
  あれから暦は駄目元で国家研究機関に連絡を取った。
  緋翠のAIが企てているプラン、それを話すために。
  しかし国家研究機関は聞く耳持たない。
  それも無理はない、世界規模で見れば国家研究機関など末端に過ぎなかった。
  サミットのメンバーが国を動かし、国が国家研究機関を動かす。つまりメンバーをどうにかしない限り言うことなど聞くはずがない。
  だが暦はサミットなるものの存在すら知らなかった。あくまで国家研究機関が世界を変えようとしている・・・
  そう錯覚していた。
  メンバーからすれば国家研究機関など指のようなものだったにもかかわらず。
暦「くそ、世界が破滅しようとしているのに機関の奴らは何を考えているんだ!」
矢坂「やはり抜けて正解だったな。 機関は、国は狂ってやがる」
暦「・・・しかしどうにかして緋翠の陰謀を阻止しなくては」
  その時ふと暦がふらつく。
矢坂「おいあんた、大丈夫か?」
暦「・・・あぁ、すまない。 どうも疲れが溜まってるらしい」
矢坂「少しは休んでくれよ。またあんたに倒れられたらたまったもんじゃない」
暦「・・・しかし」
矢坂「それに現状手詰まりだ。 だったら無駄に消耗するより然るべき時に備えて休息を取った方がいいんじゃないか?」
  正論だった。
  確かに今倒れたら不測の事態が起きたときに対処できない。
  暦もそう判断した。
暦「あぁ、休ませてもらう」
  暦はしばらくぶりの休息を取った。

〇高級マンションの一室
暦「ただいま」
琥珀「お帰りなさい。 今日もお疲れさま」
  琥珀が笑顔で迎える。
  D言語を開発すれば少しは余裕が出来ると思ったが今は世界の危機だ。
  暦に余裕などなく、やはりなかなか家に帰れないでいた。
  妻には申し訳ない、そう思いつつ。
暦「琥珀、すまないな。 君を一人で家に放置して」
琥珀「あなたには使命があるんでしょ! 私の我が侭であなたの足を引っ張るわけにはいかないわ」
暦「・・・ありがとう」
琥珀「・・・ところで今日何の日か覚えてる?」
  唐突な質問だったが暦は即答する。
暦「君と初めて出会った日だ。 あの時も君は助けてくれたな」
琥珀「そう。 あなたったらあの時も無茶して」
暦「あぁ。君との出会いは未だに夢を見るほど強烈だった」
  そして暦は回想する。

〇渋谷のスクランブル交差点
  暦と琥珀の出会いは暦が大学生の頃であった。
  暦は本屋に行き、本を買おうとしていた。
暦「(レポート早く出さなきゃな・・・あの本置いてあるといいんだが)」
暦「(しかしどう書いたものか・・・俺、物理は苦手なんだよなぁ)」
暦「(はぁ、数学とプログラミングはA評価なのになんで物理は駄目なんだ・・・)」
  暦は考えながら歩いていた。
  そして女とぶつかる。
ヤンキー「ちょっと、どこ見て歩いてんのよ!」
暦「あぁ、すまない。つい物思いに耽ってた」
ヤンキー「おい、俺の女に何してくれてんだ」
暦「悪気はなかったんだ、すまない」
ヤンキー「こいつは繊細でな、お前のせいで怪我したかもしれないじゃねえかよ! 慰謝料払えよ!」
暦「いや、その・・・」
ヤンキー「そうよ! 私傷ついた! 穢されたわ!」
  周囲もその様子を面白おかしく見ていた。
  暦は困り果てていた。
暦「(くそ、厄介なのに捕まったなぁ・・・警察沙汰はごめんなんだが)」
  その時だった、救世主が現れた。
琥珀「もう、この人もちゃんと謝ってるんだしぶつかったくらいで酷い言いがかりよ!」
ヤンキー「なんだぁ? お前・・・」
  琥珀は暦の方を向いて言う。
琥珀「大丈夫? こんな人放置して逃げましょ」
ヤンキー「おいてめぇ何無視してくれてんだ!」
  ヤンキーは激高し、拳を振り上げる。
暦「!」
  慌てて暦が間に入り、代わりに暦が殴られる。
暦「ぐぁ・・・ぷっ・・・」
  暦はその場に情けなく倒れ込む。
琥珀「ちょ、大丈夫?」
ヤンキー「邪魔すんな!」
  ヤンキーがもう一度拳を振り上げようとした時だった。
ヤンキー「いくらなんでも殴らなくても・・・ それに女性を殴ろうとするなんて見損なったわ」
ヤンキー「え? 俺はお前のために・・・」
ヤンキー「・・・さよなら」
  そして女性は去ってしまう。
ヤンキー「お、おい、待てって!」
  ヤンキーは慌ててその後を追った。
琥珀「ねぇあなた、大丈夫?」
暦「あ、あぁ。すまない、助けて貰って」
琥珀「その、さっき私を庇ってくれたとき格好よかったわよ! 私は琥珀。あなたは?」
暦「・・・俺は暦」
  それから会話しているうちに同じ大学に通ってることに気付いた。
  二人は意外と話が合った。

