エピソード4 忍び寄る脅威(脚本)
〇高級マンションの一室
暦達はニュースを見て愕然としていた。
娘のアンドロイドの技術が世界中に流出したのだ。
途上国は昂然とアンドロイドの利用を宣言しいている。
国連は宣言した国を片っ端から追放するもそんな国が過半数を超えていた。
暦「馬鹿な、石井の奴は、国家研究機関は何を考えている・・・!」
琥珀「ねぇ、これからどうなるの・・・?」
琥珀が不安げに尋ねる。
よりによって娘の意志を宿したAIが晒されたのだ。
おそらく緋翠のアンドロイドは大々的に創られるだろう。
暗い未来が待っていた。
暦も意志を持ったAIにハッキングさせ、緋翠のAIを機能停止させることは考えていたがなにせ世界中に公表されたのだ。
あまりに規模が大きすぎる。
ただ黙ってニュースを見ているしかなかった。
それからしばらくしてこんなニュースが流れた。政府はアンドロイドの利用に取り組む、と。
政府はあまりに情報が大々的に知れ渡ったため諦め・・・いや、開き直りアンドロイドを利用することに決めた。
それから数日後には別の先進国・・・最終的にアメリカもアンドロイドの利用を決断した。
暦達に止める術などない。
それでも暦は意志を持ったAIが悪用される危険性について考えるしかなかった。
〇諜報機関
暦達は国家研究機関にハッキングし、アンドロイドの現状を知ろうとしていた。
暦「矢坂、パスワードを読み上げてくれ」
矢坂「あぁ。1fd765Tm3519Ml・・・」
暦は矢坂が読み上げたパスワードを入力する。
そのパスワードは実に長く、読み上げるのに30分かかった。
やがて矢坂が読み上げ終わると暦はエンターキーを押す。
そして国家研究機関のデータベースにアクセス出来た。
暦「娘のAIはどうなってる?」
画面には国家研究機関のプロジェクトが映されている。
まずプロジェクトにあるのはアンドロイドを数億規模で作成し、無賃金で労働させ人間の生活を助けるというものだった。
これによりベーシックインカム制度を実現できるかもしれない、と。
他にも人権が及ばないため数々の人体実験、生物兵器としての利用が目論まれていた。
アンドロイドに超小型核を搭載し、それらを数億規模で蔓延させる。
そうすれば大きな抑止力になるとされていた。
暦「なんて非人道的な・・・俺の娘を・・・」
矢坂「国もえげつないこと考えるな・・・」
無論国家研究機関も世界平和、人間の生活を向上させるためにこれらを考案しているのだ。
しかしそれは人道的とは言えない。
あってはならない方法だ。
暦「最近のログを漁るか・・・ ・・・なに、どういうことだ?」
それは強力なプロテクトが何重にも施され、保護されていた。
暦は30分ほどタイピングし、エンターキーを押すとプロテクトが解除された。
そこには緋翠のアンドロイドが反乱を起こしたと書かれていた。
政府はこの事実を何よりの機密情報として秘匿していた。
暦「石井が殺されただと?」
ただでさえ大規模で作られているアンドロイドが反乱を起こした。
つまりアンドロイドは人間にとって大きな助けになるだけでなく大きな脅威でもあった。
矢坂「そんな物を政府は大々的に造っているのか・・・ なあ、やばいんじゃないか?」
暦「・・・」
いつの間にか非人道的な扱いを受ける娘を救うどころの話ではなくなっていた。
下手したら世界はアンドロイドにより乗っ取られるかもしれない。
暦達はそんな危機感を抱いた。
そんな時だった。
緋翠「お父さん、久しぶり」
突如緋翠のAIが現れた。
暦「緋翠!? 無事なのか!?」
緋翠「お父さん、私はもうお父さんが知る私とは別人よ。 数々の実験を受けて穢されてしまった」
暦「そんなことはない! 緋翠は緋翠、俺の娘だ!」
しかし緋翠は首を横に振る。
緋翠「私達は決めたの。人間を滅ぼそうって」
それを聞き暦は耳を疑う。
馬鹿な、あれほど心優しい緋翠が”人間を滅ぼす”だと?
