エピソード45(脚本)
〇湖畔
悲鳴が聞こえたファティマ湖の方を向いたニルは、ごくりとつばを飲み込んだ。
悲鳴を聞いた行商隊の人たちも、ざわざわとし始めていた。
すぐに立ち上がり、剣をとって湖に向かおうとしたニルはふと以前アイリが水浴びしていたときのことを思い出す。
ニル(あのときはひどい目にあわされたな・・・)
アイリの怒った姿を思い出し、ニルは苦笑した。
ニル(今回もまた勘違いってことも・・・)
しかし湖から大きな水しぶきが上がるのが見えて、ニルはすぐに笑みを消した。
・・・今回は勘違いではないみたいだ。
ニル「みなさんはここで待っていてください! 俺が様子を見てきます!」
不安げな表情の行商隊の人たちにそう声をかけると、ニルは森へと飛び込んだ。
素早く湖へと駆けつけたニルは、湖の光景に目を見開いた。
そこには馬車も丸呑みにできそうな巨体をもった蛇型のギアーズが、湖の中からアイリとエルルを襲っていた。
〇湖畔
――その少し前。
突然湖の中から現れた蛇型のギアーズに襲われたアイリとエルルは、タオル一枚のきわどい姿で猛攻をよけ続けていた。
アイリ(くっ、武器を取りにいこうとすると必ず邪魔してくる・・・、やっかいね)
ふたりは幾度も着替えと武器を置いた森の方へと逃げようとするが、そのたびに蛇型のギアーズに阻(はば)まれ陸に戻れずにいた。
今のところアイリもエルルもなんとかよけられているが、足場の悪い水辺ではそれにも限界がある。
防具もつけていない身で攻撃を受ければひとたまりもないだろう。
ふたりは次第に焦り始めていた。
そしてついに、エルルが着地と同時に水中の水草に足を取られ、よろめいてしまった。
エルル「わっ! わっ!」
蛇型のギアーズはその隙を逃さず、エルルを丸呑みにしようとまっすぐ突っ込んできた。
アイリ「エルルッ!!」
エルル「うぐぐぅ・・・!」
エルルは噛みついてきたギアーズの口を必死の形相で抑えていた。
しかしその腕もふるふると震えていて、長くは持ちそうにない。
アイリ(せめて武器があれば・・・)
「アイリ! エルル!」
突然森の方から声をかけられ、アイリは驚いて振り向いた。
アイリ「あ、え、ニ、ニル!?」
アイリは駆けつけたニルを見て状況も忘れて思わず身体を手で隠す。
アイリ「ああああんたなんでここに!?」
ニル「え? いや、悲鳴が聞こえたから・・・」
ニル「ってそんな場合じゃない! アイリッ! これ!」
ニルはふたりの着替えの中から見つけたアイリの双剣を、アイリに向かって投げる。
アイリ「!!」
アイリはそれを空中でキャッチすると、そのままエルルに噛みつこうとしている蛇型のギアーズに切りつける。
シャァアア!
蛇型のギアーズは苦しそうな声をあげる。
それを見てエルルはつかんでいるギアーズの頭を投げとばした。
ニル「はぁぁぁ!」
湖に大きな水しぶきが上がる。
それを見てからニルはエルルに声をかけた。
ニル「エルル! 大丈夫?」
エルル「はい! ニルさん、助けに来てくれたんですね!」
ニル「う、うん・・・まぁ」
ニルはエルルの水のしたたる艶(あで)やかな姿を見て、思わず頬を赤らめて目をそらした。
アイリ「・・・ちょっと、エルルにもはやく武器を」
ニル「え、あ、うん! エルル! いくよ!」
ニルはエルルにもハンマーをほうり投げた。
エルル「はい! ありがとうございます!」
エルルはハンマーをキャッチすると、アイリとともに湖のほうに向きなおる。
そこには体勢を立て直し、怒りに燃えた蛇型のギアーズが体表を赤く光らせて3人をにらみつけていた。
アイリが切りつけた傷は浅く、それももうふさがりかけている。
アイリ「・・・来るわよ!!」
3人が身構えたそのとき・・・。
突然そばの茂みから一筋の赤い風が飛び出した。
満月が浮かぶ夜空に艶(あで)やかな赤髪がなびく。
???「オルタナ・ブレイヴ!!」
赤い風は飛び出した勢いそのままに蛇型のギアーズを貫く。
シャァァアアア!!
一撃で首から上を飛ばさされたギアーズは激しくのたうちながら湖へと倒れていった。
「!!」
そして、ギアーズを貫いた者は・・・、そのまま湖へと落ちていった。
ドボンッ
「・・・・・・」
ニル、アイリ、エルルはぽかんと口を開けてギアーズを倒した者・・・、水面から顔を出したエミリアを見つめた。
エミリアは勢いよく水をかきわけて、槍を片手に岸へと上がる。
柔らかくしなやかな肌に、エミリアの美しい髪が張り付いている。
満月だけが照らすエミリアの身体は、息を飲むほど美しかった。
エミリアは3人を見て、いたずらっぽい笑顔を浮かべながら言った。
エミリア「どうだ? 粋な登場だっただろう?」
〇湖畔
着替えてからキャンプ地に戻ってきたニルたちは、焚き火で暖まっていた。
マデオは一緒についてきたエミリアを見てとても驚いていたが、商売人らしくすぐさま切り替えると長々と挨拶をしていた。
周りでは、夜も遅いというのに、ギアーズを討伐したと聞いた商会の者が回収と解体の準備に駆け回っていた。
本格的に回収するのは明日になるそうなのだが、その前にいろいろとやることがあるらしい。
ニルたちも手伝おうとしたが。
マデオ「そんな・・・! 巨大なギアーズを討伐していただいた後にそんなこと頼めませんよ!」
マデオ「それにこれは私たちの仕事ですからね! みなさんはゆっくり休んでください」
と、断られてしまった。
遠くにきびきびと指示を出すマデオの姿が見える。
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