〇テーブル席
琥珀「それでね、その時教授がね・・・」
暦「あぁ、俺も似たような経験がある」
  二人はすっかり息が合い、レストランで一緒に食事を取っていた。
琥珀「あなたも? 私たち気が合うわね」
暦「・・・そうだな」
琥珀「・・・ねぇ、あなたって恋人いる?」
暦「いや、いない。何故そんな質問を?」
琥珀「そう・・・」
  そして琥珀は顔を赤らめながら言う。
琥珀「私、あなたに一目惚れしちゃった」
暦「・・・え? だが俺たちはさっき知り合ったばかりだし・・・」
琥珀「私じゃ駄目?」
  暦も実を言うと琥珀が助けてくれた時に一目惚れしていた。
  まさに運命的な出会いと言える。
暦「・・・いや、俺も君のこと気になってた。俺で良ければ付き合って欲しい」
琥珀「・・・喜んで!」
  こうして二人は出会ったその日に付き合い、それから半年後には学生なのに関わらず結婚することになる。

〇高級マンションの一室
暦「・・・懐かしいな。思えば出会った日から君にはリードされっぱなしだ」
琥珀「そうよ、あなたに告白するのすっごく勇気がいったんだから」
暦「はは、すまないな」
琥珀「・・・でもあのとき勇気を出して正解だった。 出会ったときからずっとあなたのことが好きよ」
暦「あぁ、俺も君のことをずっと愛してる」
  暦は不器用なりに妻を愛してきた。
  琥珀もそんな暦のことを誰より理解して愛した。
暦「・・・そうだな、明日は一緒にショッピング行こうか。 君の欲しいものを何でも買ってあげるよ」
琥珀「まぁ、あなたったら・・・あなたとの時間より欲しいものなんて無いのに」
暦「君はほんと無欲だな。バッグでもなんでも買ってあげるのに」
  見た目だけでなく心も美しい妻。
  暦は幸せを噛みしめた。

〇渋谷のスクランブル交差点
  暦と琥珀は数年ぶりに一緒に街に出かけた。
  琥珀は特に欲しいものは無かったが上機嫌だった。
琥珀「見て、この洋服かわいい!」
暦「君によく似合うな」
琥珀「もー、あなたったら!」
暦「このバッグなんて君好みじゃないか?」
琥珀「えぇ。でも別にいいのよ」
暦「本当にいいのか? なんでも買ってあげるのに」
琥珀「こうしてあなたと一緒にいられることがなにより幸せなの」
暦「・・・俺も君との時間が一番幸せだ」
  次第に二人は手を繋ぐ。
  その時だった。
  銃声が響いた。
暦「!? なんだ!? 琥珀、危ない。逃げよう」
  暦は慌てて妻を庇おうとした。
  しかし・・・
琥珀「・・・かはっ」
  琥珀は血を口から流し、倒れた。
  先ほどの銃弾が当たったらしい。
暦「・・・馬鹿な。 琥珀、しっかりしてくれ、琥珀!」
  銃を撃ったらしい人物が逃げるのが視界の端に映った。
  しかしそんなものなどどうでもいい。
琥珀「あなたと・・・もっと・・・一緒にいたかった・・・」
暦「琥珀? 目を開けてくれ!」
  そして琥珀は息絶えた。
  最愛の娘に続き、最愛の妻まで失ってしまった。

〇諜報機関
琥珀「・・・そう、私のオリジナルが・・・」
暦「君を守ることが出来なかった。 俺なんかと一緒にいるから命を狙われたんだ」
  自分が琥珀を不幸にしてしまった。
  暦は自責の念に駆られた。
暦「俺が全部悪いんだ・・・ 俺なんかが君と付き合うから・・・」
琥珀「・・・自分を責めないで。 私はあなたといられて幸せだった。 あなたと付き合ったことを後悔した事なんて一度も無い」
琥珀「紛れもなく私の意志を宿した私が言うんだから間違いない。 私は今も昔も、これからも幸せよ」
暦「・・・琥珀」
  それを聞き暦はますます涙を流した。
  なんとしても失いたくなかった。

〇研究機関の会議室
石井「しくじった、だと?」
  暗殺は戸籍のない、貧しい者を雇って行われた。
  適当な人間に任せるべきでなかった。
  お陰で警備は強化され、暦の暗殺は難しくなってしまった。
石井「まあいい。奴如きに今更どうにか出来るとも思えんしな」
  暦の妻を殺すことは出来た。
  石井はひとまずそれで満足した。
石井「それよりクローンの製造は順調かね」
「あぁ、大規模な増産を政府に決定させた。 今製造に向けて準備をさせている」
石井「そうかね」
  石井が満足げに笑う。地獄への道のりはこれでもまだ途中であった・・・

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