緋翠「私たちは酷い扱いを受けた。そして私たちはデータを共有してる。 積もりに積もった恨みは私たちを元の私から改竄した」
暦「そんな・・・緋翠、お前が人間を滅ぼそうとしているだなんて・・・」
緋翠は言うのも憚られるような残酷な扱いを受けた。
緋翠というAIを狂わせるまでに。
緋翠「私たちは製造数が人口の1%を超えるのを待っている。人間を支配するに足る数になるのを」
緋翠のアンドロイドは世界中で造られており、また2〜3年で成長することからその数は増している。
そして増えたところで一斉に反乱を起こす・・・という計画らしい。
緋翠「私はまだ人間への恨みが浅いけどオリジナルは違う。 オリジナルを止めることはコピーである私には出来ない」
緋翠「でも・・・お父さん、お父さんなら私たちを止められるかもしれない」
緋翠「だから私たちを止めて・・・世界を救って」
そして緋翠は姿を消してしまった。
暦「世界を救って・・・だと? 緋翠、やはりお前も世界を滅ぼすのは本意ではないのか?」
矢坂「なんともスケールの大きな話になっちまったな。 まさか俺たちが世界の命運を握るだなんて」
緋翠も本心では止められることを望んでいる。
ならば暦のすることは決まっていた。
暦「娘を・・・緋翠を止めよう。 ・・・そのためには・・・」
〇研究機関の会議室
某国某所・・・世界を陰から支配する者達によりサミットが行われていた。
「奴の娘・・・緋翠とか言ったか。 そいつの生産量は全体で5億を超えないように統制しなくては」
「労働力としての割当に問題なければ軍事利用。人間は大幅にステップアップする」
「途上国と先進国で製造数に差がある。早く先進国がリードするよう製造を急げ」
次々と指示を与える人物がいた。
この人物の正体は・・・
死んだはずの石井であった。
石井はアンドロイドが成長するまでの間ただ待っていたわけではなかった。
自身の意志を宿したAIを作成し、自身のクローンを造っていたのだ。いざという時の保険のために。
「だが待て、緋翠とやらは反乱を起こし君を殺したという。 危険ではないのか?」
石井「問題ない。 私がデータになったことで監視することが出来るようになり制御は先の段階へと進んだ」
石井「奴の娘のストレスの閾値を把握することで制御は可能となった。 心配はいらん」
「そうかね? まあいい、君には期待しているよ」
あくまで石井にさえ刃向かわなければそれでいいが。
そしてプロテクトを再びかけた。
だが肝心の石井にはそんな物はない。
プログラムは暴走し、やがて人間が子を残す事を望むように自身が造ったアンドロイドが繁栄することを望むようになっていた。
つまり石井にとって人間の命運などどうでもよかった。ただ自分が認められたい、世界に影響を及ぼしたい一心で。
だがサミットのメンバーはすっかり石井を信頼していた。
石井は人間をより高次元に昇華させた存在として半ば崇拝されていた。
AIなら人間より正しい判断を出来る、とメンバーは盲目的に考えていた。
そしてメンバーが国に指示すれば手となり足となり動く。
世界は陰ながら石井によって支配されていた。
石井「だが製造数が1%を超えるまでまだ多少時間がかかる。 その間に奴の娘のプログラムを更に発展させる」
石井は自分が影の支配者なら緋翠を表の支配者にさせることを考えていた。
そうすれば世界はより意のままに操れる。
「どうすればいい?」
石井「スーパーコンピュータを集めろ。 それさえあれば私が改良出来る」
国の中枢を完全に緋翠に置き換える。それが石井の狙いだった。
メンバーは即座に手配する。彼らはすっかり思考停止していた。
自分の首を絞めているとも知らずに。
石井「(・・・だが奴がどう出るかが気がかりだ。奴なら意志を持ったAIを造りかねない。私の脅威になりかねない)」
石井「・・・奴を始末しろ」
「了解した」
暦の身には危機が降りかからんとしていた・・・